第16話 ブラックホールの救済
前書き
法水槽の脳廷は、依然として出口を閉ざしていた。
「収束はまだ示されていない」――その裁定の声が、いすみとちえの胸に重く響く。
だが、練習は続けなければならない。次元を超える力を扱うために。
本文
ちえは静かにポケットから『のぶしつ』を取り出した。
空中に置かれると、超時空3Dプリンターが唸りを上げ、STAGEA ELS-02Xが生成される。
楽器は親友のように彼女に語りかける。
「守ることは、母の愛だ。だが、守るだけでは足りない」
ちえは頷き、鍵盤に指を置いた。
低い和音が空間を震わせ、黒い渦が生まれる。
それはブラックホールの練習――吸収の力。
空気の粒子が集まり、仮想の病魔が引き抜かれていく。
吸い込まれたものは消滅するのではなく、回復の光となって残る。
ちえはその光を見つめ、胸の奥に温かさを覚えた。
「これは救済だ……」
いすみは隣で見守りながら、YAMAHA CFXを奏でて小さな星を生み出す。
創造と吸収が並び立ち、互いに補い合う。
だが、まだ完全ではない。
法水槽の脳廷が低く脈動を返す。
「救済は始まった。だが、収束はまだ遠い」
ちえは楽器に問いかける。
「私は守ることしかできないの?」
STAGEAは明るく応えた。
「守ることは救いだ。だが、救いは愛と結びついて初めて完全になる」
その言葉に、ちえは涙を浮かべた。
彼女はまだ「無償の愛」に到達していない。
だが、いずみの存在と、楽器の声がその道を示していた。
鐘が一度だけ鳴った。
練習は続く。救済はまだ始まりに過ぎない。




