演習 4
今回の戦い、事前にある程度の取り決めがあり、魔物軍の全容は明かされていた。
まず魔物軍の戦力について。
基本はゴブリン、コボルト、ウルフの下位種。それらを指揮する、ホブゴブリンやスターファングなどの上位種が数体。
魔物中位に当たる、オークなどは200を超えないこと。
上位個体は、危機感を煽るため、数体用意するが、例外を除いて反撃以外は攻撃をしない。
戦いは、シャガート攻城戦になるが、逃げ出す住民に対しては見逃す……ただし、西側から逃げ出した者のみ、他門からの逃亡者についてはその限りではない。
降伏したものに対しては、それ以上の危害は加えない。捕らえたのが女性の場合は、速やかに拠点の定められた地点へと送る。
……などのとりきめがしてある。
それに対してシャガート側には制約らしい制約はない。
これは、シャガート軍に遺された戦力が、皆目わからなかったことが第一に挙げられるが、魔物軍……というか、カズトの軍勢には、先ほど挙げたシステムがあるため、魔物軍の制約というのは、ハンデに近いものなのだ。
だから、他にも、シャガードに遺された戦力が一定水準を下回っていれば、魔物軍の数を減らすとか、カズト、エルは、結果が出るまでは、双方に対して口出し、手出しをしないが、シャガード軍に対しては、状況に応じえアドバイスを送ることが出来るなど、戦力のバランスがとれるようにしてある。
まぁ、それ以外にも隠された理由があるのかもしれないが、シーラには見当もつかなかった。
それらの取り決めの中には「アリーナを戦力として使わない」などという制約はなかった。だからこそ最大戦力として、切り札としてアリーナを投入したのだ。
リラは、指揮官としては素人……それはシーラとしても同じなのだが、少なくとも、幼いころから軍事派閥の中核を担うパンニャ家で育ち、教育を受けてきた分、シーラには一日の長がある。
だからこそ、こういう状況……攻城戦において戦力が拮抗した場合……に下す判断に予想がついた。
一か所の戦力が拮抗したのなら、それらを覆すだけの戦力を投入するか、他所を攻めるかしかない。
だからリラは北門か南門……あるいはその両方に奇襲部隊を仕向けてくるだろうと予測した。
現状では、大半の勢力が東門に詰めているが、聞いていたよりウルフ種の導入数が少ない。また、オークやトロールといった大型魔物の姿も見えない。
温存しているとも考えられるが、ゴブリンたちが混線している中にオークを投入しても、あまり効果が表れないだろうというのは予測される。
だったらどうするか?
別の門に向かわせるのがいいというのは容易に想像できる。
そして、こちらとしては、現状東門の戦力を割くことはできず、余力もないとなれば、他門を狙われれば、成す術もなくなる。
だから、南門のカタパルトは、移動させずにそのまま設置しておいた。
東門を守っているアヴグストの部下からは、再三再四、カタパルトの移動を要請されているが、スルーしてる。
そして、戦力を東と南に振り分けたことによって、完全に無防備になった北門にはアリーナがいる。
彼女なら、一人でもオークの100や200は物の数でもないだろう。
その判断が正しかったことは、先ほどの報告で証明された。
一応、相手が執る手段としては、そのまま包囲し、兵糧攻めというのもあるのだが、今回の戦いでは、気にしなくてもいいという尾が多き。
なんといっても時間は限られているのだから。
この町を魔物たちが包囲したことによって、領都を攻めているハルゲル軍への造園や物資が届かなくなって数日。エルやシリル達の工作によってハルゲル軍は、明日にでも潰走するだろうとの報告を受けている。
ハルゲル軍が潰走したという連絡が、この町に届くまでは、早くても2日かかるから、その前にはこの茶番を終わらせなければならない。そうでなければ、今度は領主相手に色々と策を張り巡らさなければいけなくなるから。
すでに、この町の代表たちからの「降伏する」という言質はとり、誓約までさせたから、ここはもうカズトの領地だ。
だからこの戦いはあくまでも「演習」であり、刻限は明日の夕刻まで。勝っても負けても問題はない……シーラの乙女の尊厳以外は。
「公開エッチなんて、何てこと考えるのよ、ご主人様はっ!」
カズトと出会った当初は別として、あれからいろいろ経験してきたシーラにとって、もはやカズトとのエッチは忌避するものではなく、むしろ、エルによって止められているため、機会があれば結ばれたい、と切望するものでもあったっため、カズトが望むなら、と拒否する気はないのだが……
「だからといって公開はないでしょうがっ!」
シーラだって夢見る乙女なのだ。初めては二人きりでロマンチックに……と考えているのに……見知らぬ者たち大勢の前でだなんて嫌すぎる。
しかし、この条件をのまなければ、パンニャ領を見捨てると、エルに言われてしまっては、承諾するほかなかった。
ちなみに、シーラが勝った場合は、リラが何らかのペナルティを受けるという事なのだが、ただでさえ、リラの方が有利な状況なのだ。自分の尊厳を守るためには、リラのことを考慮するような余裕はなかった。
だから、取り決めの隙をついて、相手も使うとは思ってもいないであろう、「勇者姫アリーナ」を投入したのに……。
千里眼を通してみるシーラの目の前には、アリーナと対峙しているメイの姿があった。
大剣を軽々と抱え、アリーナに突き付けている、カズト魔王軍最強の戦士「メイ」。
真っ向から対峙するのは、少し短めのロングソードを、それぞれの手に構えた「勇者姫アリーナ」。
アリーナは普段は片手にしか剣を持たないが、両手でそれぞれ持っているという事は、それだけメイが強敵と判断したからなのだろう。
現に二人とも、構えを解かず、一歩たりとも動かない……いや、動けないのか?
シーラは一旦千里眼を切り、イヤリングを模した魔道具に魔力を通す。
「にゃんでメイがいるのよぉっ!ズルいっ!」
魔力が通り、相手と繋がると同時にシーラは叫ぶ。
『ズルいといわれてもだなぁ、リラの判断だし、ルールに抵触はしていないだろ?そっちがアリーナを使ったように……さ?』
「うぅぅ……それはそうですけどぉ……。」
『……まぁ、俺としてはどっちにも負けてほしいと思っているけど、……仕方がないかあ一つだけアドバイスをしてやるよ。』
「負けてほしいって、そこは負けてほしくないっていうところでしょっ!」
『まけてくれないとエッチが出来ないじゃないか。それはそうとして、今の状況は、シーラにとっても悪くはない、それに気づいているか?』
「カズトのバカぁ……イジワルぅ……でも、ありがと……。」
シーラは通信を切る。カズトの一言で、情況が整理できた。
突然の出来事でパニックを起こしてしまったが、よくよく考えれば、結果としてはわずかにプラスなのは違いない。
アリーナという切り札を使用してしまったがために、相手に、メイという切り札を使わせてしまい、こちらの最大戦力を封じられてしまった。
ここだけ切り取ってみれば、一見不利のように見えるが、実際はそうではない。
まず、シーラがアリーナを投入しなければどうだったか?
防御のない北門はあっさりとオークたちによって破られていただろう。
だからといって、北門の防衛のために戦力を割いていたら……?
現状で、何とか拮抗している戦力なのだ。北門に戦力を割いた時点で押し込まれるのは目に見える。
つまり、アリーナを投入しなければ負けていた、という事だ。
そして、アリーナを投入したことで、リラはメイを投入し、アリーナに充てた。
一見して、正しいように思えるその策だが、実は、これはリラの失策である。
最強の駒に最強の駒を充てる……結果は共倒れか千日手。
現にアリーナとメイは互いにけん制し合って動けずにいる。
シーラがアリーナを投入したことで、だったらメイを投入、というところまではよかった。しかし、投入する最強の駒を、相手の合わせることはない。例えば、メイを東門へと投入する。同時に北門に残った戦力を差し向ければ、アリーナが東門にたどり着くまでにかなりの時間がかかる。
その間にメイが東門の防御を突破することになる。
取り決めでは「上位個体は反撃以外の攻撃をしない」となっているが、だからといって城壁を駆け上る敵に対し、攻撃をしないでいられるものはいないだろう。
そして、攻撃したが最後、メイの反撃によって防御兵は無力化される。後は、妨害のなくなったゴブリンたちによって門が破られるだろう。
北門の防御を破棄してアリーナが駆け付けた場合は、守りのない北門が破られる。
つまり、この勝負は、最初から90%の確率でシーラ側の負けが確定していたというもの。
しかし、ここで、リラがメイをアリーナに充てる、という失策を犯したせいで、シーラにも勝ち目が見えてきたのだった。
あけましておめでとうございます。
お約束ではありますが、深夜0時0分の投稿ですw
いつもより早いですが、いつもの時間に次話を投稿……などという事はありませんw
私の過去作などを読み返しながら、まったりとお正月を過ごしていただければ幸いです
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