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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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勇者姫アリーナ その3

「……という事です。」

マイが、モニターに映る侵入者について、集めた情報を報告してくれる。

「なるほど、「勇者姫」ね……。」

俺はモニターの向こう側で、すやすやと眠っているアリーナを見ながらつぶやく。

「まぁ、相手が誰であろうとも、せっかくのチャンスを潰してくれたお礼はしないとなっ!」

俺がそう言うと、すでに身支度を整えて背後で控えていた、リナとシーラがビクッと体を震わせる。

アリーナの様子と、この先の道程を考えれば、どちらか一人と一戦ぐらいは出来そうな時間はありそうだが、二人ともすでに通常に戻っており、今からその気にさせるには時間がかかりそうだ……いわゆる「機会を逸する」というものだ。


「えっと、カズト様……勇者姫をハーレムに入れるの?」

シーラが、おずおずと聞いてくる。

「もちろんだともっ!」

「えっと、魔王様のハーレムに勇者様が入る……おかしくないかなぁ?」

「いいんだよ、細かいことはっ!」

俺はシーラの言葉を一蹴する。

そもそも、すでに「まったく手を出せないハーレム」というおかしな事態になっているのだ。いまさら勇者が魔王のハーレム入りなんてことぐらい誤差の範囲だ。

「じゃぁ、私は勇者姫様のお部屋を整えてきますね。」

メイド服に着替えたリナが、そう言って、メインルームから出ていく。

……もう、今回はリナとエッチはできないだろう。

俺はちらっとシーラを見る。

「えっと、その……する?」

俺の視線を受けたシーラが、顔を赤らめ、もじもじしながら小さな声で聞いてくる。

もう、それだけで、マイサンは爆発寸前だ……ったのだが……。

俺がシーラに襲い掛かる寸前、マイから非情な声がかかる。


「ご主人様、勇者が動き始めました。ミノさんたちを退避してあるので、30分もかからず玉座の間に到着すると思われます。」

……くっつ、勇者姫め……。一度ならず二度までも邪魔するとはっ!もう許さないからなっ!


俺は、泣く泣くシーラから身を離し、勇者を迎え撃つために、玉座の間に赴くのだった。

まぁ、離れ際、シーラから「後でたっぷりと可愛がってね」という言葉と軽いキスをもらえたから、今はこれで我慢しよう。



おかしい。

アリーナは洞窟を進みながら違和感を覚えていた。

休憩をした場所にあった大きな扉。その先には、強敵が待ち構えていると思っていたし、そのつもりで警戒して扉を開けた。

それなのに、開けた先はただの広間であり、魔物の姿は一切見当たらなかった。 

如何にも「魔物と死闘を繰り広げる場所」にしかみえないのに。

それから三つの扉をくぐった。

そのどれもが広場に出るが、魔物の姿が見えないのも同じ。

そして、5つ目の扉の前。

さすがにそろそろ何かが出てくるだろうと思い、気を引き締めて扉を開ける。


ギギギぃ……


重厚な音を響かせて扉が開く。

室内に一歩足を踏み入れると、黒曜石の床に、アリーナの足音が静かに響いた。

玉座の間は広く、そして不気味なほど静まり返っている。

玉座に腰掛けた魔王は、肘をつき、頬杖をついたまま、侵入者を見下ろしていた。


「……来たか、勇者姫よ」


その声には怒りも驚きもない。まるで、約束の時間に客が現れたかのような落ち着きがあった。


アリーナは剣を構え、視線を逸らさない。

刃先は微かに震えているが、彼女の声は揺れなかった。


「あなたを倒しに来た。これ以上、世界を好きにはさせない」


魔王は小さく鼻で笑う。


「ほう。“倒す”か。ずいぶんと率直だな。

 だが……本当にそれが、世界のためになると思っているのか?」


「……何を言うの」


「魔物が消え、戦が終わり、人は救われる。

 勇者とは、そう信じて剣を振るう存在だろう?」


魔王は立ち上がり、ゆっくりと玉座から降りる。

その足取りには一切の警戒がなく、まるで散歩でもするかのようだった。


「だがな、アリーナ。

 本当にそれが正しいと思っているのか?この世界が今の形を保っているのは、“魔王”がいるからだ、とは考えないのか?」


「……詭弁よ」


「詭弁? いや、事実だ」


魔王は彼女の剣先を一瞥し、視線を戻す。


「俺を倒せば、それ度割るのか?魔物は消えるのか?違うだろ?

 今は、俺の力に畏怖した魔物たちは俺に従っている。しかし、俺がいなくなればどうなると思う?抑えるものがいなくなれば、魔物たちは自由気ままに近隣の村を襲うだろう。それを止める者がいないからな。」


アリーナは一瞬、言葉に詰まる。

だが、剣を握る手に力を込め、言い切った。


「それでも、私は進む。

 たとえ真実があなたの言う通りでも――私は勇者だから」


魔王の口元が、わずかに歪む。


「……いい顔だ。

 そうでなくては、勇者の資格はない。」


重い沈黙が、二人の間に落ちた。

次の瞬間、言葉は剣と魔力に取って代わられるだろう。


だが今はまだ、―――世界の行方を賭けた会話だけが、静かに交わされていた。


「物は相談だが、俺のモノになる気はないか?」

「何をふざけたことをっ!」

「ふざけてなんかいない。俺はアリーナを気に入った。俺に降るなら、そう、世界の半分をくれてやろう!」

「ふざけないでって言ってるでしょっ!」

アリーナが少し飛びのき間合いを図る。剣先が俺をとらえている。

「ふざけてないって言ってるだろ?賢いアリーナならわかるんじゃないか?この世界に住む人間たちの醜さを、歪んだ欲望を……。自分たちと、少し姿かたちが違うというだけで、亜人たちを貶め、奴隷として扱う。亜人たちはそれぞれ人族にないものを持ち優秀であるにもかかわらず、だ。差別の裏側にあるのは、自分たちで優秀であることへの嫉妬と、いつかとってかわられるのではないかという恐怖。

同じ人族でも、奴隷制度や貴族階級など、階級差による差別も、特権意識とは別に、根底には《《ソレ》》がある。

わが身可愛さに、他者を虐げるそんな歪んだ社会に疑問を持ったことはないのか?」

「そ、それ……は……」

魔王の言葉にアリーナが言葉を失う。

「その点、魔物たちは単純だ。弱肉強食。強き者には従う。それがイヤなら強くなればいい。強者が正義……それが正しいとは言わないが、少なくとも、歪んだ人間社会よりはマシに見えないか?」

「そ、それは……詭弁だっ!それではただの獣と同じっ!人には知恵があるのだから……。」

「その知恵が正しい方に使われていればな。強者は弱者をその力で守り、弱者は、強者に感謝しながら、守ってもらう代価に、自分のできる限りで強者を助ける……。」

「そう、その通りだよ!強ければ何でもまかり通るっていうのはおかしいんだよ。」

「そうだな、だけど人間族の中ではその傾向が強いんじゃないか?たまたま強者側に生まれたというだけで、自分が何の力も持たないのに、強者としてふるまう。本来であれば、護るはずの相手を貶めて搾取だけをし、いざという時には見捨てる。弱者は強者が搾取するためだけの存在……これじゃぁ、弱肉強食という、絶対順守の掟があるだけ、魔物たちの方がマシだと思わないか?」

「そ、それは……」

アリーナの声が小さくなる。


「それにだ……。」

魔王が指をパチンと鳴らすと、宙空に映像が浮かび上がる。


『勇者姫様はご無事なんだろうか?』

モニターに映った男がそんなことをつぶやく

『わからん。じゃが、あれから魔物の姿を見かけぬから、見事に生贄の任を果たしてくれたのじゃろう』

そういう初老の村人に、アリーナは見覚えがあった。あの村の村長だ。

『しかし、勇者姫様を騙して……』

『何を言う。勇者姫様は、自ら向かっていったのじゃ。生贄のことは行ってないだけで騙してはおらぬ。』

『だけどよぅ、もしまた魔物が来たら?噂では半年に一回、娘を生贄に出すんだろ?』

別の村人が不安げに言うのを、村長は笑い飛ばす。

『その時は、冒険者を雇えばいいのじゃ。娘っ子を含む冒険者を指定してダンジョンに向かわせればよい。』

『そ、そうだな。さすが村長様だぜ』

映像が途切れた後も、アリーナは愕然としていた。

「どうだ?これが人間の本性だ。言ってわからないなら、力づくで言うことを聞かせるしかないと思わないか?」

アリーナは黙ってうつむいている。


魔王は再び指を鳴らす。

今度は、どこかで人々が争っている光景が映し出される。

救われたはずの街で、奪い合い、裏切り合い、弱者を踏みつけながら――

その光景を、アリーナは黙って見つめていた。


胸の奥が、冷たくなる。


「……これが、人間だ」


背後から、魔王の声が静かに響く。

嘲笑はない。ただ、突きつけるような事実だけがあった。


「恐怖が去れば、次は欲が顔を出す。

 正義が勝てば、今度は正義同士が殺し合う」


アリーナは唇を噛みしめ、視線を逸らすことができない。

あまりにも醜く、あまりにも現実的だった。


「魔王がいれば、人々の恐怖も敵対対象も、すべてがそちらに向けられる……がいなくなればくなるのが人間なんだよ。」


魔王は彼女の前に立つ。彼女の凛とした美しさに目を奪われそうになりながら、言葉をつづける。


「アリーナ。お前も、本当は知っているのだろう?人の本性を。

 それでもまだ、彼らを守ると言うのか?」


魔王は、静かに手を差し出す。


「私と来い。共に世界を管理し、導こう。優しさを与え、愚かさや、残酷さは、力で抑え込めばいい」


アリーナの胸が、大きく揺れる。

否定したいのに、言葉が出てこない。

見たものすべてが、魔王の言葉を裏付けていたからだ。


――それでも。


彼女はゆっくりと、剣を握り直した。


「……確かに、人は汚い」


魔王は、わずかに目を細める。


「弱くて、醜くて、間違える。でも……それだけじゃない」


アリーナは振り返り、俺を真正面から見据えた。

その瞳には、迷いと同時に、確かな光が宿っている。


「それでも誰かのために泣ける心がある。恐怖に震えながらも、立ち上がる強さがある」


剣先が、魔王へと向けられる。


「私は、人の“綺麗な心”を信じる。人の“強い心”を、最後まで信じたい」


魔王はしばらく沈黙し――そして、静かに笑った。


「……そうか。それが勇者の答えならば、俺はすべてを受け止めよう。そのうえで、お前を俺のモノにする」


魔力が、空気を歪ませる。

アリーナの剣が、淡く輝いた。


「ごめんなさい。アナタの言うことも分かるの。でも、私は一緒には行けない」


その声は、震えていなかった。


「私は、あなたを止める」


二つの信念が、真正面からぶつかる。

それは善と悪ではない。世界をどう信じるかという、答えの違いだった。


そして――

アリーナは、勇者として、一歩を踏み出した。


「それが答えか。ならば……来い!――魔王として、受け止めてやろう」


その一言が、合図だった。


アリーナの足が床を蹴る。

迷いを断ち切るように、一直線に間合いを詰め、剣を振り上げた。

刃が空気を裂き、白い軌跡を描く。


――速い。

そして、躊躇のない一撃。


魔王は動かない。

迎え撃つ素振りすら見せず、ただその眼で、迫る刃を見据えていた。


次の瞬間。


「――っ!」


アリーナの腕が、強引に止まる。

剣先は魔王の喉元から、わずか数寸のところで静止していた。


視界の端に、ありえないものが映る。


魔王の前に、いつの間にか――

震える一人の村娘が立たされていた。


細い肩。汚れた服。

恐怖に見開かれた瞳から、涙がこぼれ落ちている。


「……や、やめて……」


か細い声が、剣と魔力に満ちた空間に落ちた。


「な……っ……!」


アリーナの呼吸が、一瞬で乱れる。

剣を握る指が、白くなるほど強張った。


――気配が、なかった。

転移か、あるいは最初からこの瞬間のために配置されていたのか。


魔王の手が、村娘の肩に置かれる。

指先は力を込めていない。

だが、それがいつでも命を奪える距離であることは、誰の目にも明らかだった。


「止めろ、勇者」


魔王の声は、相変わらず落ち着いている。


「その剣を、あと一寸振り下ろせば――

 この娘の喉が裂ける」


村娘の体が、びくりと震える。


「い、いや……助けて……」


アリーナの喉が、ひくりと鳴る。

視界が滲み、刃先がわずかに揺れた。


「……卑怯、よ……」


絞り出した声は、怒りと悲鳴の中間だった。


「卑怯? 違うな。魔王として受け止めるといっただろ?」


魔王は淡々と告げる。


「それに、これが、人間の世界だ。守りたいものがある者ほど、選択肢を奪われる。」


彼の視線が、真っ直ぐにアリーナを射抜く。


「さあ、どうする?

 この娘を救うか。

 それとも、“信じる心”とやらのために、斬り捨てるか」


アリーナの腕が、震え始める。

剣はもう、振れない。


彼女の脳裏に浮かぶのは、これまで救ってきた人々の顔。

そして――今、目の前で命を奪われようとしている、たった一人の少女。


「……っ……」


唇が噛みしめられ、血が滲む。


「剣を下ろせ」


魔王の声が、冷たく響く。


「そして、降伏しろ。

 そうすれば、この娘は生き延びる」


沈黙が、重く落ちる。


アリーナの肩が、小さく震えた。

剣先が、ゆっくりと下がっていく。


――抗うすべは、なかった。


目の前の命を犠牲にしてまで、剣を振るえるほど、

彼女は“魔王”にはなれなかった。


剣が床に触れ、乾いた音を立てる。


その瞬間、魔王の口元に、かすかな笑みが浮かんだ。


「……それでいい、勇者」


アリーナは歯を食いしばり、俯いたまま拳を握る。


信じた心が、

守ろうとした優しさが――

今、この場で、彼女を縛りつけ……そして物理的に縛られることになるのだった。



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