7・悪役令嬢クラリッサ
クラリッサの個人的な問題解決ターンでございます!
ユリくんがちょっとログアウトします。次出てくるのは10話です。
毎日更新しますので、ちょっとだけクラリッサ側のお話にお付き合いください!
(すみません、Xアカウントロック掛かってて、更新告知がしばらくできないかもしれませんが、毎日更新します!)
ユリくんが私のことを頼んだようで、侍女たちと手を取り合って泣いているところに王宮勤めの医師がやってきた。
溺れたのは間違いないしもしかすると一度心臓も止まってるかもしれないから、おとなしく診察を受けた。結果は問題なし。
念のためゆっくりと休養を取るように言われ、侍女曰く「いつもより早く」私たちはボッティータ公爵邸へ戻ることになった。
王宮の馬車溜まりから馬車に乗って――いや、王宮どれだけ広いの? 夢の国どころの広さじゃなくて、歩く羽目にならなくて心底ほっとしたわよ。
広大な庭園も整備されているから思わず窓に張り付いて外を見ていたら、一緒の馬車に乗ってるヘザーにたしなめられた。
「庶民とまでは言いませんが、そのような振る舞いは高位貴族の令嬢としては相応しくありません。お控えくださいね」
「はい……」
「人の目のあるところでは、それなりに振る舞っていただかなくてはなりませんよ。……ただでさえボッティータ公爵家は、人の耳目を集める立場にあるのですから」
前はともかく、ヘザーは今は私の味方。今の言葉も私がボロを出さないように心配してのことだから、おとなしく頷く。
馬車の中では、クラリッサの家族構成など「私が知っていないとおかしいこと」を教えてもらった。
クラリッサの家族は、公爵である父、そして母と妹。
本来ならば長女のクラリッサが婿を取って家を継ぐ立場なのだけれど、王族との結婚は優先順位として上にあるから妹がボッティータ公爵家を継ぐことになっているそうだ。
そして、ヘザーの目から見ても、公爵も夫人もクラリッサに殊更厳しかったり、逆に溺愛していたりということはなかったらしい。
うん……? こういう性格のねじ曲がった子って、家庭環境に問題があるんだろうと思ってたけどそういうわけじゃないのか……。
むしろ、両親はクラリッサの聡明さを認め、きちんと褒めていた。
妹のジュリエットはクラリッサのように優秀ではなかったけども、「姉と比べて出来が悪い」などと言われることはなく、クラリッサとは違う良い点をきちんと認められているらしい。
……ますますわからない。それは、珍しいくらい真っ当な家庭環境じゃないかしら。
むしろ、理想的とも言える。私なんてよく兄と比べられて文句を言われたのに。
「ただ、ジュリエット様とクラリッサ様の仲は良いわけではありませんでしたよ。仲が悪い、というのではなく、クラリッサ様がジュリエット様に厳しく接していたので」
「話を聞いてる限りそうでしょうね。むしろ、今までの話から想像するクラリッサが、誰かに優しく接するのは想像つかないし」
「ええ、そうですね。クラリッサ様は厳しい方でした。他人にも、自分にも」
ヘザーの一言が心にひっかかる。他人に厳しいだけじゃなく、自分にも厳しかったのか。
わがまま放題のお嬢様というわけではないのね……。
いや、わがまま放題で性格が悪くて能力もなかったら、そもそも王弟なんて地位の高い人の結婚相手には選ばれないか。
そうすると、王太子の婚約者は……。
「旦那様と奥様には、『クラリッサ様ではない』ことをお伝えになるのですか?」
思考に沈みかけたとき、ヘザーの一言が私の意識を目の前の問題に向けさせた。
「はい、正直に言った方がいいと思います。親が娘に無関心な家庭だったらともかく、これだけの娘の変化に気づかないのはおかしいですから。だけど――」
ああ、今から気が重い。私が悪いわけでもないのに。
「ご両親は、悲しむでしょうね。娘が死んだも同然なのだから」
「ええ……」
私が暗い声で呟くと、ヘザーも目を伏せて俯いた。
……やっぱり、元のクラリッサってとんでもない性格だと思うんだよね。
普通に人の感情を斟酌できるヘザーからも心配されないレベルまで行ってたんだから。
公爵と公爵夫人には事情を正直に説明する。その上で、私がどう生きるべきか考えてもらう。
でも、普通に「中身が違うんです」なんて言っても娘の悪ふざけだと思われるだろう。そんなことは誰も信じたくないから、余計に「嘘だ」と思われる。だから――。
「ヘザーさん、ひとつお願いがあります」
私は、ヘザーの力を貸してもらえるよう彼女に頼むことにした。