聞いてほしいことがあるの
土曜日の神野市は、冬の澄んだ空気に包まれていた。
12時半、駅前の広場は買い物客や学生で賑わっていたが、ゆうの視線はその人混みの奥だけを見つめていた。
そして、前と同じように。
人混みの向こうから、スカートの裾を揺らして駆け寄ってくるのぞみの姿が見えた。
のぞみ「ごめんね、ゆう君!待ったでしょ?」
息を弾ませながら笑顔を見せると、のぞみはためらうことなくゆうの手をさっと握った。
その瞬間、ゆうの胸の奥で心臓が跳ね、熱が一気に駆け上がる。
いつものことなのに、毎回新しい衝撃が走る。けれど今日は、それだけではなかった。
二人は並んで歩き出し、やがて前に訪れた洋食レストラン“ジュテーム”へと入った。
扉を押し開けると、聞き覚えのあるベルの音が響き、ほんのり甘いソースの香りが二人を包んだ。
のぞみはすぐに「カルボナーラ」と告げ、ゆうは前とは違うメニューの「オムライス」を選んだ。
店員が去ると、テーブルには小さな沈黙が降りた。
前回なら、のぞみが「ゆう君はどれにする?」とメニューを覗き込んでくれたのに。今日は迷いもせず、あっさり決めてしまった。
ゆうの心臓は高鳴り続けるのに、言葉がなかなか見つからなかった。
二人の間に流れる沈黙は、決して居心地のいいものではなかった。
のぞみは窓の外をじっと見つめていた。
通りを歩く人々の姿、時折かすめる自転車の影。そのどれを見ているわけでもなく、ただ思考の奥に沈み込んでいるようだった。
ゆう「……のぞみさん?」
名前を呼んだとき、のぞみの肩が小さく揺れた。
はっと我に返ったように顔をこちらに向ける。
のぞみ「うん、ごめんね。ちょっと考えごと、してて」
柔らかく笑ってみせたけれど、その笑顔には微かな翳りが混じっていた。
ゆうの胸の奥で、ざわめきが強くなる。
ゆう心の声「さっきまで何を考えていたんだろう……。いつもと違う気がする。何か大事なことを話そうとしてる?」
窓の外を見ていた横顔が、ゆうの脳裏に焼き付いていた。
無理に笑みを作るよりも、その一瞬の沈黙のほうが雄弁に語っている気がしてならなかった。
のぞみは、ふっと深く息を吸い込んだ。
それから、決意を固めるようにゆうの瞳をまっすぐ見つめる。
のぞみ「私ね……今日、ゆう君に聞いてほしいことがあるの」
その声はわずかに震えていた。
けれど、それは真剣に、慎重に選んだ言葉だった。
ゆうの心臓が大きく跳ねる。
血が一気に耳までのぼっていく。
ゆう「……うん。なに?」
平静を装おうとしたけれど、声の奥にかすかな震えが混じっていた。
テーブルの下で、指先が強張っているのを自分でも感じた。
のぞみはほんの一瞬、視線を落とす。
その横顔には、窓の外を見つめていたときと同じ影が差していた。
店内のざわめきが遠のいていく。
二人のテーブルにだけ、ゆっくりと重い時間が流れていた。
のぞみ「私ね……」
その唇がようやく開かれた瞬間——
「お待たせしました、オムライスとカルボナーラです」
タイミングを見計らったかのように、店員が料理を運んできた。
二人はわずかに肩を揺らしながら「ありがとうございます」と口を揃えた。
テーブルの上に、鮮やかなケチャップの赤が広がり、クリームの香りがふわりと漂う。
けれど、二人の視線は皿には向かわなかった。
フォークを手に取るものの、のぞみは口に運ぼうとはしない。
ゆうもまた、オムライスの黄色い光沢を前にしながら、食欲などまったく感じられなかった。
のぞみがさっき言いかけた言葉。
その続きを、このあと必ず聞かされる。
ゆうはそう確信していた。
それが、喜びをもたらすものなのか、それとも——。
胸の奥でざわめきが渦を巻く中、ゆうはただ静かに、のぞみの言葉を待った。
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ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
なっちゃん「はぁ〜!来た来た来たぁ!!ついに来たんよ、この土曜日!いやもう見よるだけで胸がバクバクするわぁ」
カナちゃん「せやろ!?もうな、のぞみちゃんが“ごめんね、ゆう君”言うて、手サッと握ったとこからドキドキ止まらんねん!あんなん直球で来られたら、うち倒れるわ!」
なっちゃん「しかもやで?あの“ジュテーム”行くんよ。また初デートと同じお店いうのがなぁ……前と同じ道のりたどっとんに、今日はなんか空気がちゃうんよ。ゆう君、気づいとるやろうけど『今日はただごとやない』て心で叫びよるはずやわ」
カナちゃん「ほんまや!普段やったら“どれにする?”って聞いてくれるのに、のぞみちゃん即決やん?それがもう!空気の重さハンパないわ!あんな沈黙、恋してへんかったら怖いで?でもな、好きやからこそ胸がざわつくねん!」
なっちゃん「ゆう君の心臓、ドッキドキいよるよ。“のぞみさん?”て呼んだ時のあの震え……わかるわかる!ほんま手に汗握るんよ!あそこでのぞみちゃん微笑むけど、笑顔がちょっと曇っとるんよなぁ」
カナちゃん「わかる!あれなぁ、女子の“考えごとしとった”は絶対意味ありや。もう視聴者の皆さんも“来るで来るで来るで!”って息止めてるで!」
なっちゃん「で、のぞみちゃんが“今日、聞いてほしいことある”て言うた瞬間よ!うちら叫んだよな!」
カナちゃん「叫んだ叫んだ!“あかん!早よ言うて!店員さん今は来んといてー!”てテレビの前で正座してたもん!」
なっちゃん「しかもやで?その大事なタイミングで“オムライスとカルボナーラです”よ!あれもうドラマやろ!心臓揺さぶられるんよ!なんでその瞬間に料理来るんや!店員さん悪くないけど!」
カナちゃん「ほんまや!お皿の湯気どころちゃう、二人の心の湯気や!フォーク持っても食べれんて!視聴者全員わかっとるよなぁ!」
なっちゃん「うわ、もうゆう君、緊張で箸も震えよるし。のぞみちゃんの視線、窓の外みたいに遠うなっとるし。あの沈黙、胸に刺さるんよ。なんかこっちまで息詰まるわ」
カナちゃん「ほんま、ドキドキと切なさと期待で胃がキュッてなるんやで!はぁ〜もう我慢ならん、次早よ!!」
——ここで番組にはがきが届いています。
なっちゃん「愛媛県のラジオネーム“チョコ待ち高校生”さんからや!『のぞみちゃんが“聞いてほしいことある”って言うたとこ、心臓爆発しました。自分も同じ立場やったら、絶対声震えます』やて」
カナちゃん「わかるぅ!声震えるん普通や!それがリアルでええんよ!」
なっちゃん「次はXのコメントや。“#なっカナレビュー”で“のぞみちゃんの即決オーダーはフラグやろ!”て書かれとるわ!」
カナちゃん「うんうん!わかってる人はわかってる!あれは完全に伏線や!」
なっちゃん「ほかにも“二人とも料理食べんと見つめ合うの、青春すぎて泣いた”いう書き込みもきとるよ」
カナちゃん「泣く泣く!あれは青春の光景やもんなぁ。あんなん自分も経験したかったぁ〜!」
なっちゃん「ほいで“次こそ言うてくれ!頼む!”て祈っとるコメントもぎょうさん来とるわ。全国民がゆう君と一緒に手汗かいとるんやろうな」
カナちゃん「せやな!もう全員が同じ電車に乗ってる気分や。いや〜次どうなるんか、心臓持たんわ!」
なっちゃん「ほんま、次回が怖いようで楽しみやねぇ。視聴者さんもハンカチとチョコ準備しとってな!」
カナちゃん「次回も一緒に叫ぼな!“ゆう君!がんばれーー!!”や!」




