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のぞみとゆうの物語 ~こんな恋をしている二人が羨ましい  作者: 播磨 颯太
第三部-3章 のぞみ、大学生になる
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のぞみ、ついに免許取得

のぞみは免許センターの窓口を離れ、手の中に収まったばかりの免許証をまじまじと見つめていた。まだ新しいプラスチックの光沢が、朝の光を反射してきらめいている。そこに印刷された自分の顔写真は、少し緊張で強張っていたけれど、それもまた、この一瞬を証明するように思えた。


「……やったぁ」


小さな声と一緒に、思わず右手を握ってガッツポーズを作る。長かった教習所の日々、冷や汗をかきながら挑んだ卒業検定、そしてさっきの学科試験。全部が報われた瞬間だった。


けれど、心のどこかでまだ実感が追いついていない。自分が車を運転するなんて、本当にできるのかな。ドキドキする胸の音を抑えようと、のぞみは深呼吸した。


***


家に帰ると、ダイニングには父が新聞を広げて座っていた。朝の光がテーブルクロスの模様を浮かび上がらせ、日常の匂いがいつもより鮮やかに感じられる。のぞみは、免許証を胸に隠し持ちながら椅子に腰掛けた。


「お父さん……あのね」


声は自然と小さくなる。サプライズの秘密を抱えているみたいで、ちょっと恥ずかしい。


父は新聞を折りたたみ、顔を上げた。


「ん、どうした?」


「……私、免許取れたの。だから……今度、一緒にドライブしてほしいなって」


口にした瞬間、胸が熱くなる。父に一番最初に打ち明けることができて、少しホッとした。


父の眉が驚きと喜びで動いた。


「そうか! 合格したのか。よく頑張ったな、のぞみ」


「うん……ありがとう。でも、まだ一人で運転するのはちょっと怖くて。最初はお父さんが隣にいてくれたら安心するんだけど」


真剣な声に、父は新聞を机に置き、腕を組んで頷いた。


「なるほどな。よし、任せろ。まずは慣れることが一番だからな。父さんが横で見ていてやる」


その会話を聞いていた夏美が、椅子から勢いよく身を乗り出した。


「えっ!? お姉ちゃん運転するの!? それ絶対乗りたい! 私も助手席座る!」


のぞみは慌てて両手を振った。


「ちょ、ちょっと待って! 最初はお父さんと二人で練習するつもりだったの!」


「やだやだ、私も一緒に行く! だってお姉ちゃんが車走らせるなんて、一生に一度の瞬間じゃん! 見逃せないよ!」


頬をぷくっと膨らませる妹に、のぞみは困った視線を父に向ける。父は口元に苦笑を浮かべて、肩をすくめた。


「まぁ……夏美がいいって言うなら、一緒でもいいんじゃないか。ただし、運転中にお姉ちゃんの邪魔はするなよ」


「わーい! ありがとお父さん!」


夏美は椅子の上で小さく跳ねるほど喜び、のぞみはため息をつきつつも、その姿に思わず笑ってしまった。


「ほんとにもう……しょうがないなぁ」


内心では、妹に最初のドライブを見てもらえるのも、悪くないかもしれないと感じていた。


***


翌日。父の車を借りて、のぞみの初めての公道デビューが始まった。


ハンドルを握った瞬間、手のひらがじんわりと汗ばむ。革のステアリングの感触が、いつもより重く思えた。助手席には父と夏美。三人分の視線が自分に集まっているようで、心臓がまた早鐘を打つ。


「大丈夫か? 緊張してる?」


父が静かに問いかける。


「……うん、緊張してる。でも、大丈夫。落ち着いて運転する」


そう答えながら、のぞみは深呼吸を一つ。そしてキーを回すと、エンジンの音が胸の奥まで響いた。慎重にアクセルを踏むと、車はゆっくりと前へ進み出す。


最初の交差点、信号、横断歩道。全部が大きな壁のように迫ってきたけれど、のぞみは一つずつ乗り越えていった。


「お姉ちゃん、普通に上手じゃん! なんかプロみたいだよ」


助手席の夏美が感心したように声を上げる。その無邪気な言葉に、のぞみは少し照れくさそうに笑った。


「それは言いすぎ。でも……ありがと。ちょっと自信ついたかも」


父も頷き、窓の外に視線を向けながら呟く。


「危なげない運転だな。よし、落ち着いて走れてる」


街並みを抜け、ショッピングモールの駐車場に到着。のぞみは深呼吸し、車庫入れに挑戦する。ミラーを確認し、後ろを振り返り、少しずつハンドルを切る。車体が枠の中に吸い込まれるように収まっていく。


「……入った!」


ハンドルを戻した瞬間、体から力が抜けていく。


「おぉ、やるな、のぞみ」


父が穏やかな笑みで頷き、夏美は両手を叩いた。


「お姉ちゃん、めっちゃかっこいい!」


息を切らしながら笑うのぞみの頬には、汗が光っていた。けれどその表情は誇らしさに満ちていた。


「ふふ……ありがとう」


シートから背中を離し、のぞみはハンドルに触れた自分の手を見つめた。この手で、ついにどこへでも行けるんだ。そう思うと、心の奥からじんわりと熱が広がった。


「うん、のぞみ。もう大丈夫だな」


運転を終え、車庫に車を停めると、父が満足そうに頷いた。


「本当!? お父さん、もう心配しない?」


「ああ、お前の運転なら安心して任せられる」


「やったぁ!」


のぞみはハンドルの上でガッツポーズをした。

これまでの練習の成果が認められて、嬉しさが込み上げてくる。


「でも、調子に乗るなよ。運転は常に慎重にな」


「はいっ! わかってます!」


そんな父との会話を、リビングのソファでくつろいでいた夏美が聞いていた。

そして、満面の笑みを浮かべながら、のぞみに駆け寄る。


「お姉ちゃん、おめでとう! じゃあさ、じゃあさ! 今度は私とドライブに行こ!」


「えっ、もう?」


「だって、お姉ちゃんの助手席、私が一番乗りしたいもん!」


「えぇ……ゆう君より先に?」


「そりゃそうでしょ! 私の方が付き合い長いんだから!」


「確かに……」


可愛い妹のお願いを無下にできるはずもなく、のぞみは笑いながら頷いた。


「わかった、じゃあ明日、お昼からちょっとドライブしよっか」


「やったー! 楽しみ!」


夏美は飛び跳ねて喜び、のぞみもそんな妹を見て微笑んだ。

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