手紙に託す鼓動
ゆうの部屋。夜の静けさに包まれている。机の上にはスタンドライトがぽつんと灯り、柔らかな光が小さな紙切れを照らしている。
その紙には――
「昨日のあいつは、知らない人なの。心配させてごめんね。」
丁寧な、そしてどこか女の子らしい丸みのある字が並んでいた。
ゆう「……のぞみさん、僕に誤解させたくなくて、これを書いてくれたんだな」
その声は小さく、しかし心の奥から滲み出ていた。会話すらしたことがないのに、名前もまだ互いに知らないのに。あの瞬間、勇気を振り絞ってカバンにそっと紙を忍ばせてくれた姿が鮮やかによみがえる。
電車の中。人目を盗むように、彼のカバンへ手を伸ばすのぞみ。わずかに震えていたであろうその指先。けれど、彼女は微笑んでいた。
ゆう「……あんなこと、よくできたよな。僕ならきっと、怖くてできなかった」
胸の奥に熱が広がる。思い返すだけで心臓が早鐘を打つ。
そしてゆうは、ふっと顔を上げた。
ゆう「僕も……返事をした方がいいよな。伝えなきゃ。僕が心配してたってこと……」
決意のようなものが芽生えていく。彼は机の引き出しから小さな便箋とペンを取り出した。
しかし、ペン先はなかなか進まない。
ゆう「……でも……いきなり“好きです”なんて書いたら、絶対変な人だと思われるよな……」
不安の影が心を覆う。
まだ彼女は、自分が名前を知っていることさえ知らないのだ。
ゆう「“のぞみさん”って呼ぶだけでも、不思議に思われるかもしれない……」
カリ、とペン先が紙に触れる音。
頭の中で言葉を何度も組み立て、消し、また書きかけて止める。
やがて、彼は深く息を吸い込んだ。
ゆう「……よし。これでいい」
書かれた言葉は、たった一行。
「良かった。心配してたんだ。」
短い。でも、それが精一杯だった。
それ以上は言えなかった。言葉が重すぎれば彼女を困らせてしまう。けれど、どうしても伝えたい想いは込められていた。
彼は小さく折りたたみ、その紙を明日の自分への希望のように見つめた。
ベッドに潜り込むが、胸は静まらない。
ゆう「……どうやって渡そう……」
布団の中でごろごろと転がりながら、頭の中でシミュレーションが繰り返される。
ゆう「カバンのポケットに入れる?……でも、隣に来るとは限らない……。もし来なかったら?」
そのたびに心臓が跳ねる。電車に乗る前に渡す? でも、のぞみはいつもギリギリに駆け込んでくる。そんな余裕はなさそうだ。
ゆう「……もう……出たとこ勝負だ……」
覚悟を決めると、ようやくまぶたが重くなってきた。
それでも寝返りを打つたびに胸の高鳴りが蘇り、なかなか眠りには落ちない。
それでも――いつしか静かに夢の中へと引き込まれていった。
――翌朝。
1月19日、西元山駅。7時10分。
まだ冬の冷気が漂うホームに立ち、ゆうはいつもの場所――前から2両目、2番目のドアの前で待っている。
カバンの脇ポケットには、昨日書いた小さな手紙。
彼はそれを意識するたびに鼓動が速まる。
「次の電車は急行、難法行きです」
アナウンスが流れると同時に、全身に緊張が走った。
やがて電車が近づいてきて、ホームの床を震わせる。
窓ガラスに目を凝らす。反射する光の中に――のぞみの姿を探す。
しかし。
どれだけ視線を動かしても、彼女らしい影は見えない。
ガタン、と音を立ててドアが開く。人の波が一斉に流れ込んでいく。
ゆうも流れに押されるように乗り込む。
ドアが閉まり、車内の空気が落ち着く。
ゆうは真っ先に、のぞみの“定位置”――ドア横の手すり付近に視線を送った。
けれど、そこに立っていたのはスーツ姿のサラリーマンだった。
のぞみの姿は、なかった。
ゆう「……え?」
頭の中が真っ白になる。
信じられないように周りを見渡すが、どこにも彼女はいない。
心臓が跳ねたまま、力が抜けていく。
ゆう(……のぞみさん、今日はいない……)
揺れ出した車内で、ひとりだけ取り残されたような気持ち。
手紙の存在だけが、今もポケットの中で彼の胸を強く締め付けていた。
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ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
なっちゃんカナちゃん ~のぞみちゃん、なんで来ないの?!~
なっちゃん「いや~カナちゃん、これどう思うんよ?のぞみちゃん、いっつも同じ電車乗っとったんに、今日に限って来んかったんよ!」
カナちゃん「ほんまやで!あんな大事な日やったのになぁ。ゆうくん、ドキドキして手紙まで準備してたんやろ?それが…まさかの不在って!」
なっちゃん「うんうん。しかもゆうくん、昨日の夜からめっちゃ悩んどったんよ。“どうやって渡そうか”“のぞみさんに変に思われんやろか”って、ぐるぐる考えて寝られんくらいやったんやけん」
カナちゃん「そやのに!ホームで待って、窓ガラスにまで映るかどうか必死に探したんやろ?それで……おらんって、もう心臓キュッてなるやん!」
なっちゃん「そうよ!そんで、のぞみちゃんの“定位置”見たらサラリーマン立っとって……あの瞬間のゆうくんの落胆、想像しただけで胸が痛なるわ~」
カナちゃん「せやけどな、なんでのぞみちゃん来んかったんやろな?寝坊説あるやろ?」
なっちゃん「あるある!あとは、急に体調悪なった説」
カナちゃん「いや、もしかしたら……昨日ナンパしてきたあの怪しい男子、まだ何か仕掛けてきとるとか?!」
なっちゃん「うわぁ~それは怖いわ!でも確かに、“昨日のあいつは知らん人なんよ”って、わざわざ手紙に書いて伝えたくらいやけん。のぞみちゃん、相当気にしとったんよね」
カナちゃん「そうやろ?あの子、律儀やし真面目やしなぁ。そやから、余計になんか事情があって来れんかったんちゃうかって考えてまうわ」
なっちゃん「……でももしほんとに寝坊やったらどうする?“あああ~!今日は行けんかった~!”って布団の中でのたうち回っとるかもよ」
カナちゃん「それはそれで可愛いけどな!でもゆうくんからしたら“えっ……もう二度と会えんの?”くらいの衝撃やで」
なっちゃん「そうよ!あの子、昨日から“出たとこ勝負だ”って覚悟決めとったんやけん!今日こそ渡すつもりやったのに……」
カナちゃん「うわぁ~これはドラマやな。もどかしすぎるやろ!観てるこっちも“なんで来んの~!”って叫びたなるわ!」
なっちゃん「ほんまよ!わたしら今、スタジオやけど、心ん中ではホームで一緒に待っとる気分なんよ。“のぞみちゃーん!来てやー!”って」
カナちゃん「次こそ現れてほしいなぁ。でないと、ゆうくんのポケットの中の手紙……行き場を失ってまうで」
なっちゃん「……その手紙、開けてみたい気もするけどな。“良かった。心配してたんだ。”って、短いけどすごい真っ直ぐなんよ」
カナちゃん「うわぁ~!もう、青春のきらめきやん!はよ二人結ばれてほしいなぁ」
なっちゃん「けんど、今日は“のぞみちゃん来んかった問題”で、ゆうくんの心はどっしゃぶりやったんよね」
カナちゃん「ほんまやで。次回……どうなるんやろな?!」




