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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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演習 5

「ふぅ……そういう事ね。」

冷静になったシーラは、アリーナにイヤリングの魔道具で伝言を送る。

「アリーナさん、そのままメイさんをお願いします」

返事はなかった……余裕がないのだろう……が、ちゃんと伝わっていることは間違いない。


カズトによって指摘された「悪い結果ではない」という事。

あのままメイを他所に投入されていたら、負けは確定していた。

しかし、現在、敵の最大戦力であるメイは、アリーナによって抑え込まれている。

メイがその場にいる以上、眷属扱いのバトルメイドたちも動けない……そういう決まりになっているからだ。

また、二人の発するプレッシャーのため、北門付近の魔物たちは、その場から動けずにいる。

アリーナが倒した魔物の数と残っている魔物たちの数からみて、オークやトロールといった中位クラスの魔物は、他にはいないとわかる。

また、メイたち以外の上位種は、すべて南門に向かっているようだが、反撃以外の攻撃はしてこないので、南門を守る冒険者たちには専守防衛を徹底させれば、刻限までは持たせることが出来るだろう。

となれば、あとは東門を死守すること……。


「となれば……勝負は最後の一刻ね。」

シーラはそう考えると各所に伝言を飛ばすのだった。



「一体どういうことだよ。」

南門の、防衛の指揮を執っている、Aランク冒険者パーティ「暁の翼」のリーダー、カンナギがギルド長のガイゼルに詰め寄る。

「どうもこうも、言ったとおりだ。」

「だから、それがわかんねぇって言ってるんだよっ!」

カンナギが先ほど受けたのは「明日の夕刻までウルフを近づけるな。上位種には手を出すな。」というもの。

言ってることは単純明快なのだが、わからないのはその意図するところだ。

今、シャガートの街は、魔物に取り囲まれている。

東門では、今にも押し込まれそうなところをギリギリ凌いでいるというし、北門に至っては、女の子が一人で守ってると聞く。

たとえそれが噂に名高い「勇者姫」だとしても、一人に丸投げするのは、Aランク冒険者として、何より、一人の男としての矜持が許さない。


幸いにも、この南門はウルフ種の数が多いとはいえ、カタパルトもあるし、比較的余裕がある。

なぜかわからないが、上位種であろうオーガたちは、離れた所から見ているだけで、攻撃の気配はない。

おかげで現在は、カタパルトの威嚇だけでウルフ種を抑え込んでいて、冒険者たちには余裕が出来ていた。

だからこそ、北門もしくは東門へと向かうべきじゃないのか?

カンナギはそう思うのだが、ギルドマスターの言葉は「この場を死守」の一言だけ。そして「余裕があるなら休んで英気を養え」とのことだった。

今、この瞬間にも、他の門では死闘を繰り広げているというのに、休んでなんかいられない。ギルドマスターであればそれくらいのことはわかっているだろうに。


カンナギの胸中に渦巻く焦燥を、ガイゼルは静かな目で受け止めていた。


「……お前の言い分はもっともだ、カンナギ。」

ガイゼルはそう前置きしてから、低く、しかしはっきりと言葉を紡ぐ。

「だがな、今は“戦力を動かす時”じゃない。“時間を稼ぐ時”だ。」


「時間だぁ?」

噛みつくように問い返すカンナギに、ガイゼルは南門の外――闇の向こうを一瞥した。


「ウルフどもが妙に統率されているのは気づいているな?」

「ああ。斥候も、囮も、連携も、野生にしちゃ出来すぎだ。」


「だとしたら答えは一つだ。」

ガイゼルは地図の上に指を置き、南門の外側をなぞる。

「奴らの“本命”は別にいる。そして、そいつが動く条件が――明日の夕刻だ。」


カンナギは言葉を失った。

本命。条件。時間指定。

すべてが不穏すぎる。


「……じゃあ、北門は?」

「勇者姫に任せておけば心配ない。」

即答だった。

「東もな。厳しい戦いになるが、落ちることは想定していない。北門については、《《上》》からの指令もある。現に、勇者姫は敵の最大戦力を足止めしてくれているそうだ。」


女の子が一人で守っている、という噂の裏に、ギルドマスターなりの算段があることは理解できるそして、ギルドマスターも、それより上からの指令に逆らえないことも……。

だが、それでも――。


「それでもよ、ガイゼル。」

カンナギは拳を握りしめた。

「仲間が死ぬかもしれねぇって時に、ここで待てってのは……」


「だからだ。」

ガイゼルの声が、わずかに強くなる。

「お前たち『暁の翼』が消耗するわけにはいかん。明日の夕刻、“それ”が姿を現した時、真正面から止められるのは――現在余裕がある南門の戦力だけだ。」


沈黙が落ちた。

ウルフの遠吠えが、夜気を震わせる。


「……もし、俺が命令を破ったら?」

試すようにカンナギが言う。


ガイゼルは一瞬だけ目を閉じ、そして開いた。

「その時は、街が滅ぶ可能性が跳ね上がる。それでも行くなら、止めはせん。」


カンナギは歯を食いしばり、やがて深く息を吐いた。


「……くそったれ。」

悪態とともに、背を向ける。

「わかったよ。ここを死守すりゃいいんだろ。明日の夕刻まで、ウルフ一匹たりとも近づけねぇ。」


その背中に、ガイゼルは小さく言った。


「信じているぞ。だからこそ任せた。」


南門の火が揺れる。

嵐の前の静けさの中で、時間だけが、確実に刻まれていた。



キィンッ!

金属同士がぶつかり合う高音が、張りつめた空気を切り裂いた。


メイの剣は迷いがない。鋭く、速く、そして正確だ。連撃の一つひとつが洗練されていて、剣術の完成度では明らかに彼女が上だった。斜めから振り下ろされる一太刀を、アリーナは半歩引いて受け流し、返す刃を最小限の動きで弾く。火花が散り、手首に鈍い衝撃が残る。それでも体勢は崩さない。

「見事だね、アリーナ」

剣を交えたまま、メイは感嘆を隠さずに言った。

「この攻めをここまで捌けるなんて、大分腕を上げたね。相当鍛えてる」


だがアリーナは唇を噛み、言葉を返さない。称賛されても、胸に浮かぶのは悔しさだけだった。攻める余裕はなく、防いで、防いで、ただ耐えているだけ。褒められるのは“負けていない”という事実であって、“勝っている”わけではない。

――それでも。

彼女の腕に力がこもる。足が軋み、呼吸が荒くなっても、剣を下げるつもりはなかった。ここは譲れない。退けば、その先にあるものが壊れてしまう。

再び剣がぶつかり合い、鋭い音がアリーナの決意を代弁するかのように響いた。防戦一方でもいい。今はただ、この場所を――この瞬間を、何としても守り切るただそれだけの想いで剣を振るう。



キィン、キンッ――。

剣戟は途切れない。火花を散らしながら、二人の距離は常に刃一枚分を保っていた。


「……ねえ、アリーナ」

メイは斬り結びながら、ふっと声の調子を落とした。横薙ぎの一撃を放ち、その反動で体を回しつつ続ける。

「私がホムンクルスってことは知ってるよね?」


突きが来る。アリーナは剣の腹で受け、弾く。衝撃が腕に走る。

「だからね、能力に“上限”があるの。作られた時点で、これ以上伸びないって線が、最初から引かれてる」

メイの剣は相変わらず冴え渡り、無駄がない。その完成度が、言葉の重みを裏打ちしていた。

「訓練は意味がない。何度繰り返しても、できることは変わらない」


打ち下ろしと同時に、メイは微笑む。

「でも、あなたは違うわ」


連撃を捌き切り、アリーナは歯を食いしばったまま間合いを詰めさせない。

「愚直に、何度も何度も修練して……。血を吐くほどやって、ちゃんと“強くなっている”」

剣と剣が噛み合い、鍔迫り合いになる。至近距離で、メイの瞳がまっすぐアリーナを射抜いた。

「であったころと比べても、あなたは強くなっている。それって、簡単なことじゃないよ。少なくとも、私にはできないわ。」


押し合いが弾け、再び距離が開く。

「だからね」

メイは剣を構え直し、心からの敬意を込めて言った。

「今のあなたを、素直に絶賛します。防いでるだけ? 違います。これは“積み重ねた人間”にしかできない剣です。……あの方の横に並び立つにふさわしいと、この私が認めます。」


金属音が再び響く。その中で、メイの言葉だけが、不思議なほど真っ直ぐに残っていた。



二人の打ち合いは、なおも続く。

もはや言葉は交わされない。呼吸と剣、そのすべてが意思となってぶつかり合っていた。


はた目から見れば、互角。

互いに一歩も譲らず、致命の一撃は未だ生まれていない。だが、その均衡は、静かに、確実に傾き始めていた。


「……ほんと、凄い。だけど……そろそろ終わりですね。」


不意に、メイの声が落ちた。感嘆と惜別が混じった、静かな声音。

その直後――剣の軌道が変わる。


キィンッ!

一段、速い。

否、二段、三段と、明確に加速していた。今まで抑えられていた刃が、堰を切ったように牙を剥く。


夕刻が迫っている。

傾きかけた陽が、二人の影を長く引き伸ばす。その朱に染まる空の下で、アリーナの視界はわずかに揺れた。


――重い。

腕が、脚が、肺が。

昨夕から一度も途切れなかった戦いは、確実に彼女の体力を削り尽くしていた。剣を受けるたび、衝撃が芯まで響き、反応が半拍遅れるのを自覚してしまう。


それでも、剣は下げない。

ここまで来た。ここまで守った。

だが、メイの刃は容赦なく、その“限界”を正確に突いてくる。


キン、キィンッ――!

弾いたはずの剣が、完全には逸らせない。足が半歩、遅れる。

均衡は、まだ崩れてはいない。だが――終止符は、すぐそこまで来ていた。


沈みゆく夕陽が、最後の戦いを照らしていた。



「アリーナ、あなたはよく頑張った。誇っていい。」


夕闇が降り始める中、地面に倒れ伏したアリーナへ、メイは静かにそう声をかけた。剣はすでに下ろされ、その切っ先はもはや彼女に向けられてはいない。


勝負は、最後まで互角だった。

剣の技も、判断も、心の強さも――決定的な差は、どこにもなかった。


明暗を分けたのは、ただ一つ。

スタミナ。


ホムンクルスであるメイは、魔力が巡り続ける限り、疲労という枷に縛られない。筋肉は悲鳴を上げず、呼吸は乱れず、時間そのものが味方をする。

一方で、アリーナはただの人間だった。血が流れ、肺が焼け、限界が必ず訪れる存在。


それでも――

昨夕から丸一日、剣を握り続けたこと自体が、人間離れしている。何度も倒れてもおかしくなかった。とっくに膝を折っていても、誰も責めはしなかっただろう。


それでも彼女は立ち続け、守り続け、最後の一瞬まで剣を離さなかった。


だが、無尽蔵のスタミナを持つホムンクルスには、ほんのわずかに届かなかった。

その差は残酷で、そしてどうしようもない世界の理だった。


メイは夕焼けに染まる空を一瞬見上げ、それからアリーナへ視線を戻す。

そこにあるのは勝者の慢心ではなく、深い敬意だった。


敗北は、弱さの証ではない。

この戦いでそれを示したのは、他ならぬアリーナ自身だった。

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