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小話 悪役令嬢が推しの名前について本気で考察してみた

母の入院でバタバタしております。

明後日辺りからまた更新できるようになると良いなあ……。


近況報告を更新しております。読書実況で爆笑してもらった話と、信じていた戦友に裏切られた話!

 王宮に住むようになって間もないある日。

 私はくるくると動き回るジェマを見ながら、ふと疑問に思った。


 ――ジェマ。

 ――ジュリエット。

 ――――ユリウス?


「なんでジュリアスじゃなくてユリウスなの?」


 ユリウスといって私が即思い出せるのは「ユリウス・カエサル」だ。英語だったら「ジュリアス・シーザー」。

 女性名でもユリアとジュリアは国によって発音が違うだけで、同じだよね。キャサリンとエカテリーナが同じ国の中にいるようなものだ。


「……また、何か脈絡のないことを言い出しましたね」


 ジェマが鼻を鳴らして塩対応! でもこれは大分慣れてきたかも。


「クラリッサの日記を見たときに、文脈から当たり前にユリくんのことだってわかってたけど……あれは普通はジュリアスって読むんじゃないかって気づいて」

「殿下のことをユリくんと呼ぶのは、気が抜けるのでやめて欲しいんですけど。今更何故、そんなことを気にするんです?」

「それは、ユリくんのことならなんでも知っておきたいからです!」


 言いきった私にジェマはため息をつき、お茶のおかわりを入れてくれたヘザーがにこりと笑って私の向かいに座った。


「そうですね、以前のクラリッサ様でしたらご存じだったことです。知っておかれたほうがよろしいかと」

「お願いします、ヘザー先生」


 ヘザーはここ数日ですっかり私の教師的な立場になっている。

 本を読めば理解できる、地理や歴史に関することは楽なのよね。

 私にとってわかりにくいのは、社交や貴族同士の関係のことだ。


「王弟殿下のお母上は、ギャリック辺境伯家の息女だったノエル様です」

「ノエル?」


 私の頭の中にフランス語混じりの賛美歌が響く。ノーエール、ノーエール、と。

 そして、辺境伯家の娘という情報。


 ほうほう、今、ピンときましたよ。

 現代日本でも国際結婚ではよくあるパターンだわ。

 お茶を飲んで頭の中で言葉を組み立て、私はヘザーより先にしゃべった。


「つまり、ギャリック辺境伯領は、国境を接している隣の国との交流が深く、文化が混じり合ってるんですね? それでノエル様の息子であるユリくんもそっちの流れで名付けられた、と」


 我ながら名推理! と目を輝かせながら推論を披露したら、ヘザーの隣の椅子に座りながらジェマが嫌そうな顔をした。


「気持ち悪ぅ……」

「えっ、なんで!?」


 ジェマの謂れのない非難に私が声を荒らげたら、ヘザーまでもが口元を引きつらせていた。

 私何か変なこと言った!?

 世界史勉強してたら当たり前に通る道だよね。

 つまり高校を普通に出た日本人なら一般常識と言っても過言ではない!

 決して、私がオタクだからそういう知識が出たわけじゃない!

 決して! 大事なことなので2回言いました!


「間違ってました? 私、今ドヤ顔で物凄く適当なことほざいた?」

「いいえ、クラリッサ様の仰る通りです。ただ……その、私もこの段階でもう理解されるとは思っておりませんでしたから、少々驚きました」

「本当に、時々思うんですけど、クラリッサ様は平民の育ちではあり得ないくらい教養ありすぎなんですよ。元の世界でもよくある話なんです? それ」


 丁寧に「おまえ非常識」と言ってくるヘザーさんと、ストレートに「おまえ頭良いな」と言ってくるジェマさんってば。

 この場合、言葉の柔らかさとこそ違え、言ってることはほとんど同じじゃないかな。

 つまり、――軽くディスられている。


「よくある話ですよ。特定の分野に情熱を傾ける人間を、私の故郷では『オタク』と呼んだんです。私は、まあいろいろ」

「つまり、学者のようなもの、でしょうか」


 ヘザーが首を傾げたので、私はカップを手にして優雅に微笑みながら応えた。


「そうですね、まあそんなところです。在野(ざいや)の学者と言えば近いかもしれません」

「そして今のクラリッサ様は、ユリウス殿下のオタクなんですね」

「ジェマさん良いこと言った! そう、私はユリくんのオタクでユリくんが推し!」

「その、急にテンション変えるのをやめてくれません? 付いていけないんですけど。あと、私の名前はGemma(ジェマ)で、ユリウス殿下やジュリエット様の頭文字とは綴りが違います」


 おっと! そういえば日記にはユリくんやジュリエットの名前は出て来てたけどジェマはさすがに出てこなかったからね。

 カタカナ表記で覚える世界史の悪い癖が出てしまって――って、私、ジェマの名前から違和感を憶えたことなんて話してないのに!


「気持ち悪っ! なんで私が考えてることわかったの?」

「だって、さっき私のことを見てたでしょ?」


 フン、とジェマが得意げな顔をしたので、私は半眼になって彼女を見た。


「さっきジェマさんが私に言ったこと、そっくりそのままお返しします! 呆れるくらい察しが良すぎる!」

「……クラリッサ様にお仕えしていて、察しが良くならざるを得なかったんですよ」


 ふ、と遠くを見るジェマに、「あ、地雷踏んじゃったかな」と一瞬焦る。


「いえ、ジェマは最初からそうだったわ」


 あまりにナチュラルに言われたから、私もジェマも反応が一瞬遅れた。言った本人は、美しい所作でカップを口元に持っていく。


 さすが、侍女頭ということかしら。

 つまり、ジェマに遠回しに「おまえ変態」って言うヘザーが一番強かったですね……。

お読みいただきありがとうございます!

面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブクマ、評価・いいねを入れていただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします!


挿絵(By みてみん)

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