第10話 試練の予兆
前書き
愛を学ぶ旅は、衝突の余韻を抱えたまま次の試練へと進む。いずみとちえは互いの違いに揺らぎながらも、コンダクターを支え続ける。だが、彼の心はまだ水槽の脳の問いに囚われている。そんな中、次元の王たちが姿を現し、愛の多面性を問う。秩序、遊び、矛盾、守る力――そのすべてを抱えたとき、愛は次の段階へと進むのだ。
本文
泉のほとりは静かだった。いずみとちえの衝突の余韻がまだ残り、空気は重く張り詰めている。コンダクターは横たわり、浅い呼吸を繰り返していた。
ちえは彼の傍らに座り、眼鏡を外した。
「あなたは…まだ問いに囚われているのね」
コンダクターの瞳がわずかに開き、かすれた声が漏れる。
「魚は…満足しているのか…牛は…搾られる痛みを…ウイルスは…家族を持たないのか…」
その言葉は断片的で、しかし深い痛みを伴っていた。
ちえはノートを開き、震える手で書き込む。
「あなたの問いは…人を超えている。でも、答えは人の中にしかない。だから私たちが…一緒に探す」
彼女の声は静かだが、確かな決意を含んでいた。
その瞬間、空気が揺らぎ、四つの影が現れた。次元の王たち――メーテリュの下僕であり、妖精の姿を借りた導き手。
ロジカは灰青色の髪を揺らし、懐中時計を胸に抱えた。
「秩序なくして愛は続かない。だが秩序だけでは、愛は窒息する。お前はどちらを選ぶ?」
ヒューモは金髪を夕陽に輝かせ、琥珀の瞳で微笑んだ。
「愛は遊び心だ。笑いといたずらがなければ、心は枯れる。お前は笑えるか?」
パラドクスは紫の瞳を挑発的に光らせ、斜めに立った。
「矛盾を抱えよ。嫉妬も憎しみも、愛の影だ。影を恐れるな。お前は影を受け入れるか?」
メタリカは赤銅色の髪を揺らし、蜂蜜色の瞳で真っ直ぐに告げた。
「守る力を持て。柔らかさだけでは人は救えない。鋼のような愛を示せ。お前は守れるか?」
ちえは息を呑み、ノートに一行を加えた。
「愛は秩序、遊び、矛盾、守る力――その総和で人を救う」
コンダクターはその言葉を聞き、かすかに微笑んだ。
「…少し、楽になった」
泉の鐘が鳴り、夜の帳が降りる。試練の予兆は確かに訪れていた。次の裁定の場で、彼女たちはこの答えを示さねばならない。




