運動場に響く沈黙
ラブポーション事件から数日が過ぎた。
あの日の騒動が幻だったかのように、学校は何事もなかったかのように動いていた。悠依の姿もちらほら見えたが、ゆうに声をかけてくる者はいなかった。あの恐ろしい圧力を思い出すたび、胸の奥が重く沈む。
(……もしかして、もうあれは無かったことになったのかもしれない)
期待にも似た安堵が、ゆうの胸に広がった。のぞみとの日々を思い浮かべれば、あの騒がしい一団のことなど霞んでしまう。彼女と一緒にいたい。それだけがゆうの願いだった。
だが、その静かな夢想は、ある日の昼下がりに破られる。
多目的教室Aに呼び出されたゆうが扉を開けると、待っていたのはリーダー・愛の鋭い眼差しだった。
「――この間の話、まさか忘れたなんて言わないよな?」
静かだが威圧の籠もった声。ゆうは反射的に背筋を伸ばし、言葉を飲み込んで小さくうなずいた。心臓が音を立てる。
「……いや、忘れてないけど……」
「ならいい」
愛は唇をゆがめるように笑った。その目は獲物を逃がすまいとする猛禽のようだ。
「今日はね、悠依様のご機嫌がすこぶるいい。だから、お前と歩いてやってもいいっておっしゃってる。光栄に思え」
「……え、歩く? 下校のときに……?」
信じがたい内容に、ゆうは思わず確認する。胸の内に、のぞみの顔が浮かんでくる。彼女との思い出が、この提案とどうしても噛み合わない。
「そうだ。だから放課後は運動場に来い。悠依様がお出ましになる。その時、ちゃんとそこに立って待ってるんだ」
「……でも、運動場なんて……。人だかりになるんじゃ……」
気弱な声で反論を試みる。自分の名前や噂が、学校中を駆け巡る光景が想像されて、背筋が冷たくなる。
愛は不敵な笑みを浮かべ、短く答えた。
「心配するな。ラブポーションが護衛につく。半径150メートル以内には誰も寄せつけない。お前のための舞台は、我々が完璧に整えてやる」
その言葉には奇妙な誇りすら漂っていた。だが、ゆうにとっては救いではなく、逃げ場のない宣告のように響いた。
(……逃げられないのか)
その時の愛の瞳を見て、ゆうは悟った。反抗する余地などどこにもない。
「……わかったよ…」
掠れた声で答えるしかなかった。
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チャイムが鳴り、放課後が訪れる。
教室を出たゆうの足取りは、鉛のように重かった。運動場に向かう道すがら、夕方の光が校舎をオレンジ色に染めている。だがその温かな光さえも、今のゆうには冷たく感じられた。
運動場に着くと、すでにラブポーションのメンバーたちが配置についていた。鋭い視線が四方から突き刺さる。近づこうとする生徒は誰一人いない。広大なグラウンドの中央だけがぽっかりと空虚で、まるで特別な舞台のように用意されていた。
ゆうはその中心に立たされた。
(……のぞみさん……)
胸の中で恋人の名前を呼ぶ。彼女の柔らかな声、あの日映画館で握った手のぬくもり、春風に舞う髪の香り――すべてを思い出して心を支えようとする。
だが現実は、冷たい視線と沈黙に囲まれた孤独だった。
「……僕は一体、何をしているんだろう」
運動場に吹く風に混じって、小さく呟いた。
悠依が来るのを待つしかない。
その瞬間、胸の奥で、のぞみの笑顔がいっそう鮮やかに浮かんだ。
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ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
なっちゃん「ちょ、ちょっと待ってよ!?なにこの状況!?ラブポーションが“半径150m封鎖”て!まるで要人警護やん!首脳会談でもやるんか思うわ!」
カナちゃん「せやなぁ!佳子さま来たんか、トランプ来たんか、G7開幕か!?ってぐらいやん!しかもやで、護衛って名乗ってるけど、実際やってるんはただの横暴やんか!」
なっちゃん「ほんで“光栄に思え”て……何様よ!?いや、ほんまに悠依様はええとこ育ちかもしれんけど、ゆう君にはのぞみちゃんがおるんよ!なんでこんな無茶苦茶な舞台に立たされないかんのよ!」
カナちゃん「せやせや!しかもやで、“下校のとき一緒に歩いてやる”って、誰が得すんねん!?ゆう君やって、そんなん望んでへんやろ!心の中で“のぞみさん”て繰り返してんのに!」
なっちゃん「ゆう君、あれやね。人質に取られた気分よな。もう心はのぞみちゃんでいっぱいなのに、身体だけ運動場に立たされとるんよ。かわいそうやわぁ!」
カナちゃん「ほんまやで。これな、“青春の1ページ”ちゃうねん。“青春ブラック企業研修”や!半径150mの無人地帯て、なんや荒野の決闘か思たわ!」
なっちゃん「ほんまに。映画やったら“荒野のグラウンド:決闘のゆう”やね。ラブポーションが銃構えて見張っとるんやろ?」
カナちゃん「しかもやで、“ゆう君がモテる”とかいう前提がまずおかしいねん!普通の子やんか!いや、ええ子やけど、特別にスター級オーラあるとかちゃうやん!」
なっちゃん「そやそや!のぞみちゃんとだけでええんよ!ピンポイントで成立しとる恋やのに、なんで無理やり“国民的アイドル”みたいにされとんの!」
カナちゃん「ゆう君、いま“ほんま僕は何をしてるんだろう”って小声でつぶやいたやろ?もうな、こっちまで泣けるで!青春ってもっと甘酸っぱいもんやん!」
なっちゃん「ラブポーションのせいで、甘酸っぱいが、ただの酸っぱいになっとるわ!胃薬飲まなやっとれんよ!」
カナちゃん「ほんまやで!……お、ここで視聴者のはがき届いとるわ。読んでええ?」
なっちゃん「読んで読んで!」
カナちゃん「ラジオネーム“電柱の影から”さん。『ゆう君、がんばれ!のぞみちゃん以外はスルーでええんや!』やって!」
なっちゃん「うわぁ、共感しかない!影から応援してくれとるんやね!」
カナちゃん「続いて、ラジオネーム“校庭の風”さん。『150m結界って、結局は孤立無援にさせたいだけやろ!』」
なっちゃん「うわぁ!その通りやね!“結界”て響きがもう悪役感すごいもん!」
カナちゃん「さらにX(旧Twitter)コメント。『ラブポーション、完全に青春ジャックバウアーやん』やって!」
なっちゃん「出た!ジャックバウアー!“24時間監視編”やんか!ほんま笑うけど笑えんよ!」
カナちゃん「ほんで別の人は『150m規制ってドローン飛ばす気やろ』って書いとるで」
なっちゃん「ありえるわぁ!監視ドローン飛ばされよったら、ゆう君もう逃げ場ゼロよ!」
カナちゃん「うんうん、やっぱりみんな怒っとるし、同時に心配もしとるなぁ。のぞみちゃんが知ったら泣くで、こんなん!」
なっちゃん「ほんまや。ゆう君、今は耐えとるけど、心ん中は“のぞみさん助けて”って叫びよるんやろね。もう私らも手ぇ握りたいくらいやわ!」
カナちゃん「うんうん、視聴者も一緒に叫んどるで。“ゆう君!走って逃げろ!でものぞみちゃんのとこに直行やで!”ってな!」
なっちゃん「この番組もほんま熱入るなぁ!ゆう君とのぞみちゃん、幸せな青春取り戻してほしいわ!」
カナちゃん「せやな!“半径150m結界”なんかより、二人で肩寄せ合う10cmの距離の方が、ずっと尊いんやで!」




