のぞみの計画
夜の静けさが部屋を包み込んでいた。机の上には大学の教科書やノートが散らばっているのに、のぞみの視線はそこにはなかった。ベッドの上に横座りし、両手を膝に置いて小さく呼吸を整える。頭の中を占めているのは、ただひとつ――ゆうにどうやって免許を取ったことを知らせるか、そのことだった。
「どうしようかな……普通に言うのはつまらないし……やっぱり驚かせたいよね」
声に出すと、胸の奥の期待がさらに膨らむ。自分が運転席に座っていることを知らないゆう。その表情を想像するだけで、鼓動が少しずつ早まっていった。
「よし、これがいい!」
のぞみはポンと手を打ち、立ち上がった。決意が固まると同時に、体が自然と動いていた。
廊下に出て、夏美の部屋のドアを軽くノックする。
「夏美、ちょっといい?」
「ん? どうしたのー?」と中から声が返る。
のぞみはドアを開けて、遠慮もなく中へ入っていった。部屋には柔らかい香水の匂いが漂い、机の上には色とりどりのペンと漫画雑誌が広がっている。ベッドの上でスマホをいじっていた夏美は、急に入ってきた姉に目を丸くした。
「なに? 急に」
「実はね、ゆう君にサプライズを仕掛けようと思って」
その言葉に夏美の目がぱっと輝く。興味津々に身を乗り出した。
「サプライズ!? なになに、どんなの?」
のぞみは一呼吸置いてから、わざと少しだけ溜めを作り、夏美に打ち明ける。
「それはね……」
(のぞみは夏美にヒソヒソと話している)
「えええ!!!」
夏美は飛び上がる勢いでベッドから立ち上がった。両手を大きく振り回して、目を輝かせながら声を弾ませる。
「最高じゃんそれ! 絶対ゆう君びっくりするよ!!」
姉の計画に大喜びして、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねる夏美。その無邪気な反応に、のぞみも自然と笑顔になった。
「でしょ? ふふっ」
のぞみは頬を染め、嬉しそうに微笑む。隠しておけないワクワクが声にも顔にもにじみ出ていた。
「駅でいつも通りバイバイすると思わせておいて……」
のぞみは言葉を区切りながら、胸に手を当てて息を弾ませる。
「そこから駐車場に連れて行って、父さんの車の前に立って……『実はね、ゆう君……』って切り出すの!」
言葉にするたびに胸が熱くなり、ドキドキと脈打つ心臓が強く存在を主張する。頭の中では、驚きで目を丸くするゆうの顔が鮮明に浮かんでいた。
「のぞみさん、まさか……!? って顔、絶対するよね」
「するする! もう絶対! サプライズ大成功間違いなしだって!」
夏美は大きく頷き、両手を叩いて喜んだ。その顔は、姉の幸せを心から応援している妹そのものだった。
でも、すぐに少し口を尖らせて、頬をぷくっと膨らませる。
「ていうか……いいなぁ。そのままドライブ行くんでしょ? ずるい」
のぞみはその姿に思わず吹き出した。
「もう、ちゃんと次は夏美も乗せてあげるから」
その言葉を聞いた瞬間、夏美の顔はぱっと明るくなった。
「ほんと!? 約束だからね!」
嬉しそうに指を差し出し、指切りを求めてくる。
のぞみも迷わずその指に自分の小指を絡めた。
「うん、約束」
二人の指が絡み合った瞬間、自然と笑い声がこぼれる。部屋の中には、姉妹だけの温かい空気が満ちていた。
心の奥で、のぞみは改めて強く思う。
——それにしても、ゆう君、どんな顔するかな……? 驚くだろうな、照れるかな、それとも言葉を失っちゃうかな。ちょっと緊張するけど、何より楽しみ!
胸の鼓動はもう抑えられないほど高鳴り、未来への期待で心がいっぱいに膨らんでいた。




