表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
のぞみとゆうの物語 ~こんな恋をしている二人が羨ましい  作者: 播磨 颯太
第三部-3章 のぞみ、大学生になる
76/492

朝の光と、ふたりの約束

のぞみは、目覚ましが鳴るよりもずっと早く、ぱちりと目を開けた。

カーテンの隙間から射し込む朝の光が、静かに彼女を包む。胸の奥に残っているのは、昨夜のゆうとの電話の余韻。疑われて、でも最後には謝ってくれた。彼が泣いてまで自分を想ってくれる、その姿が愛おしくてたまらなかった。


布団から抜け出し、軽やかな足取りで階段を降りる。

ダイニングには、パンを大きく頬張りながらスマホを操作する夏美の姿があった。


「おはよう、夏美」

のぞみの声は、自然にやわらかく弾んでいた。


「ん、おはよー、お姉ちゃん。今日早いじゃん」

夏美は口いっぱいにパンを詰め込みながら、怪訝そうに目を細める。


のぞみは椅子に腰を下ろし、ふと手を膝に置いて息を整えた。

昨夜のことが心に蘇る。ゆうの震える声、疑いと不安。彼の涙。

そのすべてを思い出すと、胸の奥が妙にくすぐったくなり、微笑みがこぼれてしまう。


「ねぇ、夏美。昨日ね……」


言葉を選びながら、のぞみはゆうとのやりとりを妹に語り出した。

最初、夏美は目を丸くして驚いたが、やがて肘をついて腕を組み、ふんふんと頷きながら聞いていた。


「へぇ〜、ゆう君ってそんなにお姉ちゃんのこと好きなんだ?」

半ば呆れたように、それでいて少し羨ましげに夏美が言う。


「うん……ほんとにね。私のことで不安になっちゃって……泣いちゃってたの」

のぞみは恥ずかしそうに目を伏せながらも、頬には確かな幸福感がにじむ。


「なにそれ、純情すぎるでしょ」

夏美はパンを飲み込むと、ふっと目を細め、わざとらしく肩をすくめた。

「そんな男子が同級生にいたなんてね。もし私の方が先に知ってたら、絶対落としてたのに」


「ちょっと! 夏美にはまだ早いでしょ!」

のぞみはぷっと頬を膨らませ、カップを取る手が少し強くなる。


夏美はケラケラ笑いながら、カップを持ち上げてコーヒーを一口すすった。

「冗談だってば。でも……いいなぁ、お姉ちゃん」


「……なにが?」


「だって、そんな風に真剣に想ってもらえるんだよ。普通、なかなかないじゃん」

夏美の声はほんの少し本音を混ぜた響きで、唇を尖らせていた。


のぞみは俯いて、コーヒーの表面に視線を落とす。

照れくささと誇らしさと、どうしようもなく込み上げてくる嬉しさ。

「私の方が先にゆう君と出会えてて、本当に良かった……」

小さくそう呟いた声は、夏美の耳にもしっかり届いた。


夏美は「ふーん」と曖昧に返事をしながらも、姉の横顔をじっと見つめた。

そこに浮かぶ穏やかな笑顔が、彼女の胸にわずかな寂しさを刻んでいった。


---


朝の駅。通勤通学の人々で賑わう雑踏の中、のぞみは改札を抜けて待ち合わせ場所へ急ぐ。

そして見つけた。少し緊張したように立つゆうの姿。


「おはよう、ゆう君」

声をかけた瞬間、自然と笑みがこぼれる。


「おはよう、のぞみさん」

ゆうは彼女の顔を見た途端、昨夜の不安と後悔が一気に胸を押し寄せてきて、思わず足を止めた。


真剣な眼差しを向け、彼は言葉を絞り出す。

「のぞみさん、昨日は……本当にごめん。僕、勝手に勘違いして……疑ったりして……ごめんなさい」


のぞみは驚いたように瞬きをしたが、すぐに柔らかな笑みで首を振った。

「ううん、気にしてないよ。むしろね、そんなに心配してくれて……嬉しかったの」


「……え?」

思わず聞き返すゆう。声が震える。


のぞみは頬をほんのり染めて視線を逸らした。

「だって……私のことで泣いちゃうくらい真剣だったんでしょ? そんなふうに想ってもらえるなんて、すごく幸せだなって」


その一言に、ゆうの心臓は大きく跳ね、胸が熱くなる。

彼は言葉を失い、代わりに彼女の手を強く握った。温かさが指先から心臓にまで伝わる。


電車が入ってきて、ふたりは並んで座席に腰掛ける。

まだ繋いだままの手。

車窓に流れる街並みがぼやけるほどに、互いの存在だけが鮮やかに感じられた。


「ねぇ、ゆう君。これからも……一緒に、こうして通えたらいいね」

のぞみが小さく囁く。


「もちろんだよ。のぞみさんとなら、毎朝でも毎日でも……」

ゆうは笑顔を隠せず、声が震えた。


その笑みを見て、のぞみも心から微笑む。

大学に進学しても、時間が合う日にはこうして二人で朝を過ごしていた。


電車が終点の難法駅に到着する。

降り立った二人は改札の前で立ち止まる。右に進むのぞみ、左に進むゆう。


「じゃあ、またね、ゆう君。帰ったらLINEするから」

のぞみは名残惜しそうに振り返り、軽く手を振った。


「うん。またね」

ゆうは立ち尽くし、のぞみの後ろ姿が雑踏に紛れるまで見送った。


その瞳には、彼女を失いたくない気持ちと、彼女を好きでたまらない想いが、すべて込められていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後までお読みいただきありがとうございました! ブクマ・ポイント評価お願いしまします!

私の作っている他の作品もお読みください!

クズ人間シンジの成り上がり人生 ~ボロ車でポリ袋10袋のアレを運び、美女二人と事業を起こす逆転人生

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ