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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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演習 1

「ゴブリン隊を前へっ!コボルト隊もいっしょにいってくださいっ!」

リラが、少し焦った声で指示を飛ばす。

それも仕方が無い事だろう。

こちらの戦力は、ゴブリン・コボルト混合部隊が5千に、4千頭のウルフファングの群れ。それらを率いるホブゴブリンやゴブリンエリート、スターファングやタイガーウルフと言った上位種がそれなり。それに加えて、オークが80とトロールが120。上位魔族の眷属であるオーガをはじめとした上位個体の魔物を含め、総勢1万を超える軍勢を、素人同然のリラが指揮しているのだから。


相手側がいかに堅牢な城壁都市と言えども、これだけの軍勢を率いていて「堕とせませんでした」では、面目が立たないだろう。

実際、相手の都市「シャガート」は陥落目前だった・・・・・・シーラが都市に入るまでは・・・・・・。



広間には、重苦しい沈黙が垂れ込めていた。

分厚い石壁の向こうから、時折響くのは魔物の咆哮と、崩れ落ちる建物の鈍い音。それはこの街が「安全である」という神話が、音を立てて崩壊している証でもあった。


「なんてことだ……なんてことだ……」


街長アヴグストは、豪奢な椅子に深く腰を沈めたまま、額に浮かんだ脂汗を拭いもせず、ただ同じ言葉を繰り返していた。

彼の脳裏を占めているのは、市民の命ではない。

――この事態が王都に知られたら、自分の地位はどうなる?

交易都市を預かる街長としての責任、その重みが、今になってようやく首を絞め始めていた。


「城壁が破られた以上、冒険者どもに期待するしかあるまい」


苛立たしげに吐き捨てたのは、冒険者ギルドマスターのガイゼルだ。

だがその目は、広間の外――自分のギルドが被害を受けていないかどうかばかりを気にしている。


「契約外の危険度だ。これ以上の派遣は、ギルドの損失になる。報酬の上乗せがなければ、誰も命を張らんぞ」


街を救うため、ではない。

あくまで「ギルドが赤字にならないため」の計算が、彼の頭を支配していた。


「待て待て、それは困る!」


声を荒げたのは、商業ギルドマスターのカッターである。

肥え太った指で机を叩きながら、彼は顔を真っ赤にして叫んだ。


「今、街の金庫を開けば、商会への補償ができなくなる! 倉庫も店も焼かれているんだぞ!? 冒険者より先に、商人の資産を守るのが筋だろう!」


彼にとって街とは、人の集まりではない。

金が動く市場であり、自分の富を生み出す装置に過ぎなかった。


「……皆さん、少しは冷静になってください」


四人の中で唯一、低く抑えた声を出したのは代官グローハラだった。

だがその言葉とは裏腹に、彼の視線は常に出口の方向をちらりちらりと窺っている。


「ハイゲル様から街を任されている以上、私は“最悪の場合”も想定しなければならない。撤退経路の確保、重要書類の搬出……それが先決です」


要するに、街がどうなろうと、自分さえ無事に本国へ戻れればいい。

そのための準備を、彼は誰よりも早く進めていた。


再び沈黙が落ちる。

四人とも、同じ「街の代表」でありながら、見ている方向は誰一人として同じではない。


外では、炎と悲鳴が街を覆っているというのに。

この広間で燃えているのは、責任のなすりつけ合いと、己の保身だけだった。


「……助けが、必要ですか?」


張り詰めた空気を裂くように、澄んだ声が広間に響いた。


四人が一斉に振り向く。

そこに立っていたのは、煤一つ付いていない外套をまとった少女――

パンニャ領主の一人娘、シーラ・パンニャ。


「な……!?」

「ば、馬鹿な……行方不明では……」


言葉を失う四人を前に、シーラは落ち着いた瞳で彼らを見渡していた。


まず、街長アヴグストの胸に去来したのは、恐怖でも疑念でもなかった。


――助かった。


それだけだ。

この絶望的な状況で、領主の娘が“自ら”現れた。その事実は、彼にとって救命索以外の何物でもない。


「おお……シーラ様……!」

彼は勢いよく立ち上がり、声を震わせる。

「よ、よくぞご無事で……! ええ、ええとも! 助けが必要ですとも!」


街の被害? 市民の命?

そんなものより先に、責任を押し付けられる存在が現れた安堵が、彼の顔にありありと浮かんでいた。


一方、冒険者ギルドマスターのガイゼルは、目を細める。


――領主の娘、だと?

――しかも、このタイミングで。


彼の頭は高速で回転していた。

彼女が正式に介入すれば、ギルドへの「依頼」は領主家名義になる。

報酬の踏み倒しは不可能、失敗の責任も分散される。


「……これは、正式依頼と受け取ってよろしいのですかな、シーラ様」

声音は丁寧だが、内心では舌なめずりしていた。

――悪くない。むしろ、儲け時だ。

しかもシーラの隣に立つ存在は、。噂に聞く勇者姫。その姿と雰囲気は、疑いようがない。


戦力は確実に増強される。

しかも象徴的存在だ。冒険者たちの士気も跳ね上がるだろう。


――まだ、生き抜く目はある。

ガイゼルの目に、わずかながら現実的な希望が宿った。


商業ギルドマスターのカッターは、誰よりも反応が早かった。

驚きは一瞬、次の瞬間には、計算が始まっている。


――令嬢が指揮を執る。

――それはすなわち、領主家の全面関与。


「これは……好機だ」

喉の奥で笑みを噛み殺す。


街の復興、商会の損害、倉庫の焼失。

それらすべてを「領主の判断」に組み込めばいい。


「シーラ様が陣頭指揮を執ってくだされば、市民も商人も安心でしょうな」

口では忠誠を語りながら、胸の内では金の音が鳴り響いていた。

――補償金は領主から。

――街が立て直されれば、儲けは倍だ。


最後に、代官グローハラ。


彼だけが、喜びでも期待でもなく、歯噛みしていた。


――何故、ここに……。

――何故、今なんだ……。


行方不明であるはずの令嬢。

ハルゲルと共に築き上げてきた「代官としての裁量」が、音を立てて崩れていく。


背筋に冷たいものが走る。


――彼女が現れた以上、私は“代理の代理”に過ぎない。

――いや、それどころか……。

ハルゲルが領主に対し反乱を起こしている以上、彼女にとって、自分は敵なのだ。


表情を取り繕いながらも、彼の胸中には焦りと恐怖が渦巻いていた。

シーラの存在は、この街にとって希望であり――

彼にとっては、立場を脅かす最大の不確定要素だった。


こうして四人の思惑は、同じ少女を前にしながら、決して交わることなく交錯する。


シーラ・パンニャは、それらの視線と感情を静かに受け止め、

次に発する言葉で、この場の運命を決めようとしていた。


シーラは、四人の顔を順に見渡した。

怯え、安堵、欲望、焦燥――そのすべてが、あまりにも分かりやすく表情に滲み出ている。


(責任転嫁、戦力計算、金勘定、保身……)

胸の内で静かに息を吐く。

彼らが何を考えているのか、ほぼ手に取るように分かっていた。


だからこそ、彼女は一切の前置きを捨てた。


「――助けてほしいなら」


澄んだ声が、重苦しい広間に落ちる。


「まずは先に、『降伏』しなさい」


その一言は、刃のように鋭く、四人の心を切り裂いた。


「な……っ、降伏、だと!?」

真っ先に声を荒げたのはアヴグストだった。

「わ、我々は街の代表であって、敵では……!」


だがその声は、どこか弱々しい。

彼女の視線に射抜かれ、言葉の勢いだけが空回りしていた。


ガイゼルは、息を呑んだまま口を閉ざす。

これは戦術的な言葉ではない。

――立場の放棄を求めている。

その意図を理解した瞬間、背筋がひやりと冷えた。


カッターの顔からは、露骨に血の気が引く。

「こ、降伏とは……いったい……?」


彼の脳裏に浮かんだのは、金の話ではなかった。

もしここで主導権を失えば、補償だの利権だのという話そのものが消し飛ぶ。


そして、グローハラ。


彼は歯を食いしばり、視線を逸らした。

この言葉が、真っ先に自分へ向けられていることを、誰よりも理解していた。


「一度立場を再確認しましょうか?」

シーラは淡々と続ける。


「あなた方は、被害者である前に――反旗を翻した側の街です」


広間に、言葉の重みが落ちる。


「ハルゲルは、パンニャ領主に叛いた」

淡々と、事実だけを積み上げる。

「そして、あなた方シャガートは、その支配下にあります」


視線が、代官グローハラへと向けられた。

彼の喉が、ひくりと鳴る。


「つまりこの街は、魔物軍だけではなく、今の領主にとっても“敵地”なのです。」

シーラの声に感情はない。

「敵地が、敵のまま助けを求めることはできません」


ガイゼルは、ようやく理解したように息を吐いた。

――これは交渉ではない。戦時の通告だ。


「だから再度宣告します。「我が主に降伏し受け入れよ」それが成されるのならば、この町は助けてあげます……今だけでなく、今後についても……。」


その場にいる4人は、シーラの大仰な言い回しに、言葉もなく項垂れる。


そんな中、かろうじてカッターが唇を震わせ、言葉を紡ぎだす。

「そ、それでは……我々は、すべてを失う……」


「いいえ」

シーラはその言葉を即座に否定した。

「失うのは、“あなた方の、今までの行いに対しての代価”だけです。街の為に、領民の為にやってきたことは、正当に評価されるでしょう。そして、今後も、主に忠誠を誓い、励むのであれば、その権利と財産は約束されるでしょう。」

しvらの言葉に、カッターとガイゼル、そしてアヴグストの目に、わずかに光がともる。


そして最後に、彼女は静かに、しかし逃げ道のない視線を四人に向けた。


「選びなさい」

「反乱勢力の一部として、魔物と共に滅びるか」

「それとも、降伏し、守られる側に戻るか」


それは脅しではない。

支配するものとして告げる、正当で冷酷な選択肢だった。


四人は、否応なく理解する。

この少女は、助けを乞う相手ではない。


――裁定を下す側なのだと。

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