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新しいはじまり

それから。


お肉をもりもり食べるようになった祖母は、デイケアで元気に踊っている。

医者にも回復が早いと言われた骨折は完治して、あんなに不安だった足取りがシャッキリとした。

母が若返ったみたいだと笑う。

あんなに渋ってたのに、昔の知り合いが通ってたからと、週二回にデイケアに通う日数を増やしてた。

今では薮の中のラピスラズリって言われてるって自慢してる。

ホトケさんは相変わらず定期的にやってきては、にこにこと祖母のとんでもない要望と、母の愚痴を聞いてくれるそうだ。

すべてがうまくいき過ぎてる気もするけど。まさか全部がホトケさんの手の内だとか言わないよね。

あの笑顔を思い出すたびに、首を傾げてしまう。


「話を聞くのが好きなら、ケアマネのお仕事向いてますよぉ。ほのかさん、看護師さんとして五年以上働いていらっしゃったんですって? なら、ケアマネやってみるの、いかがかしら」


この前、実家に行った時、ホトケさんと会って話したら、そう言われた。

でも未経験だし、鈍臭いからというと、大丈夫と念押しされたのだ。

「ほほほ、ケアマネは試験が受かってから、仕事の研修をするんですよぉ。だから未経験でも大丈夫。先輩が優しく教えてくれますから」

ホトケさんに乗せられそうになってしまう。

「それに、ケアマネって未経験でも来てくれってとこが多いんですよぉ。まあケアマネがいないと、業務が成り立たない職場ってありますから。それに基本的に日勤でシフト制でないとこが多いし、時間も自由に使えますよぉ、ほほほ」

それは、すごい魅力だった。

子供を抱えていると、どうしても時間に制約ができてしまう。

看護師の仕事に復帰するにしたって、時短で、急な休みでとか考えると、躊躇ってしまうのは確かだ。

ホトケさんや祖母の様子を見てると、ちょっとやってみようかなと思ってしまった。

悩んでいる私に、夫が気軽にやってみたらと言う。

「えっ、どうして」

「看護師だった時、患者さんの話を聞いてたら怒られたって言ってたじゃん。患者さんのおもしろエピソード聞けてよかったって、ほのか笑ってたよ」

看護師時代、要領が悪いと怒られたのは、そこだった。

患者さんの話を聞き過ぎて、時間の余裕がなくなってしまって、仕事が遅れてしまって。

先輩からいい加減にしてと何度か注意を受けた。

「ホトケさんの話を聞いてると、そういうのできる仕事なんでしょ。ならやってみたらいいじゃないか」

それは、そうかもしれないけど。

果たして私のこの、要領が悪いって言われたこれが、仕事の役に立つのかどうか。

「迷うくらいなら、一度やってみて、それで判断すれば? 40歳無資格からでも取れる資格なら、ほのかでも取れるんじゃないの」

「……勉強して試験を受けるのは私なんだけど。家事と育児、協力してくれるんだよね?」

「もちろんです」

目を逸らしつつ、夫が了承したのだった。





***



そうして無事、試験に合格してみたけど。

ケアマネさんの研修を終えて、運良く勤め先も見つかって。

実際に働き出して思ったことがある。

ホトケさんの言ってたこと、本当だけど本当じゃなかった。

確かに時間の融通がきくよ。未経験でもOKだよ。でも、それだけじゃない。それだけじゃなかった。

ケアマネ新人の苦労話については、山のようにあるけれど。

でもこの話は、ホトケさんと関わった時の話だから、また別の機会に。

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何気なく目に止まって読み始めたけど、面白かったです! みんな良い人達でほっこりしました
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