小さなデート
西元山駅 1月29日 6:50。
まだ朝焼けの名残が空を薄く染め、冷たい冬の空気が頬を刺す。
通学ラッシュにはまだ早く、ホームにはまばらな人影しかない。
約束は、10分前にホームで会うことだった。
けれどゆうは、どうしてもその時間まで待てなかった。
ゆう心の声 もう、待てない……。会いたい。少しでも早く、のぞみさんに。
心臓が速く打つのを感じながら、ゆうは改札を抜け、階段を駆け下りる。
そして――目の前に、その姿があった。
制服のスカートを冬の風に揺らしながら、のぞみがひとり、ホームに立っていた。
ゆうは思わず足を止め、目を見開いた。
ゆう心の声 ……え? うそだろ。のぞみさん……もう来てる? こんなに早く?
のぞみもゆうに気づき、少し驚いたように瞬きをした。
けれど次の瞬間、くすっと口元を緩める。
のぞみ 「おはよう、ゆう君。」
その声は、冬の冷たい空気をふわりと温めるようだった。
ゆうは慌てて、少し照れたように笑う。
ゆう 「お、おはよう……。」
声が少し裏返って、自分でも赤面しそうになる。
のぞみは首をかしげ、いたずらっぽく目を細める。
のぞみ 「ねえ、約束よりずいぶん早いんじゃない?」
唇の端に小さな笑みを浮かべるその表情に、心臓がさらに跳ねる。
逃げ道はない、と悟ったゆうは、正直に言葉を吐き出した。
ゆう 「……うん。なんか……待ちきれなくて。」
恥ずかしさで耳まで熱くなる。
嘘をつけば楽かもしれない。でも、この気持ちを偽るのはもっと辛かった。
のぞみはその答えに目を丸くしたあと、頬をほんのり赤く染めた。
のぞみ 「ふふっ……。実はね、私もそうなの。」
ゆう 「え……?」
のぞみ 「私も……ゆう君に会いたくて。気がついたら、早く来ちゃってた。」
言い終えると、彼女は少し恥ずかしそうに笑い、視線を足元へ落とす。
つま先でホームのタイルをなぞりながら、その横顔はどこか少女らしく無防備だった。
ゆう心の声 ……待って。今の言葉……それって……。僕と同じ気持ちでここに来てくれたってこと?
胸の奥で、ドクンと音を立てる。
ゆう 「じゃあ……僕たち、同じこと考えてたんだね。」
のぞみは顔を上げ、嬉しそうに小さく頷いた。
のぞみ 「うん。そうみたい。」
その一言だけで、世界が輝き出すような気がした。
まだ人の少ない朝のホーム。冷たい風が吹き抜けるのに、二人の間だけは不思議と温もりがあった。
のぞみは少し躊躇したあと、柔らかく微笑む。
のぞみ 「ねえ、せっかく時間あるし……あっちのベンチ、座って話さない?」
提案された瞬間、ゆうの返事は決まっていた。
ゆう 「うん! ぜひ!」
言葉がはやるのを抑えられず、即答してしまう。
二人は並んでベンチに腰掛けた。まだ冷たさの残る金属の感触。けれど距離が近いだけで、その寒ささえ心地よい。
何を話したか、ゆうは細かく思い出せない。
昨日見たテレビの話、テスト勉強の愚痴、好きな食べ物のこと。
どれも他愛もない会話なのに、不思議と時間が飛ぶように過ぎていった。
ただ一つだけ、はっきり覚えている。
――この瞬間が、たまらなく幸せだったということ。
その日を境に、ゆうは毎朝、電車が来る25分前にホームへ行くようになった。
決めたわけじゃないのに、のぞみは必ず先に来ていて、ゆうを待っていた。
「おはよう、ゆう君。」
「おはよう、のぞみさん。」
たったそれだけの挨拶が、胸をいっぱいにする。
人影の少ない冬の朝、二人は並んでベンチに座り、宿題の話や好きな歌の話をする。
「昨日、宿題めっちゃ大変でさ。」
「えー、私も! 途中で寝ちゃって、朝すごく焦ったんだよ。」
そんな些細なやり取りが、心の奥まで沁みていく。
25分間、ただ喋って笑うだけで、世界が特別になる。
電車が来れば、二人はいつもの前から2両目の2番目のドアから乗り込む。
混雑した車内でも、のぞみは必ずゆうの隣に立つ。
ときには肩を寄せ、背中を預けるようにして。ときにはゆうの制服の袖をそっと指で掴んで。
言葉を交わせなくても、確かに伝わるものがあった。
25分おしゃべりして、15分寄り添って電車に揺られる。
それはただの通学時間じゃなく、小さなデートのようなものになっていた。
ゆう心の声 こんなふうに、朝が楽しみになるなんて思わなかった。のぞみさんが隣にいるだけで、毎日が違って見える。
けれど――心の奥には、消えない影もあった。
ゆう心の声 のぞみさんはあと2ヶ月足らずで卒業する。この“デートみたいな時間”も、終わりが来てしまう……。
幸せと同じだけの切なさが、いつも胸の奥に潜んでいた。
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ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
なっちゃん 「ちょ、カナちゃん!!今のシーン見た?!朝のホームで、ゆう君が階段駆け下りてったら、のぞみさんもうおったんよ!」
カナちゃん 「うわぁぁ!待って!あれは心臓もたんやつや!約束10分前やのに25分前に行って、そしたら彼女もおるって!?もう二人シンクロしすぎやろ!」
なっちゃん 「いやほんまよ。ゆう君、心の声で『待てんかった』って言うとったけど……のぞみさんも同じ気持ちやったんやね!」
カナちゃん 「“私も待ちきれんくて早く来ちゃったの”って、あんなセリフ、少女漫画のクライマックスでしか聞かれへんで!?もうお互い赤面して、足元見ながらタイルつんつんって!」
なっちゃん 「そうそう!あのつま先でホームのタイルなぞる仕草よ!なんや胸キュンが止まらんやん!」
カナちゃん 「ゆう君も正直やったなぁ。“なんか待ちきれなくて”って。ほんまはもっと恥ずかしい気持ちやったやろうけど、それ隠さんかったんがエエ!」
なっちゃん 「で、のぞみさんも“ふふっ、実は私もやねん”て。いやいや、これはもう確定や!大当たりや!」
カナちゃん 「せやな!パチンコで例えたら、リーチどころかもう金保留でボタン連打!あとは『告白』っていう最後の図柄揃えるだけや!」
なっちゃん 「ゆう君、押せ!ボタン押したら7揃うんよ!確定やけん!早よせんと卒業してまうよ!」
カナちゃん 「そうやねん、それやねん。あと2ヶ月でのぞみさん卒業……。これもう時間との勝負やで!早よせな、この毎朝ベンチデートも終わってまう!」
なっちゃん 「でもさ、毎朝25分話して、15分電車で寄り添って、袖つままれて……。のぞみさん完全に“彼女”の位置やんね?」
カナちゃん 「いやほんまそれ!混んでる電車で袖つまむとか……無言で“あんたのそばにおるよ”って言うてるやん。甘すぎて虫歯なるわ!」
なっちゃん 「わたしやったら絶対倒れとるね。照れ死ぬか、叫んでホーム走り回るわ!」
カナちゃん 「わかるわかる!二人は落ち着いとるけど、見てる側はもぉ耐えられへん!叫びたくなるやん!『ゆう君、今すぐ告白せえ!』って!」
なっちゃん 「ほんまや!毎朝こんなデートみたいな時間過ごして、“まだ付き合っとらん”って信じられんよ!」
カナちゃん 「もうこの段階で『両思い』のハンコ押して提出済みやん!ゆう君、後は勇気出すだけや!」
なっちゃん 「はぁ……。ええなぁ。冬の朝の冷たい空気の中で、二人だけの温もり……。羨ましいわぁ……。」
カナちゃん 「せやけど、ほんまに切ないな。終わりが迫っとるからこそ、今の時間がキラキラ輝いとるんやろうなぁ……。もう、こっちが泣きそうやわ。」
なっちゃん 「それな。ゆう君!次の一歩踏み出して!“卒業までに告白”や!視聴者全員が祈っとるけん!」
カナちゃん 「そうそう!ここで動いたら、もうエンディング曲流れるレベルや!はよ行けぇぇぇ!」
なっちゃん 「はよぉぉぉ!」
カナちゃん 「頼むでぇぇぇ!」
――二人のトークは、完全に観客目線で悶絶と絶叫の嵐に包まれていた。




