魔王の一手 前編
「それで、どうすればいい?」
ゲハルトの問いに、シリルは指を二本立てて軽く首を傾げた。
「二日だけ、持ちこたえて。……それで全部終わるから」
あまりに簡単な条件に、ゲハルトは眉をひそめる。だが彼女の目には、冗談ではない色が宿っていた。少しの沈黙のあと、彼は短く息を吐き、うなずく。
「……分かった。信じよう」
その瞬間、シリルの口元が楽しげに緩んだ。
「じゃあ、契約成立だね」
彼女はそう言うと、ためらいもなくゲハルトにしなだれかかる。柔らかな重みと、ほのかに甘い香りが近づき、彼は思わず身を強張らせた。
「ちょっとだけ。私へのご褒美・・・・・・頂戴♪」
囁きは耳元で、くすぐるように低い。指先が服越しに触れ、距離は限りなく近づく。直接的なことは何も起きていないはずなのに、心臓の音だけがやけに大きく感じられた。
シリルは小さく笑い、指先でゲハルトの胸元をなぞった。
「あなたも・・・・・・疲れているでしょ?私が癒してあげる」
彼女の体温が伝わり、甘い香りがふわりと鼻先をかすめる。ゲハルトは息を呑み、思わず肩に力が入った。シリルはその反応を楽しむように身を寄せ、囁く声を落とす。
「怖がらないで。痛くもしないし、激しくもしないよ。あなたはそのまま身を委ねて・・・・・・」
薄暗い室内で、衣擦れの音がかすかに響く。彼女の髪が頬に触れ、柔らかな感触に意識が揺らいだ。時間が溶けるように過ぎ、理性と本能の境目が曖昧になっていく。
ゲハルトは何時しか、自らが獣と化したような気がした・・・・・・
しばしの後・・・・・・シリルは満足げな表情を見せ、ゲハルトから離れると、くすっと笑う。
「これでしばらくは大丈夫でしょ。あと一日半、頑張って」
ゲハルトは何も言えず、ただ深く息をついた。
胸の奥に残る余韻と、奇妙な高揚感が、彼女への“報酬”が確かに支払われたことを告げていた。
彼女の、少し舌を出して蠱惑げに微笑む姿を見ると、年甲斐もなく、自らの雄が首をもたげるのがわかる。
本能の赴くまま、シリルを抱き寄せようとするが、シリルは、するりとその手から抜け出してしまう。
「おイタはダメよ。・・・・・・続きは・・・・・・全部、終わってからね。」
シリルはそう言いながら、ゲハルトの頬に軽くキスをすると、来た時と同じように、すっと姿を消してしまう。
残されたゲハルトは、胸に残る熱と余韻に戸惑いながら、ただ静かに覚悟を新たにするのだった。
◇
「ただいま帰り・・・・・・って、お姉様、何やってるんですかぁ?」
魔王の拠点であるダンジョン内の、プライベート空間にあるカズトの寝室に、シリルは帰還報告の為に顔をだしたのだが、目の前に繰り広げられている光景に目を丸くする。
そこでは、エルがシーラをあられもない姿で拘束し、その恥ずかしいところをカズトに見せつけていた。
「あ、お帰り、シリル。どうだった?」
「えぇ、首尾は上々です。ついでにゲハルト様をつまみ食いしてきました。」
「えっ、お父様が・・・・・・きゃんっ!」
思いがけずに、父の名が出てきたことで、口を挟むシーラだったが、敏感な所をエルに弾かれて黙り込む。
「ふぅん、面白そうな事をしてきたわね。ちょうどいいわ。このメス犬に、父親がどのようだったかを教えて差し上げなさい。」
「メス犬だなんっ・・・・・・きゃんっ!」
口を開こうとすると、再び、敏感な芽をつまみ上げられる。
「それは構わないのですが・・・・・・一体……。」
シリルはそう言いながらカズトを見る。
そして、そのやつれた様子を見て全てを悟る。
シリルとしては、エルがカズトを独占しているのが少しだけ気に入らない。
エルの言い分では、独占してるつもりはない。やりたければやればいい、というが、限界近くまで搾り取っていて、どの口が!と思わなくもない。
ただ、エルはシリルたちにとって主家筋にあたるため、表立って逆らう気はない。それでも、やはり、独占しているのを見れば、少しぐらいは・・・・・・と思わなくもないのである。
だから、カズトの誘いに乗り、エルがしばらく留守にする時間を作るのに協力した。
計画では、その間にシーラちゃんとエッチをし、その後シリルともエッチをする、という事になっていたのだが・・・・・・
(はぁ、その様子では、失敗したようですね)
カズトと視線があう。
その助けを求める様な視線に、思わずぞくっとするシリル。
(これはこれで・・・・・・いいものですね)
シリルはクスリと笑うと、辱められているシーラの側に行く。
「そうですねぇ。ゲハルト様が私をどのように可愛がってくださったかを・・・・・・」
「いやぁぁっ、お父様のそんな話、聞きたくなぁぁいぃぃ・・・・・・。」
イヤイヤと首を振るシーラ。
その様子が可愛らしく思え、エルと顔を見合わせて笑う。
サキュバス族は種族特性としてS気質なものが多く、シリルもまた、その例に漏れない。
興が乗ったシリルは、シーラの耳元で、その父親が、如何にケダモノのようであったかを、事細かく告げながら、シーラの羞恥心を煽っていく。
その後、シーラに対する言葉責めは、1時間にわたり続いたという。
・
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「さて、報告を聞こうか。」
あれから2時間後、先程の事がなかったかのように、カズトがシリルに声をかける。
その横には、シリルが見たこともない女性が控えていたのだが、取り敢えず後で聞けばいいかと思い直し、シリルは報告を始める。
「……そこまで追い詰められていたのか。・・・・・・時間が足りないか。」
「そう言うと思いまして、予め、お姉様とともに、周辺の街や村に対して魔物を向かわせております。反乱軍が、補給難で壊走するのは時間の問題かと。」
エルが戻ってくるのに時間がかかったのは、そのことが原因らしい。
つまり、アリーナの件さえなければ、リナやシーラと、心ゆくまで、イチャイチャする、千載一遇のチャンスだったわけだ。
カズトは恨めしそうに、隣に控えているアリーナを見る。
その視線を受け、何を勘違いしたのか、頬を染めて、モジモジし出すアリーナ。
「ところで、そちらのかたは?」
シリルが、カズトに尋ねる。
先程から、彼女の内包するオーラに少しだけ危険を感じていた。
「あぁ、彼女はアリーナ。お前たちが留守の間に訊ねてきたんだが、俺の嫁1号だ。」
カズトがそうアリーナを紹介すると、アリーナが控えめに頭を下げる。
ちなみに、エルに関しては、カズトが嫁というと嫌がるところからカウントしていない。エル曰く「私は一人のパートナー。相棒よ。」との事。
エルは、頑なに、「パートナーではあっても嫁ではない」という事を常日頃から主張していた・・・・・・エルなりのこだわりがあるのだろう。
そして最初の犠牲者・・・・・・、もとい、ハーレム入り一号であるリナだが、彼女曰く「私はカズト様に買われた奴隷のようなモノです。嫁だなんてとんでもない。せめて妾ぐらいにしていただけると・・・・・・」との事。
エルを差し置いて、嫁と呼ばれるのは困るのだそうだ。
「だったら私が嫁一号よねっ!」と大声で叫ぶのはシーラ。
だが、これにはカズトが異を唱える。「まだエッチもしていないのに認めないっ!」と。
実際、シーラに関しては、カズトは一切手を触れていない・・・・・・というかエルに邪魔されて触れさせてもらえない。
エルやリナと絡む百合百合でエッチな痴態は、何度も見せられているのに、お触り禁止!という状態なのに嫁だなんて認められるかっ!
というのがカズトの言い分だったりする。
結果として、本番こそしていないものの、。捕らえてからの洗脳調教の過程で、色々してきたアリーナの事を、カズトは気に入っているらしい、とシリルは理解するのだった。
また、アリーナも、エルと真っ向から勝負できるだけの技量の持ち主であり、夜の御勤めについて色々やり合っているらしい。
これは、近いうちにエルの方が折れるだろうと、話を聞いたシリルは、ほくそ笑むのだった。
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