手のひらに残る温もり
2月の風は冷たく、難法駅のホームに吹き込むたびに制服の裾を揺らした。
電車が終着駅に着き、車内から人々が次々と降りていく。いつもならその流れに紛れて、のぞみは軽やかに右の改札へと進むはずだった。
だがその日は違った。
のぞみは一歩遅れて立ち止まり、振り返ってゆうの顔を見上げた。
その瞳は、いつもの柔らかい笑みを浮かべながらも、どこか深い色を帯びているように見えた。
のぞみ「ねえ、ゆう君」
静かな呼びかけ。けれど、その声はゆうの胸を真っ直ぐ射抜いた。
ゆうは瞬きをひとつして、その視線を受け止める。普段の何気ない挨拶と違う気配に、思わず息が詰まる。
のぞみ「今度の土曜日、空いてるかな?」
思いがけない言葉。
その瞬間、ホームのざわめきが遠のいたように感じた。
ゆう「え……?」
不意を突かれて声が裏返る。返事よりも先に驚きが口を突いて出た。
その反応に、のぞみは少しだけ唇を噛み、それから視線を落として言葉を続ける。
のぞみ「予備校、午前中で終わる日だから……もしよかったら、そのあと一緒にごはん行けたらなって」
言葉を選びながら、でも確かにゆうに届けようとする声音。
彼女のまつ毛が小さく震え、その横顔を見た瞬間、ゆうの心臓は早鐘を打つ。
断れるはずがなかった。
いや、断るという選択肢自体が、ゆうには最初から存在しなかった。
ゆう「……うん、大丈夫だよ。もちろん」
言いながら、自分でも声がどこか上ずっているのがわかる。
必死に平静を装おうとしても、抑えきれない喜びがにじみ出てしまう。
のぞみ「ほんと? よかった……ありがとう」
その瞬間、のぞみの顔にぱっと花が咲くような笑みが広がった。
それはいつもの笑顔に見えた。けれど、その裏にほんの少しの安堵が混じっているのを、ゆうは感じ取った。
のぞみ「じゃあ、またLINEするね」
短くそう告げると、のぞみは少しだけ駆け足になって右の改札へと向かっていった。
制服のスカートが軽やかに揺れ、肩までの髪がふわりと跳ねる。
ゆうはその背中を、ただ黙って目で追い続けた。
胸の奥がじんわりと温かい。けれど同時に、その温かさがなぜか脆く壊れやすいもののように思えてならなかった。
残された自分の手のひらに、ついさっきまでのぞみと繋いでいた温もりが確かに残っている。
ゆうはその手をじっと見つめながら、唇をかすかに震わせた。
ゆう心の声「……さっきまで、のぞみさんの手を握ってた。それだけで幸せなのに……どうしてだろう。心の奥に、うっすらとした不安が広がっていく」
のぞみの笑顔は、確かに嬉しそうだった。
けれど、ほんの一瞬見せた瞳の揺れが、ゆうの心に影を落とす。
ゆう心の声「のぞみさん……遠くに行ってしまうんじゃないだろうか」
立ち止まっているのはゆうだけだった。
周囲の生徒やサラリーマンが足早に改札へと向かう中、ゆうは一歩、また一歩とゆっくり歩き出す。
逆方向の左の改札へ。
ICカードをタッチすると、無機質な音とともにバーが開く。
通り抜けるとき、背中にまとわりつくのは、言いようのない暗い影だった。
光を浴びたのぞみの姿とは対照的に、その背中はどこか沈んで見えた。
ただ温もりだけが手のひらに残り、言葉にならない感情が胸の奥で渦を巻いていた。
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ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
(♪オープニングジングル)
なっちゃん「はぁ〜今日のシーン、胸ぎゅーってなったわぁ。ほら、手ぇつないどった温もりがまだ残っとるいうて、ゆう君が手のひら見よるとこ!あれ、なんかもう…泣けるんよ」
カナちゃん「せやなぁ。しかもな、のぞみちゃんが『土曜日ごはん行こ』って言うたときの空気!あれ、あの一瞬で世界止まったやろ。ゆう君も『えっ…?』って声裏返っとったし。わかるわかる!うちも絶対そうなる」
なっちゃん「ほいで『ほんと? よかった』いうて、のぞみちゃんがぱぁーって笑うんよ。あれは反則やろ、ゆう君からしたら天使が舞い降りたみたいなもんやけん」
カナちゃん「でもなっちゃん、あの笑顔の裏にちょっとだけ影あったん気づいた? 目ぇそらす瞬間、ゆう君も感じとったやん。『のぞみさん、遠く行ってしまうんやないか』って」
なっちゃん「そうそう!喜びと不安が一緒になっとるんよ。好きすぎて幸せやのに、なんでか怖いんよね。ゆう君の胸ん中、嵐吹いとるんやないんかなぁ」
カナちゃん「わかるわ〜。のぞみちゃんに誘われたん嬉しすぎる。でも“これって最後のチャンスなんちゃうか”みたいな、そういう影がちらつくんよな」
なっちゃん「うわぁ!待って!これさぁ、ひょっとしてやけど…のぞみちゃん、このタイミングで入試の結果とか言おうとしよるんやないん!?今度のごはんのとき、もしかして……!」
カナちゃん「きゃーーっ!それや!!“ごはん行こう”の裏に『ほんまは話したいことある』って含まれとるんちゃう?まさかの『実はもう決まっとんよ…』とか!」
なっちゃん「わ、鳥肌立った…!もしそうやったら、ゆう君、どんな顔するんやろ。嬉しさと絶望がごちゃまぜになって、感情が爆発するやろうなぁ」
カナちゃん「これ、もう視聴者も一緒に息止めとるで。わたしなんか画面越しに『言わんといて!まだ言わんといて!』って叫んでもうたもん」
なっちゃん「わたしもや!いやぁ〜のぞみちゃん、ゆう君、この二人、見よる側の心臓鷲づかみにしてくるわい」
(ジングル軽く入り)
カナちゃん「ほなここで、視聴者さんからのお便り紹介していこか」
なっちゃん「おっ、まずは愛媛県のラジオネーム“かんきつ畑の月”さん」
読み上げ「のぞみちゃんの『ごはん行こう』があまりにも自然すぎて、でも裏に大事なこと隠しとる気がして、胸がしんどくなりました。ゆう君の手のひらの温もりの描写、あれ忘れられんです」
カナちゃん「うんうん、わかるわぁ〜。温もりって言葉だけで、視聴者全員が一緒にその瞬間握っとる気分になるんよな」
なっちゃん「続いては大阪府“もんじゃよりお好み派”さん」
読み上げ「『またLINEするね』って去ってくのぞみちゃんの背中が、なんかもう切なすぎました。楽しみの約束のはずなのに、なんであんな影差して見えるんでしょうか」
カナちゃん「ほんまそれ!スカートひらひらして笑顔なんやけど、背中には影落ちてんのよ。両方いっぺんに見せるのずるいわ」
なっちゃん「最後はXから!“#ゆうの手のひら”でバズっとるコメントやね」
読み上げ「『温もり=幸せ、でも不安=影。二つの対比が美しすぎる』」
カナちゃん「いや〜みんな感情読み取っとるなぁ。ほんま共感やわ」
なっちゃん「のぞみちゃん、ゆう君、二人が歩むこの先、もう祈るしかないわい」
カナちゃん「せやな。次の展開、みんなで一緒に震えながら待とうなぁ!」
(♪エンディングジングル)




