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ep8 朝からドタバタ

 朝の日差しが部屋に入る。

 本来は家族団らんの場として使われている空間が、現在は寝室として機能している。


 床の空いたスペースに各々が布団を敷き、雑魚寝という応急処置的な方法であったが、四人は夜ぐっすりと眠ることができた。快適な睡眠が送れたのは扇風機によるところが大きく、その力は侮れない。


 早朝の朝六時。最初に起きたのは一家の末っ子、雀女である。


 起きてすぐ雀女は、シンマオを確認した。彼女はまだプラグがコンセントに刺さったままで、動こうとする様子が見受けられない。


「勝手に抜いちゃっていいのかしら……?」


 と、疑問が浮かび上がる。だが朝の支度ができないことにはどうしようもないので、それ以上迷うことなく、コンセントからプラグを引っこ抜いた。


 ピロロロロロ……。


 シンマオから電子音が響くとともに、丸々とした青い瞳と、薄い線のような唇が顔に浮かび上がってきた。


「起きたアル」


 何事もなかったかのように起き上がる。第三者がプラグを抜くことで、初めて再活動ができるらしい。


「良かった。充電できた?」


 雀女は嬉しそうに手のひらを合わせ、口角を上げる。肩に入っていた無駄な力が抜け、安堵の気持ちになった。


「ワタシ、充電完了したアル。良かたアル」

「そうなのね。一晩ぐらいの時間で充電ができるとなると……いつがいいのかしらねぇ……」


 誰もいない昼間か、はたまた寝静まる夜中か、どの時間帯の充電が一番良いか頭の中で考えを巡らせる雀女。前者であれば、ただでさえ忙しい朝に充電の準備という仕事が増えてしまうし、後者だと毎日リビングで寝なくてはいけない。中々甲乙つけがたいものがある。

 簡単に答えが出せないと判断したので、すぐに考えるのをやめた。雀女は熟考するタイプではなかった。


 充電のことを奇麗さっぱり忘れ、雀女はモーニングルーティンへと移る。朝起きて真っ先に行うのは洗顔と歯磨きである。リビングを出て、洗面所へ進もうとした。しかし、途中で立ち止まってくるりと振り返る。向いたのはシンマオのほうだった。


「そうそう、これから私は朝の支度するけど、みんなはもう少し寝かせておいてね」


 シンマオが何をしでかすか分からない。念を押すために釘を打った。


「分かたアル」

 と、返事をした瞬間、シンマオが龍我の体を揺らしはじめた。


「リューガ、起きるアル」

「ちょっ!? 寝かせてって言ったでしょ!」


 あまりの支離滅裂さには朝から大声を出してしまった。雀女は急いでシンマオの元に駆け寄り、その手首を掴むことで、兄の体を揺らすのを阻む。


「リューガたち、寝てたアル。寝てる人、寝かせることできないアル。だから起こすアル」


 シンマオの理屈は、一休さんでも言わないような頓珍漢なものであった。


「さすが出来損ない……。こっちは朝から漫才したくないんだけど……」


 釘を打とうとしたら自分の指を叩いてしまった、雀女はそんな気分であった。根本的なコミュニケーションができないため、はただただ呆れる。

 深くため息をつくと、それをきっかけに龍我が目をパッチリと開けた。


「ふあぁ……」


 龍我のあくびをする声が聞こえてくる。体を揺らされ、大きな声が聞こえてきたらよっぽど寝起きの悪い人でもない限り起きてしまうだろう。


「おはようアル。リューガ、寝てほしいアル」


 シンマオはまだ自分の間違いに気づけていなかった。


「雀女、解説頼む」


 布団に寝そべったまま、龍我は寝ぼけた様子で雀女に尋ねた。


「寝かせておいてって言ったら、一度起こしてから寝かせようとしたの」


 余計な御託は述べず、端的に状況を伝える。もう無駄に口は動かしたくない。


「ハハハ……」


 龍我は乾いた笑いで反応した。


「スズメ、どうしたらリューガ寝るアルか?」


 シンマオは自分の間違いに気づいていない。この調子では、誰かが指摘するまで気づけないだろう。


「シンマオの相手は俺がするから、いつも通りやってくれ」


 龍我が起き上がり、ちょうど二人の間に物理的に割って入った。妹にこれ以上迷惑はかけられないという彼の気持ちが、少しだけ伝わった。




 龍我はシンマオをリビングから廊下に移動させた。ベッドの上に座らせ、朝起きてからのシンマオの状況を事細かに聞き出し、その上で丁寧に問題点を説明した。


「つまり、起きた状態にさせちゃいけなかったのカ?」

「そう! そういうこと! やっと分かってくれたかぁ……」


 龍我はホッと肩をなでおろす。ただでさえ昨日の疲れが取れていない中、疲労がさらに蓄積してしまった。


「次からはちゃんと寝かせてくれよな。じゃあ俺は着替えるから、じっとしててくれ」

「分かたアル」


 シンマオはコクりとうなずき、龍我が制服に着替える様子をじっと見つめ続けた。夏服なので上はポロシャツ、下は薄手のズボンを身に着ける。


「…………」


 強い視線を感じ、龍我の背中はムズムズとしていた。シンマオの顔は、僅かながら実際に光を発しているわけなので、人間以上にその目線に反応してしまうのであった。


「そんなに俺が気になるか……?」


 軽く口元を緩ませながら、龍我はシンマオのほうを向いた。そこで改めてシンマオの全身が目に入った。現在身に着けているのは紺色の半袖半ズボン、龍我がシャワーを浴びた彼女に渡したものである。シンマオにとっては少しオーバーサイズで、肩の辺りははだけているし、ズボンもももの辺りはブカブカだった。

 そのアンバランスさによって、自分の服を他人に着られていることを実感し、今度は全身がむずがゆくなった。

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