親衛隊 “ラブポーション”
昼休みの教室。騒がしいクラスメイトの声を遠くに聞きながら、ゆうは静かに本を読んでいた。ページをめくる指が心地よいリズムを刻む。
――しかし、その静寂は突然破られた。
何者かの視線を感じ、顔を上げると、目の前に立っていたのは一人の女子生徒だった。
(……誰だ?)
ゆうは驚きながらも、その女子の顔を見た。長い黒髪に鋭い目つき。整った顔立ちと堂々とした立ち振る舞い。そして、胸元には「ラブポーション」のシンボルであるハート型のアクセサリーが光っている。
(ラブポーション……?)
それは、悠依の親衛隊の名だ。彼女たちは学校内で強い影響力を持ち、悠依を崇拝し、守ることを使命としていた。
「……えっと、何か?」
戸惑いながら問いかけると、目の前の女子――ラブポーションのリーダーである愛が腕を組んでゆうを見下ろした。
「……ちょっと来てくんない?」
それは命令にも近い口調だった。教室内の空気が一瞬固まる。周囲の生徒たちも、まさかの出来事に息をのんでいる。
(何なんだ……?)
嫌な予感がする。だが、ここで抵抗しても状況が悪化するだけだろう。仕方なく、ゆうは静かに立ち上がり、愛の後をついていく。
廊下を歩く間、ラブポーションの他のメンバーもぞろぞろとついてくる。まるで護送される囚人のような気分だった。
そしてたどり着いたのは、屋上。
扉が閉まり、風が吹き抜ける中、ゆうは囲まれていた。ラブポーションのメンバーがずらりと並び、視線を集中させてくる。明らかに敵意を感じる空気だった。
(やばい……何かヤバいことになってる……)
逃げ場はない。ゆうは緊張しながら、目の前の愛を見つめる。
「……で?」
なるべく平静を装いながら問いかけると、愛は腕を組んだまま、低い声で言った。
「アンタ、どういうつもり?」
「……どういう、って?」
「とぼけるなよ」
愛の目が鋭く光る。他のメンバーたちも不穏な視線をゆうに向けている。
「アンタ、悠依に何かした?」
その名前を聞いた瞬間、ゆうの頭の中に疑問符が浮かぶ。
(悠依? 僕が?)
「……いや、別に何もしてないけど?」
正直に答えると、メンバーたちがざわめいた。
「はぁ!? 何もしてないわけないでしょ!」
「悠依様がアンタのこと気にしてるんだよ!?」
「この学校の100年に一人の女神が、なんでアンタなんかを――」
次々と浴びせられる言葉に、ゆうの思考が追いつかない。悠依が俺を気にしてる? 何の話だ?
「……ちょっと待ってよ。僕、本当に何もしてないし、悠依さんとは全く話したこともないんだけど」
困惑しながらそう答えると、愛はじっとゆうを見つめたまま、深くため息をついた。
「……はぁ。悠依様がアンタに興味を持ってるのは本当だよ」
「えっ?」
「本人から聞いたんだから、間違いない」
愛の言葉に、ゆうの脳が一瞬フリーズする。悠依が、僕に……興味?
(そんな馬鹿な……なんで僕なんかに…)
呆然とするゆうをよそに、ラブポーションのメンバーたちはざわざわと動揺していた。
「悠依様が、こんな地味な男に……?」
「信じられない……」
「まさか、悠依様が本気で――」
ラブポーションの間に走る不穏な空気。その中心で、ゆうはただただ混乱していた。
(いやいや、そんなわけが……僕はのぞみさんしか見えてないのに)
ゆうは、事態の飲み込めなさに呆然としていた。悠依が自分に興味を持っている? しかも、「一緒に歩いてやっても良い」と言っている?
愛の言葉が耳に入った瞬間、ラブポーションのメンバーから一斉に怒号が飛んだ。
「ふざけんな!!」
「なんでアンタなんかが悠依様と歩けるんだよ!!」
「ありえない!!」
「私が代わりに歩きたい!!」
まるで爆弾でも落ちたかのような騒ぎだった。ゆうは頭が痛くなり、ため息をついて踵を返した。
「悪いけど、僕は帰るよ…」
もう付き合いきれない。この場にいるだけで精神がすり減る。だが、その瞬間、愛が鋭く号令をかけた。
「止めな」
その一言で、メンバーたちが一斉に動く。ゆうの前に立ちはだかり、行く手を完全に塞いだ。
(……マジかよ)
ゆうは、しばらく沈黙した後、仕方なく肩を落とした。
「……で、どういうことなの?」
愛はゆうの様子を見て満足したのか、腕を組みながら続けた。
「悠依様は、あんたに少しだけ興味がある。だから、下校時、校門から駅までの道を“歩いてやっても良い”と言ってる。喜べ」
「……は?」
あまりに高圧的な言い方に、ゆうは言葉を失った。
(“歩いてやっても良い”……?)
今まで学校で話したこともない相手が、いきなりそんなことを言い出すなんて、どう考えても不自然だ。しかも、なぜそんな上から目線なのか。
(悠依って、こんなに高飛車な子だったのか?)
思わず呆れるが、それを口に出せば、目の前の親衛隊が黙っていないだろう。
「……悠依さんは、僕と歩きたいって言ってるわけじゃないんでしょ?」
そう確認すると、愛は当然のように言った。
「そうよ。悠依様は“やっても良い”って言ってるの。あんたのことを“気にしてる”んだから、ありがたく思いなさいよ」
「……あ、そう……」
ゆうはますます気分が悪くなってきた。こんな一方的な話、乗れるはずがない。しかし、ここで強く断ればどうなるかは明白だ。悠依のファン、そしてこのラブポーションを敵に回したら、平穏な学生生活が送れなくなる。
(……面倒くさいことになったな)
ラブポーションの視線が自分に集中しているのを感じながら、ゆうは小さくうなずいた。
「……わかったよ」
その瞬間、周囲のメンバーたちが「ふざけるな!」と再び怒号を上げる。ゆうは気にせず、深いため息をついた。
のぞみさん……
ゆうの頭の中には、のぞみの笑顔がくるくると回っていた。こんなくだらない話に付き合っている場合じゃない。自分が歩きたいのは、のぞみとだけだ――。
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ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
なっちゃん「出たーー!!親衛隊の名前が“ラブポーション”って!もう大映ドラマの世界やん!!」
カナちゃん「そうそう!なんやそれ!?ラブポーションて!恋の媚薬かいな!学校にそんな怪しげな名前背負った軍団おる!?ヤンキー漫画と宝塚が合体したんか思たわ!」
なっちゃん「リーダーの名前“愛”、もう完全に“世IV虎”やん!今は“世志琥”言うんやろ?プロレス界から転生してきたんか思うぐらいの迫力よ!」
カナちゃん「せやせや!屋上に連れていくシーンなんか完全に“愛と誠”か“大映ドラマ”の決闘シーンやで!背後に風バァーー吹いて髪サラァーーなってんの想像つくもん!」
なっちゃん「ゆう君、完全にビビりまくっとったよなぁ!そらそうよ、両サイドから“ラブポーション”に囲まれて“止めな”言われたら、もう“仁義なき戦い”やん!」
カナちゃん「しかもさ!『悠依様が、歩いてやっても良い』って、どんだけ上からやねん!“散歩させてもらえる犬”みたいな扱いやん!」
なっちゃん「ほんまよ!しかもその“やっても良い”を受け止めざるを得んゆう君よ……心の中ではのぞみちゃん一筋やのに!これからのドラマ、大きく動いてきたわい!」
カナちゃん「完全にのぞみちゃんとの三角関係火種やな!火薬庫に火つけたような展開!ラブポーションは学校の爆薬庫やで!」
なっちゃん「これ、視聴者も大興奮よ!じゃあはがき読もうや!」
カナちゃん「はいはい!ラジオネーム“屋上の風になりたい”さんから!『ラブポーション登場で心臓止まりました。まるで80年代学園ドラマが令和にタイムスリップしてきたみたい!』やて!」
なっちゃん「わかる!わかる!昭和の香りと令和のきらびやかさが混ざっとる!教室が舞台やのに“川崎球場の乱闘”ぐらいの迫力やった!」
カナちゃん「次はXのコメントや!“#のぞゆう沼”より、『歩いてやっても良いってセリフ、ラスボスの前口上かと思った』やて!」
なっちゃん「ラスボス感わかるー!ドラクエの魔王が“我が仲間になるがよい”言うやつやん!」
カナちゃん「ほんまや!そのくせゆう君の返事は『わかったよ』やろ?あんたRPG主人公の選択肢“はい/いいえ”の“はい”押さされただけやん!」
なっちゃん「しかもさ!“いいえ”選んだら2回目“本当にいいのか?”って聞いてくるやつやろ!どこまでも上からやわ!」
カナちゃん「次のはがき、“バイト帰りのぞみ推し”さん!『ゆう君はのぞみちゃん一筋でいてくれて泣けた。ラブポーションなんかに惑わされないで!』」
なっちゃん「そうよ!そうよ!もう心はのぞみちゃんだけ!ゆう君の心は“ひまわりが太陽追いかけるみたいに”のぞみちゃん一直線よ!」
カナちゃん「ラブポーションなんて所詮は“嵐を呼ぶ台風”や!通り過ぎたら青空残すんや!のぞみちゃんがその青空や!」
なっちゃん「でもこの嵐が物語をゴォーーッて揺らすんよ!のぞゆうの青春、もうシーソーゲームどころか観覧車ぐるんぐるんやけん!」
カナちゃん「次回も目ぇ離されへんで!!」




