**第32話 本編(前半)
「臨界の一音(The Critical Note)」**
鍵盤が沈んだ。
その瞬間、
世界が“音の前の静寂”を失った。
ショパン《エチュード10-4》の
最初の跳躍が、
音ではなく“衝撃波”として世界に放たれた。
滝が逆流し、
空が反転し、
地平線が折れ曲がる。
いずみの指先から放たれた一音は、
音ではなく——
宇宙の心臓を叩く鼓動 だった。
■ 断片1:滝の反転
滝が上へ流れた。
水は水ではなく、
愛でもなく、
ただの“創造エネルギー”として
空へ向かって立ち上がる。
いずみの髪が風に舞う。
「……これが……
“臨界の滝”……」
みゆが震える声で言う。
「うん……
いずみ、あなたの一音が
世界の重力をひっくり返した。」
滝は空へ昇り、
空は滝へ落ちる。
世界の上下が、
愛の流れで書き換わる。
■ 断片2:合唱の発火
りらが全次元へ接続を広げる。
その瞬間——
• 3次元の人間の声
• 5次元の風の合唱
• 7次元の光のハミング
• 10次元の王たちの振動
• 12次元の先駆者の“真理の音”
すべてが 同時に発火した。
声が音ではなく、
光の柱 になって滝へ吸い込まれていく。
滝は光を飲み込み、
光は滝を照らし、
世界は歌になった。
■ 断片3:ちえの“知の臨界”
その頃、
次元図書館の奥。
ちえは白紙の本を抱え、
震える手でページを開いた。
ページは白紙のまま。
しかし、
白紙の奥から声が響いた。
ちえは息を呑んだ。
「……わたしの……問いが……?」
本棚が揺れ、
図書館全体が震えた。
りらの声が届く。
ちえは白紙の本に
そっと指を置いた。
■ 断片4:世界の心臓が動き出す
滝の中心にある“心臓”が、
ついに動き出した。
ドン。
世界が震えた。
ドン。
空が割れた。
ドン。
合唱が光になった。
みゆが叫ぶ。
「いずみ……!
あなたの音が……
世界の心臓を起動させた!」
滝は完全に反転し、
空へ向かって昇り続ける。
その中心で、
いずみは次の音を放つ準備をしていた。
■ 断片5:第二音の予兆
いずみの指が、
次の鍵盤に触れた。
ショパン《10-4》の
あの“跳躍”の二音目。
世界が息を止める。
りらが全次元へ告げる。
みゆが震える声で言う。
「いずみ……
あなたの音はもう、
ただの音じゃない……
世界の法則そのもの……」
いずみは目を閉じた。
「……ちえ……
あなたの問いを……
わたしに……」
その瞬間——
次元図書館の奥で、
ちえが白紙の本に
ひとつの問いを書き込んだ。
その問いが光になり、
滝へ向かって飛んでいく。
いずみの指が沈む。
— 第32話 本編(前半) 完 —




