初めて交わした言葉(後編)“のぞゆう”の誕生
のぞみは少し唇を噛みしめ、けれど決意を込めて口を開いた。胸の奥に隠していた秘密を、どうしても伝えなければならないと感じていた。
「ゆう君って……今、高2でしょ? あのね……もしかしたら、うちの妹と同じ中学校だったんじゃないかって思ったの。それで、夏美の卒業アルバムを引っ張り出して調べてみたの」
自分で言いながら、顔が熱を帯びていく。心臓は痛いほど高鳴り、手のひらには汗がにじんでいた。
「……そしたらね、見つけちゃったんだ。ゆう君の写真……ごめん。なんか、ストーカーみたいなことしちゃって」
吐き出すように言葉を落とした瞬間、のぞみの胸の奥は締めつけられるようだった。嫌われるかもしれない、気持ち悪いと思われるかもしれない。その不安で、足元がぐらりと揺れる気がした。
けれど、ゆうの表情は思いもよらぬものだった。目を見開き、しかしその奥に光るのは驚きよりも温かさだった。
「え……そんな、ストーカーだなんて。全然…」
声は柔らかく、少し震えているようにも聞こえた。
「……のぞみさんって、中学校の先輩だったんだね」
その一言に、のぞみの胸の奥で張り詰めていた糸が少し緩む。思わず息を吐き出し、笑みがにじんだ。
「良かった……。本当に良かった。もしゆう君が気を悪くして、『気持ち悪い』って思って、もし嫌われちゃったらどうしようって……ずっと心配してたの」
言葉にした瞬間、胸の奥から溢れるのは“嫌われたくない”という切実な想いだけだった。
ゆうはその言葉に胸を突かれたように一瞬目を伏せ、けれど必死に顔を上げた。
「……そんなこと、あるわけないよ。僕が……のぞみさんのこと、嫌うなんて」
震える声。けれどその言葉は、のぞみの心の奥まで染み渡った。胸がじんわりと熱くなり、涙がこみあげそうになる。
それでも、のぞみの心は落ち着かなかった。このまま今日の会話が終わってしまえば、また接点は朝の電車しかない。それは嬉しいけれど、もっと近づきたい、もっとつながりたい――そう思うと、胸の奥がソワソワして落ち着かなかった。
勇気を出してLINEを聞きたい。でも、切り出す勇気がどうしても見つからない。心臓は「今言え」と急かすのに、声は喉で止まってしまう。
そんなときだった。
「……あ、あのさ」
ゆうの声が不意に届く。のぞみの心臓が大きく跳ね上がる。
「もしよかったら……LINE、交換してもらえないかな?」
一瞬、耳を疑った。いや、聞き間違いじゃない。ゆうが、今、自分に「LINEを交換しよう」と言った。
「……! 嬉しい……!」
声が震えた。頭の中が真っ白になりそうで、でもそれ以上に全身が歓喜で震えていた。
「私ね、今日ゆう君に会えたら、それを言おうと思ってたの。……でも、まさかゆう君の方から言ってくれるなんて……本当に、本当に嬉しい!」
言葉が止められなかった。頬が熱くて、きっと真っ赤になっている。けれど、恥ずかしさよりも嬉しさが勝っていた。
二人は同時にスマホを取り出す。少しぎこちない指先で画面を操作し、QRコードを開き合う。顔が近づき、互いの気配を強く感じる。息を吸うだけで胸が高鳴った。
ピッ――。
短い音が、まるで祝福の鐘のように響いた。画面に表示された名前は、シンプルに「ゆう」。
その瞬間から先の記憶は、のぞみには霞がかかったように曖昧だった。ただ心が浮かび上がるように軽く、世界が輝いて見えていた。
のぞみが家のドアを開けると、目の前に夏美がいた。
「どうしたのお姉ちゃん。すごい嬉しそうな顔なんだけど、目がウルウルしてるよ。何かあったの?どこに行ってたの?」
夏美が尋ねてきたその瞬間、のぞみは一瞬言葉が詰まった。
こんなに嬉しい気持ちと、少し恥ずかしい気持ちが入り混じって、何を言えばいいのか分からなくなった。
でも、これまでの出来事を振り返ると、今の自分が感じていることを伝えたくて、少し考えてからこう答えることにした。
「ううん、何でもないよ。ちょっと外に出てただけ。」と、のぞみが答えると、夏美は私をじっと見つめ、眉をひそめてから言った。
「ふーん。でも、絶対何かあるでしょ。顔が全然隠しきれてないよ。」
のぞみはついに思わず顔を赤らめてしまった。
部屋に入ったのぞみは夢心地のままスマホを開いた。震える指で文字を打つ。
「ゆう君。今日は会えて、LINEも交換できて本当に嬉しかったよ。ずっと一緒に電車に乗れなかったけど……明日からはまた、同じ電車に乗ろうね」
送信ボタンを押す指先が震えた。けれど、その震えは不安ではなく幸福の余韻だった。
まるで、この文字が夢と現実を隔てる壁を越えて、彼とのつながりを確かめてくれているかのようだった。
返事はすぐに届いた。
「僕も、すごく嬉しかったです。のぞみさんと、なんとか話したいってずっと思ってたんです。明日からは……新しい気持ちで、同じ電車に乗れると思うと、楽しみで仕方ないです」
読み返すたびに胸がいっぱいになり、のぞみはスマホを抱きしめて布団に沈み込んだ。
――そして、すぐにのぞみはスタンプを送り返した。
それは、丸いキャラクターの笑顔のスタンプ。
「ありがとう」と添えられた文字に、小さなハートマークがひとつ。
幸せが体の奥から溢れて、眠れなくなる夜だった。
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ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
カナちゃん「ぎゃーーー!!! 来た来た来た来たーーー!!! のぞみちゃんがついに爆弾投下やで!!!妹の卒アル持ち出して調査してましたって、そんなんもう探偵ナイトスクープ級の行動力やん!!」
なっちゃん「ほやけん!!普通なら『え、ちょっと怖いかも…』ってなるとこよ? けんどゆう君は目ぇキラキラさせて『先輩やったんやね』って!あの笑顔よ!!なんなん、世界守っとん?」
カナちゃん「ほんまにな!のぞみちゃんの『嫌われたくない』って気持ちが、もう言葉のひとつひとつに溶け出しとってさ……ワイ涙腺ガバガバやわ。電車待ってるホームの風景がもう光背負ってるもん!」
なっちゃん「しかもやで?のぞみちゃん、ほんまはLINE聞きたいのに勇気出んとソワソワしよったんよ。観とるこっちは『がんばれええ!!』ってテレビの前でタオル振りまわす母ちゃん状態やったわ!」
カナちゃん「ほんでやで?不意打ちで来たやん、ゆう君の『LINE交換してもらえないかな?』ってやつ!あれ!!あの瞬間、空気止まったで!!」
なっちゃん「鳥肌立ったもん!心臓バクバクしよったけん、のぞみちゃんの気持ちまるごと移ってしもうて……わたしまでスマホ取り出してQR出すんかと思ったわ!」
カナちゃん「わかるぅーー!!ピッて音した瞬間な、あれはもう教会の鐘やった。結婚式のチャイム鳴っとったで。シンプルに『ゆう』って出た画面が、世界でいちばん尊い奇跡の証拠や!」
なっちゃん「ほんま100回観てもまだ泣けるシーンやな!第2話来たでぇぇ!!!もうこれ1話完結なんか無理やけん!」
カナちゃん「伝説や!電車ラブストーリー界隈の国宝指定や!文化庁に申請するべきやで!」
――ここで視聴者からのお便りコーナー。
なっちゃん「ほなまず一通目!『ペンネーム・ホームのベンチは指定席さん』からやで」
カナちゃん「『のぞみちゃんが唇噛んで勇気振り絞ったとこ、まるで戦国武将が合戦前に甲冑締める瞬間みたいで痺れました』やって!」
なっちゃん「わかるー!あれはもう告白じゃなくて決戦よな。武将が『いざ出陣!』って旗振り上げるシーン重なったわ!」
カナちゃん「次!『ペンネーム・ピッ音尊いさん』」
なっちゃん「『QRコードのピッが鳴った瞬間、うちの心臓もピッて登録された気がしました。もう私ものぞみちゃんの友だちやん』やって!」
カナちゃん「せやな!全国民の心が一斉に登録された瞬間やった!『ゆう』の名前がスマホに出るだけで、世界平和やで!」
なっちゃん「続いてXのコメントも拾うよー!」
カナちゃん「ハッシュタグ #のぞゆう無限尊い で、『LINE交換シーン100回ループして観てます。ご飯より栄養ある』って来とる!」
なっちゃん「ご飯より栄養て!ビタミンLやな!」
カナちゃん「おもろすぎるやろ!でもわかるわー、あれ観たら白米3杯はいける!」
なっちゃん「ほんま視聴者全員がソファの上で転げ回っとるん見えるけん!」
カナちゃん「なっちゃん、これもうわたしたち、悶絶死するわ」
なっちゃん「ほやな……尊さで昇天寸前やけん!」
カナちゃん「ついにのぞみちゃんとゆう君が初めてしゃべる!これは伝説のシーンや!!」
なっちゃん「もう100回観てもまだ観れるわ!!」
カナちゃん「永久保存やで!!」




