ゆうの矛盾した心
ゆうの部屋は静まり返っていた。
机の上には開いたままの参考書とノート。だが、ページはまったく進んでいない。
カーテンの隙間から差し込む夕方の光が、部屋の空気を淡く照らしている。
音楽もテレビもつけていない。
ただ、自分の鼓動と時計の針の音だけが、やけに大きく響いていた。
布団の上に座り込んだゆうは、何もする気になれず、ただスマホを握りしめていた。
明日。のぞみが関東の大学を受験する日。
彼女はすでに新幹線に乗り、前日入りをしている。
そのとき、不意に通知音が鳴った。
胸の奥で跳ねるように響いたその音に、ゆうの心臓は一瞬止まったかのようだった。
画面を開くと、のぞみからだった。
のぞみ「富士山がとてもきれいだよ」
メッセージには、真っ青な空の下で雪をいただく富士山の写真が添えられている。
堂々とそびえるその姿は、まるで彼女の未来を象徴しているかのように美しくて、揺るぎなかった。
ゆう「ありがとう!すごくきれいだね!頑張ってね!」
指先が震える。
送信ボタンを押した瞬間、胸に重たいものが落ちてきた。
言葉は明るく返した。
けれど本当は——「頑張ってね」なんて、とても言える気持ちではなかった。
頭の中で繰り返すのはただ一つ。
のぞみさんが、遠くに行ってしまう。
もし合格したら、彼女は春からもう関東の大学生。
そこにはきっと、ゆうが知らない世界と、新しい人たちが待っている。
彼女はクラスでもトップの成績。受かるに決まっている。
そう理解すればするほど、胸の奥が冷たく締めつけられていく。
ゆう心の声「……のぞみさんの周りには、僕よりずっと魅力的な人がたくさん現れるんだろうな。
そうなったら……いずれ僕のことなんか、思い出さなくなるんじゃないだろうか……」
視界がにじむ。
そんな想像をした瞬間、喉の奥に熱いものが込み上げてきて、息が苦しくなった。
それでも。
のぞみに「落ちてほしい」とは願えなかった。
彼女が努力してきたことを知っているから。
彼女の夢を応援したい気持ちが、本当にあるから。
だが同時に、離れてほしくないと心から願ってしまう。
この矛盾が胸の奥で渦を巻き、ゆうを押し潰していく。
ゆう心の声「応援したい。でも、行かないでほしい。
どうすればいいんだ……この気持ち……」
枕に顔を埋めた。
けれど涙は出てこない。
ただ苦しさだけが残って、体が動かなくなる。
布団の中でスマホを取り出す。
何度ものぞみのメッセージを開き直しては、写真の富士山を見つめ続けた。
真っ青な空の下、堂々と輝くその姿。
のぞみが見て、嬉しそうに撮ったその景色。
ゆう心の声「のぞみさん……僕はどうしたらいい?
この気持ち、どこにぶつけたらいいんだ……」
飲み込んだ言葉が喉の奥でつかえたまま、ただ時間だけが、無慈悲に過ぎていった。
◾️◾️◾️◾️◾️
ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
(♪オープニングジングル)
なっちゃん「ほいじゃあ始まったよ〜!今日も“なっちゃんカナちゃん”のお時間やけんね!」
カナちゃん「よっしゃー!今日も熱く語っていきましょ!いやぁ今回のシーン、胸にずーんってきたなぁ。ゆう君、ほんまに切ないやんか」
なっちゃん「ほんまよ…。のぞみちゃんがさ、新幹線から『富士山がきれいだよ』って送ってきたんは、ただの報告やないんよね。あの写真って、のぞみちゃんの未来を象徴しとる感じがして…」
カナちゃん「せやなぁ。真っ青な空に富士山どーんやで?あんなん見せられたら、“彼女はどんどん先に進んでいくんや”って思わされるわ。そらゆう君、胸ぎゅーってなるやろな」
なっちゃん「そうそう。『頑張ってね!』って返事はしたんやけど、心の奥では全然そんな気持ちになれてないんよね。もうそのギャップがたまらんわ」
カナちゃん「うんうん!“頑張ってね”の裏に隠しとるほんまの心の声は『行かんといて』やもん。せやけど、そんなこと言えんやん?のぞみちゃんの努力知っとるからこそ」
なっちゃん「矛盾よなぁ。応援したいけど、離れてほしくない。応援するほど、置いてかれる気がして怖い。ゆう君、そりゃ苦しいわなぁ…」
カナちゃん「わかるわぁ。高校生の恋って、未来のこと考えるときっついんよな。“このまま一緒にいれるんかな”って。不安でしゃあない」
なっちゃん「しかものぞみちゃん、進学校のトップやけんね。受かる可能性大やし。ゆう君、頭でわかっとっても心がついていかんのよ」
カナちゃん「ほんまそれ!“どうしたらええねん、この気持ち”って布団の中で悶々としとるゆう君、もうこっちまで胸苦しくなるわ」
なっちゃん「のぞみちゃんもきっと、写真送った時は笑顔やったんよね。『見て!富士山きれい!』って無邪気に伝えたいだけやったんやと思うんよ。そこがまた切ないんよ…」
カナちゃん「うん!その無邪気さが眩しいんよな。で、余計に“僕のことなんか忘れるんちゃうか”って不安が増してしまう。ほんまにゆう君、純粋やなぁ」
なっちゃん「のぞみちゃん、ゆう君。二人とも素直すぎて、こっちが泣けるわ」
カナちゃん「せやで!お互い大好きやのに、素直に“離れたくない”って言えへん。青春のもどかしさ、ぎゅーっと詰まっとるシーンやったな」
(♪ジングル挿入)
カナちゃん「さぁここで、視聴者の方からのコメント紹介いきましょか!」
なっちゃん「おぉ、きとるきとる〜!まずはラジオネーム“夕暮れのプラットホーム”さんから」
読み上げ(なっちゃん)「『私も大学進学で地元を離れるとき、好きな人に同じようなこと思われてたらいいなぁって今になって考えます。ゆう君の気持ち、めっちゃリアルでした』」
カナちゃん「わかるわぁ!その時は気づかんくても、後になって“あの人こんな風に思ってたんかな”って気づいたりするんよなぁ」
なっちゃん「続いて、Xのポスト。“@sakura\_line”さん」
読み上げ(カナちゃん)「『“頑張ってね”って言葉ほど残酷で優しいものはないと思った。言葉にできない気持ちを飲み込むゆう君に涙が出ました』」
なっちゃん「うわぁ〜これは深い!ほんまその通りやわ。“頑張ってね”って言葉の裏に、何重もの感情が隠れとるんよね」
カナちゃん「ラストもう一通いこか。ラジオネーム“青空ノート”さん」
読み上げ(なっちゃん)「『のぞみちゃんが見た富士山って、ただの風景じゃなくて“未来”そのものなんですね。だからゆう君には、まぶしくて、怖かったんじゃないかな』」
カナちゃん「うんうん!ええコメントやなぁ。ほんまにその通りや!景色にまで象徴を見てしまう、ゆう君の繊細さが光っとるんやわ」
なっちゃん「今日はコメントも胸に響くもんばっかりやったね」
カナちゃん「せやなぁ。のぞみちゃん、ゆう君、二人の行方を見守りたなるわ」
なっちゃん「ほんまよ。次はどうなるんやろ。みんなで見届けていこや!」
(♪エンディングジングル)
カナちゃん「ほな今日はここまで!また次回の“なっちゃんカナちゃん”で会いましょ!」
なっちゃん「ありがと〜!またね〜!」
――番組終了。




