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のぞみとゆうの物語 ~こんな恋をしている二人が羨ましい  作者: 播磨 颯太
第三部-3章 のぞみ、大学生になる
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のぞみのアルバイト

リビングのテーブルに広がっているのは、色とりどりのアルバイト情報誌だった。

蛍光色の見出し、写真に映る笑顔のスタッフたち。そこに顔を寄せているのはのぞみ。ページをめくる指先には、少し緊張と決意が宿っていた。


「……バイト、してみようかな」

小さくつぶやいた声は、自分自身に向けた確認のようでもあった。


親にばかり頼ってはいけない。大学生になった以上、自分で少しでも世界を広げたい。そんな気持ちが、のぞみをここに座らせていた。父からは「変な仕事でなければ構わない」と言われている。その言葉は重くはないけれど、責任感を芽生えさせる。


そんなとき――


「お姉ちゃん、それ何読んでるの?」

ふいに横から顔を覗かせてきたのは夏美。まだ高校生らしい無邪気な瞳が、キラリと輝いている。


のぞみは少し驚いて笑った。

「バイトの情報誌。私もそろそろやってみようかなって」


「ええっ! お姉ちゃんがバイト!?」

夏美は目をまん丸にして、勢いよく隣に腰を下ろす。情報誌を自分のもののように取り上げ、食い入るように眺めはじめた。


その様子は、まるで宝探しでもしているかのようだった。


「どれにしよっか~! 制服が可愛いとこ? それともまかない美味しいとこ? ねぇねぇ、どっち!?」


のぞみは思わず吹き出した。

「制服とかもいいけど……やっぱり、ゆう君が心配しないような仕事かな」


ゆうの名前を出すと、夏美は「なるほどね」と顎に手を当て、妙に大人ぶった顔になる。


「じゃあ、夜遅いのはダメ。怪しいおじさんが来るとこもダメ。あと、体力系すぎるのもダメだね」


「そうそう。あんまり疲れすぎても、勉強に響いちゃうし」


二人は真剣に考え込み、でもどこか楽しげだ。


やがて夏美がパッと指を差した。

「これどう!? カフェのスタッフ! 夜遅くないし、お客さんも優しそうだし!」


のぞみはページを覗き込む。

「へぇ……おしゃれだね。制服も可愛いし」


「でしょ! しかもさぁ……ゆう君が来たときに『いらっしゃいませ、ご主人様♡』って……」


「ちょっと、夏美! メイドカフェじゃないんだから!」

のぞみは慌てて夏美の頭をポンポン叩く。その頬はほんのり赤い。


「冗談だってば!」

夏美はケラケラ笑い、ページを次々めくる。


「でもさぁ、お姉ちゃんがバイトって、なんか大人っぽいなぁ。カッコいいじゃん」


「そ、そうかな」


「そうだよ! でもさ、ゆう君に言った?」


「まだ。決まってから伝えようと思ってるの」


夏美は唇を尖らせた。

「ふーん……でも、ゆう君、絶対心配するよね」


のぞみは苦笑しながら雑誌を閉じる。夏美の言う通りだ。きっと心配性の彼は、声を裏返らせて大げさに反応するだろう。


それでも――隠したまま決めてしまったら、また余計に不安にさせてしまうかもしれない。


のぞみはスマホを手に取り、深呼吸した。小さな吐息とともに決意を込めて、発信ボタンを押す。


ワンコール。ツーコール。


「のぞみさん! どうしたの?」

電話口から飛び込んでくる声は、いつものように明るくて元気いっぱい。聞いただけで心が少しほぐれる。


「うん……ちょっと話があって」


「なになに?」


のぞみが言葉を選んでいると、横から夏美が「早く言っちゃえ」と囁いてきた。観客のように目を輝かせ、ニヤニヤしている。


「実はね……アルバイトを始めようかなって思って」


その瞬間、受話器の向こうの空気が変わった。


「えっ!? どうして!? なんでバイトなんか――」

ゆうの声は裏返り、慌てふためいている。


「えっ、いや……ちょっとは自分でお金を稼いでみたいし、親に甘えてばかりもどうかと思って……」


「でも! のぞみさんがそんなことしなくてもいいじゃん! もしかして……お小遣い足りてないの? 困ってる?」


のぞみが言葉を探していると、隣で夏美は肩を震わせて笑いを堪えていた。


「違うの! 困ってるわけじゃなくて、社会勉強も兼ねてやってみたいなって」


「うぅ……でも、のぞみさんが大変になっちゃったら……」


ゆうの声はどんどん沈んでいく。予想通りだ。


「どんなバイトにするの?」


「カフェにしようかな。お酒も出さないし、夜遅くもないし」


「カフェ……?」


「うん。『アラモード』か、『ミルフィーユ』か、『マロニエ』ってとこ」


「えっ、大学の近くのカフェにしたら……僕から遠くなる……?」


「ちょっと待って! そこ!?」

のぞみは思わずツッコむ。その瞬間、夏美はとうとう爆笑。


「ぷっ……ゆう君、お姉ちゃんの親みたい!」


「えっ!? ち、違……!」

電話の向こうで慌てふためく気配がする。


のぞみは苦笑しながら言った。

「心配してくれるのは嬉しいけど、お母さんみたいにならなくて大丈夫だから」


「……でも、疲れちゃったり、変な人に絡まれたりしたら……」


「大丈夫。そんな時間までやらないし、カフェだから酔っ払いもいないから」


「……ほんと?」


「ほんと」


「……心配だけど……のぞみさんがそう言うなら」


しぶしぶ飲み込むような声。その不器用な優しさが、のぞみの胸を少し熱くさせた。


夏美は横で「制服の話は?」と小声で煽ってくる。のぞみは首を横に振り、唇に指を当てる。


「ゆう君、とりあえず安心して。ちゃんと考えて決めるから」


「……決まったらすぐ教えてね?」


「もちろん」


電話を切ると、リビングにはすぐに夏美のニヤニヤ笑いが広がった。


「お姉ちゃん、めっちゃ愛されてるじゃん!」


のぞみは視線を逸らし、頬を赤くしながら小さく頷いた。

「……まあ、そうかもね」


心の奥で、嬉しさと照れくささがせめぎ合っていた。


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