名前を知った日
あれから三日が過ぎた。
布団に沈むような高熱はもう引いて、体は軽くなっていた。けれど、医者からは1週間学校は禁止だと言われている。頭では分かっている。でも、心は落ち着かない。
あの人――毎朝同じ電車で見かける彼。きっと今日も、いつものホームで、いつもの電車に乗っているはずだ。なのに自分はここで寝ているだけ。彼の姿が見られない日々が、こんなにも苦しいなんて、思いもしなかった。
のぞみは枕をぎゅっと抱きしめた。
――彼はどこの中学出身なんだろう。私の通ってた中学にいたんだろうか。
でも、同じ駅を使ってるなら、家もきっと遠くない。もしかして、下の学年で、妹の夏美の同級生だったのかも……?
ふと胸にひらめきが走る。
――そうだ、夏美の卒アルを見れば分かるかもしれない。
のぞみは布団を押しのけ、少しだけ上体を起こした。声を張るのもまだ辛かったけれど、必死に妹を呼んだ。
「夏美……ちょっと、いい?」
リビングから返ってきたのは気の抜けた声。
「ん?なにー?」
夏美はソファに寝転がってスマホをいじっているらしく、面倒そうに返事をする。
「ねえ……あんたの中学の卒アル、まだある?」
「卒アル?なんで?」夏美は片眉を上げ、不思議そうに首をかしげる。
「ちょっと見たいの。貸してほしいな」
のぞみの声はなるべく平静を装っていた。だけど、心臓はどくどく早鐘を打っている。理由を悟られたくなくて、視線を布団に落とした。
「ふーん、まぁいいけど……」
夏美は訝しげな顔をしながらも、自分の部屋へ向かう。
のぞみは、待つ数秒がやけに長く感じられた。やっと戻ってきた夏美の手には厚い卒業アルバム。
「はいはい。これでしょ?……てかさ、誰か探してんの?」
無邪気な問いかけに、のぞみは一瞬言葉を詰まらせた。
「ちょっとね……」
曖昧に答え、アルバムを受け取る。その瞬間、手の中の重みが胸の奥の期待と重なった。ここに、彼がいるかもしれない。
ページをめくる指先が自然と震える。
「ねえ、誰?誰を探してんの?」
夏美が横からぐいっと覗き込んでくる。
「ちょ、ちょっと待ってよ!一人で見せて!」
「えー、怪しい!もしかしてお姉ちゃん、好きな人とか?マジでー!?気になるんだけど!」
夏美の茶化す声に、のぞみの頬は一瞬で熱くなる。
「うるさいなぁ!いいから向こう行ってて!」
「ケチー!」夏美は笑いながらリビングへ戻っていった。
部屋に静けさが戻る。アルバムのページをめくる音だけが響く。心臓がますます高鳴る。
そのとき、指が止まった。
――いた。
――彼が。
写真の中の少年の顔は、毎朝電車で見かけるあの人と同じだった。整った目元、少し照れたような笑顔。制服の襟元まで鮮明に記憶と重なった。
「……やっぱり……同じ中学の後輩だったんだ……」
のぞみは息を呑み、ページに吸い寄せられるように見つめる。その下に小さく名前が書かれていた。
――ゆう。
「……ゆう……くん?」
声に出すと、胸が一気に熱くなる。震える指で文字をなぞる。
――ゆう君。
これまで知らなかったはずの名前なのに、不思議としっくりくる。まるでずっと前から心のどこかで知っていたみたいに。
「……ゆう君……」
小さな声で繰り返す。胸の鼓動が速すぎて、息まで乱れる。平熱に戻ったはずの体温が、再びじわじわと上がっていく。
のぞみはアルバムを胸に抱きしめ、目を閉じた。
知らなかった名前を知っただけで、こんなにも世界が変わって見える。彼をもっと知りたい、もっと近くで呼びたい――そんな願いが、抑えきれないほど膨らんでいった。
◾️◾️◾️◾️◾️
ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
なっちゃん「ちょっとちょっと!出ましたよカナちゃん!ついに出てきた、妹の夏美ちゃん!!」
カナちゃん「きゃーー!!待ってました名脇役!!このタイミングで登場するんやで!?ほんま脚本神やろ!?いやあ、夏美ちゃんがアルバム持ってくるだけで、場面の空気ぜんぶ変わるんよ!」
なっちゃん「ほじゃけん!なんかこう…ドラマにスパイス投入された感じよ!のぞみちゃんの胸のドキドキと、夏美ちゃんの“なんなん~誰探してるん?”って茶化すノリ…ああ、リアルな姉妹やわぁ!」
カナちゃん「そうそう!で、のぞみちゃん、あんだけ顔真っ赤にして“うるさい!”って言うんやけど、ほんま心の中では“図星やん!”て叫んでるんよなぁ!見てて悶絶するでこれ!」
なっちゃん「ほんまに!アルバムめくる指が震えよんよ!ページのカサカサ音が、もう心臓のドキドキと同じリズムに聞こえてきたもん!」
カナちゃん「出たーー!ゆう君!!」
なっちゃん「見つけた瞬間の“――いた。”のぞみちゃんの呼吸、止まったよな!?ほんまに息を呑んだ音、聞こえた気したもん!」
カナちゃん「ほんでや!名前をなぞるシーン!“ゆう……くん?”って震える声で呼ぶやんか!あれな、もう全国の女子高生が“私もこんなん言いたい~~!”て布団に顔埋めるやつや!」
なっちゃん「わかる!しかも初めて名前知っただけで世界が変わるって、これ恋やけん!ただの名前が、もう宝石みたいな響きになるんよ!」
カナちゃん「ほんまに!“ゆう君”て小声で繰り返すとこな!あれもう、恋の呪文やん!完全にときめきのラストスパート入ってしもてる!」
なっちゃん「のぞみちゃん、熱さがったのにまた上がっとるけん!それくらい心臓バクバクしよるんよ!」
カナちゃん「うんうん!アルバム抱きしめて目閉じるシーンとか、もう少女漫画の表紙レベルやで!」
なっちゃん「はい、ここでお便り来とります!」
カナちゃん「おっ!いこいこ!」
なっちゃん「ラジオネーム“ホームの片隅から”さん。“のぞみちゃんのアルバム探し、あれは恋心の宝探しやと思いました。ページをめくるたびにドキドキして、自分まで息苦しくなりました”」
カナちゃん「わかるわかる!!ほんまにアルバムって宝箱やねん!ページ開くたびに、心臓がカチンコ鳴ってまう感じする!」
なっちゃん「次はXから。“#なっカナ実況”タグより、“ゆう君の名前出てきた瞬間、叫んでしまった。わたしまで彼の名前を知った気分になってる”」
カナちゃん「せやろ!?もう全視聴者が一緒に“ゆう君!”って叫んだんや!これな、恋愛ドラマあるある超えて、もはや国民行事やで!」
なっちゃん「ラジオネーム“卒アルはタイムマシン”さん。“のぞみちゃんが指で名前をなぞる描写、涙出ました。名前を知るって、相手との距離を一気に縮める魔法みたい”」
カナちゃん「きゃああ!ええ表現!ほんま魔法や!名前を口にするたび、心の中にキラキラした星が降ってくるんよなぁ!」
なっちゃん「ほんまそれ!ゆう君の名前呼んだ瞬間、のぞみちゃんの世界がカラフルに塗り替えられたんよ!」
カナちゃん「最後にXから。“もし自分が夏美やったら、絶対一緒に覗き見てたわ。姉の恋心を探るの、妹の特権やし”」
なっちゃん「いやほんまやね!夏美ちゃん、ちゃっかり覗こうとしよったけど、それすらドラマにええアクセントになっとるんよ!」
カナちゃん「このシーン、ほんま見てて心臓が跳ねすぎて酸欠になりそうやった!のぞみちゃん、いじらしいわぁ……」
なっちゃん「ゆう君の名前を知っただけで、世界が光り出す――恋って、ほんま凄いもんやねぇ!」
カナちゃん「せやなぁ!みんな、次回も酸欠覚悟で観よな!」




