ep1 空からアンドロイド
空を堕ちる不審な物体が、中道龍我の視界に入った。
その日は初夏真っ盛りの七月某日、日差しが最も強くなる午後の時間帯である。太陽がアスファルトの地面を焼き、実測値以上の気温を肌では感じていた。
龍我は高校一年生であり、現在は学校から帰宅途中である。そんな彼も暑さにはうんざりとしていた。ツーブロックの髪の毛には汗がじんわりと滴っており、ワイシャツも汗で肌の色素がうっすらと透けている。
暑さの影響を受けているのは外見だけではない。頭の中も、何か考え事をしようという気力が湧かず、思考を停止させ、惰性で足を動かしている状態である。
「何じゃありゃ……!?」
その惰性を、飛来物が全て吹き飛ばした。謎の物体を見つけた瞬間、足を止めて叫んだ。
「え? マジだ! 何あれ?」
一緒に下校していた同級生、仏衣翔も同じ反応を見せる。彼もまた暑さで思考停止していた一人だったが、同じく足を止めて目を輝かせる。
飛来物は急速に落下していて、正確な形を視認することができない。そのまま学校の裏山へと進み、鈍い激突音が彼らのいる通学路に微かに聞こえた。
「おい、見に行こうぜ! どうせ暇だろ?」
瞳を輝かせながら龍我が言う。未知の出来事に対する好奇心は、暑さを忘れさせるには十分なパワーが秘められていた。
「暇じゃねえけど……ま、いっか」
翔はしぶしぶと龍我の誘いに乗った。
二人は帰り道をUターンし、裏山へ向かった。
傾斜がやや大きい山道を急いで登り、息を切らしながら鈍い音のした場所へと到着する。
「うわっ……」
翔は現場を見ると、目をぎょっと開いて青ざめた。
そこには隕石が落ちたかのような大きな窪地ができていた。大きさに比例してクレーターには深さもあるらしく、その奥底を見るにはかなり近づいて覗く必要があった。
対する龍我は、非現実的な光景に強い好奇心が湧きたっていた。
「すっげ……!」
窪みにゆっくりと近づいていく。その中心に存在するだろう物体の正体を、確かめたくて仕方がなかった。
「おいおい、流石にこれ以上はやめといたほうが……」
窪みの中心に近づこうとする龍我を翔が制す。危険な香りに惹かれていても、本当に身の危険を感じたら近づこうとしないのが人間の性である。
「大丈夫、大丈夫!」
しかし龍我は危険性など一切考えず、翔の腕を掴んで強引に引っ張った。龍我には身の危険を感じる能力が欠如している。よく言えば怖い物知らず、悪く言えば身の程知らずという言葉が似あっている男だ。
半径数メートルはある半球状の穴に近づき、その全貌を上から覗いた。
「なっ……何だよこれぇ!!」
翔は叫んだ。喉から咄嗟に出る声量としては最大級のものであろう。
窪みの底にあったのは、人の形を模された塊であった。砂ぼこりでかなり汚れてはいるものの、全身は金属のような光沢があることが分かり、そのメカニックな印象はアンドロイドと呼称したくなる。
汚れのため、アンドロイドの正確な色合いは判別できないが、大まかに顔が白、手足が黒なのが確認できる。頭はツインのお団子ヘアーの形にデザインされており、女性型のようである。大きさは高校生の二人と大差が無く、物質の質感も考慮するとかなりの重量があることが想像できる。
そのような物体が落ちたのにも関わらず、表面が汚れているぐらいで、破損の後が一切見られない。故に耐久力が非常に高いことも分かる。
また、衣服も何故か身に付けている。当然、ボロボロではあるが、チャイナドレスであることは判別できた。
「何か分かんねえけど……関わっちゃいけない気がするぞ……」
翔は龍我の肩に手を添える。
不審な点がいくつもあるアンドロイド。怪しげな雰囲気がこれでもかというほどに出ている。それなのに、龍我はただただアンドロイドを見つめていた。眼差しは奇妙にも熱く、見惚れているようにしか見えない。
アンドロイドの顔には、目と口が確認できた。だが、実際に目や口があるわけではなく、のっぺらぼうの顔に液晶画面の要領でパーツが映し出されているだけである。
目は青系のカラーリングであり、丸々としている。丸の中心は白いハイライトが入ったようであり、その周囲も細やかな色遣いにより、宝石のように輝いていた。反対に口は細い線が一本、真横にひかれているだけの簡素なものであった。
「おい、どうした? 早く逃げようぜ」
「逃げれるかよ。俺ちょっと触ってみたいから」
龍我はさらに近づこうとした。一応、注意を払おうという気があるためか、慎重に片足を窪みの中にゆっくりと踏み入れた。
その瞬間、アンドロイドの顔全体が不気味に青白く輝きだした。
「うわああああああああああ!!!」
翔は一目散に逃げ去った。
「ちょっ! 逃げることないだろ! いや無くはないかもしれないけど!」
逃げるのを止めようとした時、既に翔の姿は見えなかった。声すら届かなかったであろう。
「ったく……逃げちゃ可哀想だっての」
翔を諦め、気を取り直して窪みの中に入る。軽やかなステップでアンドロイドのそばまで移動した。
「ふふふ……中々かわいいじゃないか……」
近づくことで、アンドロイドの魅力をより強く受け取ることができた。デフォルメされた表情は愛くるしく、真顔であっても不気味さなどは一切ない。龍我はそんな彼女を見て不敵に笑みを浮かべていた。
「日本語を認識しました」
突然、アンドロイドから流暢な日本語の音声が漏れた。そしてアンドロイドは上体を起こし、首を回して周囲の確認。龍我を認識する。
「はじめましてアル。ワタシの名前、シンマオというアル」