前から2両目の2番目のドア
西元山駅、12月20日。
朝7時10分。冬の空気は張り詰めるように冷たく、吐く息は白く伸びて消える。
今日はいつもより少し早めにホームに立ったゆう。
普段と違う“前から2両目の3番目のドア”の列に並んでいた。
――試すんだ。
昨日、自分の後を追うようにのぞみが同じドアに乗ってきたことが頭から離れない。
それが本当に偶然なのか、確かめたかった。
「……来てくれるかな」
心の声は、期待と不安で揺れていた。
視線は自然と階段の方へ吸い寄せられる。
足音の気配に敏感になっていた。
そして――のぞみが階段を降りてくる姿が見えた。
制服のスカートが小さく揺れて、髪が肩に跳ねる。
彼女は迷いなく“いつもの2番目のドア”に向かって歩いていく。
ゆうの胸がズキリと痛む。
――やっぱり……僕だけの思い込みだったのか。
そう思った瞬間、のぞみの足が止まった。
列に並ぼうとしたはずのその瞳が、一瞬迷いを含む。
キョロ、キョロ……視線があたりをさまよう。
探しているのは――誰?
ゆうは前を向き、わざとそちらを見ない。
けれど心臓は早鐘を打っている。
そして――のぞみの視線がゆうを捉えた。
小さく目を見開いたのち、ためらいを隠すように彼の列へと歩き、自然に後ろに並んだ。
その瞬間、ゆうはまだ気づいていなかった。
だが電車が入線してくると、窓ガラスに映る“こちら側の影”に気づく。
自分のすぐ背後に立つシルエット。
心臓が跳ねた。
――の、のぞみさん!?
――やっぱり……僕のいるドアを選んだんだ。
胸に溢れる確信と高鳴り。
――もしや……僕を探してくれていたのか?
――僕は、ただのモブじゃなくて……彼女にとって“意識する相手”なんじゃないか?
その考えはあまりにも都合のいい妄想かもしれない。
けれど、止まらなかった。
――いや、それどころか……もしや僕に気がある?
――わざわざドアを変えてまで、一緒に乗ろうとしてくれてるんじゃ……?
思考は熱を帯びて膨らみ続ける。
ドアが大きな音を立てて開いた。
人波に押されるようにして、ゆうとのぞみは同じ車両へ。
のぞみはさりげなく、ゆうの近くで立ち止まると、いつものように英単語帳を開いた。
ページをめくる指先は落ち着いているようで、わずかに早い。
ゆうはもう文字通り“落ち着かなかった”。
鼓動は耳の奥で響き続け、英単語帳を見下ろすのぞみの横顔に視線を奪われる。
終点・難法駅までの時間が、今までで一番長く、一番短い時間に感じられた。
――同じドアに立つ。それだけで世界が変わる。




