揺れる進路、初めての通話
1月の夜、リビングにはテレビの光がゆらゆらと揺れていた。
のぞみは夏美と並んで、特に興味もないバラエティ番組を眺めていた。笑い声が部屋に響いても、心はどこか上の空。
そんな時だった。
父の低い声がリビングに響く。
「のぞみ、ちょっと来なさい。」
その一言で、のぞみの心臓がひやりと冷えた。嫌な予感。声の調子で分かる。これはただの呼びかけじゃない。勉強、進路、未来。そういう話だ。
立ち上がり、ゆっくりと足を運ぶ。リビングに入ると、やはり両親が揃っていた。母もいる。真剣な表情、テーブルの上には数枚の紙。模試の結果だ。
父が切り出す。
「この前の予備校の学力テストの結果を見たけど、かなり良いじゃないか。この調子だと、関東の大学の合格も固そうだな。」
やっぱり、そう来た。のぞみの胸に重石が落ちる。
母も目を細めて頷く。
「そうよ、のぞみ。あの大学に行けたら、将来は安泰よ。」
父の声は熱を帯びていく。
「あの大学に行ければ、どんな大手企業からも引っ張りだこなのよ。父さんも母さんも全力で応援するからな。」
勉強の成果を褒められるのは嬉しいはずだった。でも、のぞみの返事はか細い。
「……うん。」
それ以上、何も言えない。
一年前の自分なら、心から笑っていたかもしれない。けれど今は違う。のぞみの胸の奥には、別の鼓動がある。
ゆうの存在。
駅のホームで交わす小さな会話。混雑した車内で、偶然触れた肩の温もり。笑った顔。真剣な眼差し。
その一つひとつが、自分の未来の形を変え始めていた。
のぞみ心の声 関東の大学に行くってことは……ゆう君と離れてしまうってこと?
頭では分かっていた。それでも改めて思うと、胸がきゅうっと締めつけられる。未来への切符が、自分の大切な時間を遠ざけるようで怖かった。
「のぞみ?聞いてる?」
母の声で我に返る。
「うん……ちょっと考えさせて。」
作り笑いで答えるのが精一杯だった。
その場を逃げるように部屋へ戻る。扉を閉め、ベッドに腰掛けた瞬間、体の力が抜ける。
天井を見上げながら、スマホを握りしめる。
のぞみ心の声 どうしよう。私、このまま関東に行っていいのかな……?ねえ、ゆう君。私、どうすればいいの?
考えれば考えるほど、不安と焦りが波のように押し寄せてくる。気づけば指が勝手に動いていた。LINEを開いて、画面に映る名前を見つめる。
「……通話。」
小さな声でつぶやきながら、通話ボタンを押す。心臓が跳ね上がる。
これまでのやり取りはメッセージだけだった。通話は初めて。
緊張で喉が渇き、手のひらに汗がにじむ。
呼び出し音。たった数秒なのに、永遠のように長い。
――そして。
「……もしもし。」
受話口から聞こえた、少し戸惑ったゆうの声。
胸が一気に熱を帯びる。聞き慣れていないけれど、確かに彼の声。現実に彼と繋がっている。
のぞみは深呼吸し、震える声で言葉を紡いだ。
「ゆう君?ごめんね、急に……今、大丈夫かな。ちょっと……話したくなっちゃって。」
初めての通話。その一言で、のぞみの鼓動はさらに速くなる。
部屋の静けさに、自分の心臓の音だけが響いていた。
のぞみ 「ゆう君? ごめんね、急に……今、大丈夫かな?ちょっと、話したくなっちゃって。」
電話越しの自分の声が、普段より高く、不安げに聞こえる。文字だけでのやり取りでは隠せていた緊張が、声になるとすぐに表に出てしまう。けれど、それでもいいと思った。彼に、いまこの気持ちを届けたかった。
静かな間があり、受話器の向こうで息をのむ音がした。ゆうもまた戸惑っているのだと伝わってくる。その沈黙が妙に愛おしい。
のぞみ 「ねえ、今度の土曜日、ゆう君って予定ある? 私ね、予備校が午前で終わるから、もし良かったら、その後、一緒にどこか行かないかなって思って電話したの。」
勇気を振り絞った言葉だった。胸の奥にあった迷いを、少しだけ押し出して声に変える。誘った瞬間、耳の奥が熱を帯びる。今、自分はとても大胆なことをしている。そう思うと、心臓がまた大きく跳ねた。
しばらく返事が返ってこない。呼吸だけが伝わる数秒。その緊張の間すらも鮮やかに感じられる。そしてようやく、弾む声が届いた。
ゆう 「えっ……僕と? うん……予定は……ないよ。行きたい、ぜひ!」
声に勢いが乗りすぎて、最後が少し裏返る。その拙さが、逆に本心であることを強く物語っていた。のぞみの胸に、じんわりと温かさが広がっていく。
のぞみ 「本当? 良かった……じゃあ、土曜日、どこかで待ち合わせしようね。」
言いながらも、唇の端が自然と緩む。彼の答えに安堵し、笑みがこぼれて止まらない。どこに行くか、何をするか、それは二の次だった。ただ“二人でいる”という事実が、のぞみにとっては十分すぎるほど特別だった。
しかし、電話口のゆうは少し迷っているような気配がした。どこで会うか、どんなふうに時間を過ごすか、そんな細かいことをどう切り出せばいいのか分からないのだろう。
のぞみ 「ふふ、ゆう君が行きたいところでいいよ。私、ゆう君と一緒ならどこでも楽しいと思うから。」
軽く笑いを含ませて言うと、空気が少し和らぐ。気持ちは本当にその通りだった。場所ではなく、人。ゆうと過ごせるかどうかがすべてだった。
間を置いて、真剣な響きを帯びた声が返ってくる。
ゆう 「じゃあ、映画とかどうかな? そのあと、少しゆっくり話せる場所に行こうよ。」
彼が選んだ言葉に、のぞみの胸がまた熱くなる。映画。人に囲まれた暗闇で隣に座れる時間。そして、そのあとで、静かに二人きりで言葉を交わせる場所。想像するだけで顔が赤くなりそうだった。
のぞみ 「うん、それいいね!じゃあ、映画の時間とか調べて、また決めよっか?」
自分の声が浮き立っているのが分かる。笑顔を抑えられず、言葉に乗せてしまう。どんな作品を選ぶのか、どんな表情で彼がスクリーンを見つめるのか、それを横顔から見られることまで楽しみになっていた。
ゆう 「分かった、調べてみる!」
短い言葉に、弾けるような喜びが混じっていた。電話越しでも分かる。自分だけではなく、彼も同じ気持ちでいる。それが何より嬉しかった。
通話を切ったあと、のぞみはベッドに倒れ込んだ。ついさっきまで、両親に進路の話をされて、胸の奥が押し潰されそうになっていた。その不安と苦しさが、今は嘘のように薄れていく。
週末に、ゆうと二人きりで過ごせる――それが彼女にとって初めての“デート”になる。
もし関東の大学に行ってしまえば、こうした時間を作ることは難しくなるかもしれない。だからこそ、このひとときを全力で大事にしたいと思った。
心臓はまだ早鐘のように鳴っている。それでも、その音が心地よく感じられた。
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ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
なっちゃん 「ちょ、ちょっと待ってや……!!今の、のぞみちゃんの震える声、ほんま心臓直撃やったんよ!進路でぐらぐら揺れとるのに、指が勝手に“通話ボタン”押しとるんよ!?あれもう…恋が勝っとる証拠やん!」
カナちゃん 「わかるわかる!しかも“ゆう君?ごめんね、急に……”って!初めての電話やのに、声ちょい上ずっとる感じな!?もう脳内で赤ランプ点滅!『初めてのアコム』ならぬ『初めての通話』やん!」
なっちゃん 「ふふっ、やめて!アコムは草!でもほんまそうなんよ、声が裏返るゆう君もヤバいし、“予定はないよ!行きたい、ぜひ!”って勢い余っとるやん!もうバンジージャンプ飛んだ瞬間みたいな、声ひっくり返し恋心むき出し現象!」
カナちゃん 「のぞみちゃんもさ、“ゆう君と一緒ならどこでも楽しい”って!これプロポーズ前段階やで!?『イオンでもスーパー銭湯でも幸せ!』くらいの破壊力あるんよ!」
なっちゃん 「うち、もう耳塞ぎたいくらい尊い!あれや、冬のコタツの中でみかん食べよったら、突然イチゴ大福が出てきた衝撃!甘さが想定以上なんよ!」
カナちゃん 「しかもさ、“映画とかどうかな”ってゆう君提案するんやけど、その後の“ゆっくり話せる場所”!これ完全に布石やん!映画館暗闇でドキドキして、その余韻でカフェで『実は…』のやつやん!!」
なっちゃん 「もう叫ぶしかない!うおおお!青春爆発か!?」
カナちゃん 「……ほな視聴者はがき、読んでこか。いっぱい届いとるで!」
――ラジオネーム「雪のホームの通学路」さん
『のぞみちゃんの初通話、あれ心拍数が共鳴した!自分も高校ん時、好きな子に電話する前、親にバレんように押し入れで震えてたの思い出したわ!』
カナちゃん 「わかるわ〜!電話ボタン押す指って、押入れの奥のカビより重いんよ!」
なっちゃん 「例えクセ強いけど分かる!指一本に世界乗っとるんよ!」
――Xコメント「#初通話の衝撃」
『あの呼び出し音の間こそ、恋愛のマラソン42.195km』
なっちゃん 「ほやけん!5秒でフルマラソン走った顔なっとるんよ!」
カナちゃん 「ほんまに!電話出るまでが富士山登頂や!」
――ラジオネーム「バス停の夕暮れ」さん
『“ふふ、ゆう君と一緒ならどこでも楽しい”の台詞、もう人生のサウンドトラックやろ!』
カナちゃん 「CDで出して!いやLPでもいい!レコード回して泣きたい!」
なっちゃん 「サントラやのに涙腺破壊兵器!」
――Xコメント「#青春爆発」
『映画→その後カフェって、“恋愛フルコース”すぎる。前菜スープから最後のデザートまで完璧やん』
なっちゃん 「フレンチディナー超えとる!愛のフルコース!」
カナちゃん 「ミシュラン三つ星ならぬ、青春三つ星や!」
なっちゃん 「うちらもう息切れしよるけど、まだ読んでええ?」
カナちゃん 「行こう!この勢い止めたら死ぬ!」
――ラジオネーム「受話器のシンフォニー」さん
『“もしもし”の一言で部屋の空気が変わる、あれが恋の魔法や』
カナちゃん 「名言出た!もしもしは魔法の呪文や!」
なっちゃん 「ほんまに!ハリポタの“エクスペクトパトローナム”より効くんよ!」
――Xコメント「#のぞゆう尊い」
『通話終わった後ベッドに倒れ込むのぞみちゃん、完全に恋のオペラ終演シーン』
なっちゃん 「オペラ座の怪人もびっくりの大団円!」
カナちゃん 「拍手喝采!アンコール!再通話希望!!」
なっちゃん 「やばい…息できんくらい尊い……」
カナちゃん 「酸素ボンベいるな。のぞみちゃん、ゆう君!ほんまにありがとう!青春の尊さを供給してくれてありがとう!」
なっちゃん 「進路と恋の板挟みで揺れるのぞみちゃん、でも初めての電話で一気に空が晴れたんよ!ほんま涙出る!」
カナちゃん 「次の展開、怖いくらい楽しみやで!!」




