勇者姫アリーナ その4
「クックック……っはははは! 見たか!? 勇者姫・アリーナ様のこのザマ」
モニターの向こうでは、手足を拘束されベッドに転がされたアリーナが映っている。
衣類はボロボロで、大事なところを隠しているようで隠しきれていない。
彼女が身じろぎするたびに、豊満な双丘がプルプルと震える。それだけで眼福ものだ。
「…………。」
画面の向こうのアリーナは黙って屈辱に耐えている。
胸と局部だけに、スポット的に充てられた光以外には光源のない薄暗い部屋の中で、拘束されて放置。
実際には1時間ぐらいしかたっていないのだが、彼女にはもう何時間もこのまま、という感じだろう。
「さて、どうしようかねぇ。とりあえず頂いてくるよ。」
俺は意気揚々と、アリーナのもとに向かう。
せっかくのチャンスを潰されたのだ。
その身体で支払ってもらわなければ割に合わない。
「さぁ、ご奉仕の時間だよ!」
俺は身動きの取れないアリーナの身体を散々弄り倒す。
「何を……やぁっ、やめ。…。むぐっ……んんっ……ぐっ……。」
あぁ、いいっ!無垢な勇者を穢している、そう思うだけで滾ってくる。
この猛りを勇者姫にぶちまけようとしたその時……。
「カズトぉ……お楽しみですかぁ?」
背後から声が聞こえた。
それは、チャンスタイムの終了を告げる声でもあった。
◇
地下牢は、光という概念を忘れた場所だった。
天井も壁も、距離さえも分からない。ただ冷えた石の匂いと、鎖が擦れる音だけが、ここが現実だと告げている。
勇者姫アリーナは、両腕を拘束されたまま、床に座っていた。
動こうとすれば、鎖が即座に答える。首輪につながっている鎖の長さだけが、アリーナが自由に動ける範囲だった。
最初の頃のように、四肢を拘束されてないだけマシではあるが、両腕は後ろ手に縛られているため不自由なことこの上なく、逃げ場など最初から存在しない。
それでも、アリーナは折れていなかった。
(私は……負けていない)
暗闇の中、彼女は何度もそう言い聞かせる。
魔王に捕らえられ、尊厳を踏みにじられてなお、その心の奥には、剣を握っていた頃の自分が確かに残っていた。
――足音。
それだけで、空気が変わる。
闇の中に、魔王が入ってくる。
恐怖と嫌悪が、条件反射のように胸を締め付ける。
だが、歯を食いしばり、声は上げない。
弱さを見せることだけは、決してしないと決めていた。
「相変わらず、いい目をしているな」
魔王がありv名の目を覗き込みながら言う。
低く、落ち着いた声。
それが、この世界で唯一、確かな輪郭を持つものだった。
「その誇りが、気に入っている。どうだ?気が変わったか?」
その言葉に、アリーナの胸がわずかに波打つ。
褒められたわけではない。
理解されたように感じてしまったことが、何より腹立たしかった。
「黙って……何度言われても気は変わらないわ……」
掠れた声でも、拒絶の意志は込める。
「……まぁ、いいさ。ほら、ご飯の時間だ」
魔王は淡々とそう言うと、木製の椀を手に取り、スープを一匙すくった。
湯気が立ち上り、香草の匂いがかすかに広がる。
アリーナはそれを見て、喉がわずかに鳴るのを感じた。
――空腹だ。
それは認めざるを得なかった。
魔王が、彼女の目の前までスプーンを運ぶ。
「……」
アリーナは唇を引き結び、視線を逸らす。
犬のように椀に顔を近づけてすする、という選択肢が頭をよぎり、すぐに打ち消した。
(……そんな真似、できるわけない)
だが、腕は縛られている。
自分では、何もできない。
魔王は表情を変えず、スプーンを少しだけ彼女の唇の近くに寄せる。
「口を開けろ」
一瞬、アリーナの肩が強張る。
だが、ゆっくりと、ほんの少しだけ唇を開いた。
スープが口に含まれる。
温かさが、冷え切った体に染み渡った。
「……っ」
思わず、喉が動く。
味は、拍子抜けするほど普通だった。
塩気も強すぎず、粗末でもない。
魔王は無言で、次の一匙をすくう。
まるで作業のように、淡々と。
アリーナは視線を落としたまま、抵抗しない。
屈辱で、胸の奥がじくじくと痛む。
(勇者が……こんな……)
それでも、食べなければ生きられない。
生きなければ、何もできない。
彼女は黙って口を開け、与えられるままにスープを受け取った。
金属の拘束具が、かすかに鳴る。
その音が、今の立場を嫌というほど思い知らせていた。
「……」
魔王は彼女の様子をじっと見つめながら、最後の一匙を差し出す。
アリーナは何も言わず、それを飲み込んだ。
薄暗がりの中、
勇者と魔王の間に交わされるのは、言葉ではなく、
ただ静かな屈辱と、重い沈黙だけだった。
「人間たちは、お前を助けに来ないな」
その一言が、刃のように突き刺さる。
「そんなこと……ない……」
即座に否定するが、その声には力がない。
「そう思っていられるうちは、いい」
魔王はそれ以上、何も言わない。
ただ、存在だけを残して去っていく。
再び、完全な暗闇。
時間がどれほど経ったのか分からない。
数分か、数時間か、あるいは数日か。
アリーナは、胸の奥に残った言葉を必死に振り払おうとする。
(私は勇者……人間の希望……)
だが、声に出しても、返ってくるのは沈黙だけだった。
それでもまだ、この段階では――
彼女の心は折れていない。
魔王の言葉は、誘惑ではなく、侮辱でしかなかった。
誇りは、まだ暗闇の中で、確かに息をしていた。
・
・
・
「なぁ、これで本当にいいのか?アリーナの奴全然折れる気配がないぞ?」
アリーナへの食事を終えた後、俺はエルにそう告げる。
今はエル脚本による、「女勇者闇落ち」を仕掛けている真っ最中なのだ。
「カズトは、あの女勇者が欲しいんでしょ?腐っても勇者だからね。時間はかかるわよ。それとも、さっさとやるだけやって、魔物の苗床にする?」
エルがそう言うが、そんなもったいないことはできない。
即ヤるという提案は魅力的ではあるが、相手は勇者だ。仲間に引き込めればこんな心強いことはない。それに何より、俺はアリーナが気に入ってる。できれば心から慕ってもらって、チュッチュ、イチャイチャしたいんだよ。
「だったらもう少し我慢することね。後、ご奉仕させるのはいいけど、決して処女は奪わないこと。できればご奉仕もほどほどにね。身体目当てだと思われたら、決して落ちないわよ。」
落とした後なら好きなだけできるんだから、というエルの言葉に従い、俺は我慢することを告げる。
すでに落としたはずの、リナやシーラとエッチできていないことには、この時点の俺はまだ気づいていなかった。
◇
暗闇は、ただの闇ではなくなっていった。
それは重さを持ち、肌にまとわりつき、呼吸のたびに胸の奥へと染み込んでくる。
最初のうちは、アリーナは数を数えていた。だけど、それも長くは続かなかった……終わりがないからだ。
足音があった。そのたびに、心臓がビクッと跳ねあがる。
声を聞いた。それだけで、嫌悪感を覚える。
その後、どれくらい時間が経ったか。
だがやがて、そのどれもが分からなくなった。
眠ったのか、気を失ったのかさえ曖昧になる。
「……誰か……」
声を出してみる。
喉がひりつき、言葉は闇に吸い込まれる。
返事はない。
何度呼んでも、何度祈っても、
鎖の音と、自分の呼吸しか戻ってこなかった。
(……おかしい)
勇者として、姫として、
孤独には慣れているつもりだった。
だがこれは違う。
敵がいない。
味方もいない。
世界そのものが、ここには存在しない。
――足音。
その瞬間、アリーナの心臓が強く脈打つ。
望んでいないはずの音。
憎むべき存在のはずなのに。
魔王が現れる。
「生きているか、勇者姫」
その声を聞いた瞬間、
胸の奥で、張り詰めていた何かがわずかに緩む。
冷え切った心に熱がこもる気がする。
(……違う)
自分に言い聞かせる。
安心などしていない。
ただ、沈黙が終わっただけだ。
「……殺すなら、早くして」
声は震えていた。
怒りのせいだと、必死に思い込む。
「殺す気はない」
魔王は、いつも同じ調子で答える。
「お前が欲しいから、ここに置いている」
その言葉に、アリーナの思考が一瞬止まる。
欲しい。
殺すでも、壊すでもなく。
理解できないはずなのに、
否定する言葉がすぐには浮かばなかった。
「人間たちは、お前を勇者と呼びながら、代わりはいくらでもいると思っている」
魔王は責めるようには言わない。
事実を並べるように、静かに告げる。
「だが、俺は違う」
その違いが、何を意味するのか。
考えること自体が、どこか怖かった。
魔王の唇がアリーナを求めてくる。
魔王の手が胸を弄る。
最初は嫌悪しか感じなかったそれらの好意も、最近では自然と受け入れている……それどころか、もっとぬくもりが欲しいと求めてしまっている自分に驚く。
しかし魔王は、それ以上は決して触れてこない。まるで、アリーナ自身が求めるまでは決して触れない、とでもいうように……。
魔王が去ると、再び闇が戻る。
だが今度は、
さっきまでよりも、闇が深く感じられた。
(……次は、いつ……)
その思考が浮かんだ瞬間、
アリーナは自分自身に愕然とする。
待っている?
あいつを?
必死に首を振る。
鎖が、乾いた音を立てる。
(違う……私は……)
だが、否定の言葉は、胸の奥で弱々しく揺れるだけだった。
捕らえられた当初は、激しくご奉仕をさせられた。
そのたびに屈辱と恥辱を覚えたのだが、最近では、ほとんど触れてこようとしない……飽きられたのだろうか?
そう考えるだけで、胸の奥がずきんと痛む。
魔王が飽きてしまったら、私はどうなるの?この暗闇の中ずっと一人でいるの?
暗闇は変わらない。
沈黙も続く。
だが一つだけ、確かに変わったことがある。
この世界で、
声を持つ存在が、魔王しかいないという事実が、
少しずつ、逃げ場のない現実として染み込み始めていた。
アリーナはまだ屈していない。
だが、孤独は確実に、彼女の誇りの輪郭を削り始めていた。




