【小説の欠片:短編】落ちる者
親を殺され、あるいは子を失った者たちが泣き叫んでいる。住む場所を追われ、一所に留まることを許されなかった者たちが、列を成して歩いてゆく。
自らの運命を嘆き、翻弄され、絶望の底から天を見上げる彼らの眼差しは、いたく私の心を揺さぶった。
彼らの営みを覗き込み、嘆息する。それをどれほど長く繰り返した事だろう。いい加減に行動するべきなのかもしれないと決意を固めたその時、私に声がかけられた。
「行くのかい? 止めた方がいい」
いつの間にか、隣には男が立っていた。男は私の友だった。
「お前たちは、あれらを見捨てるというのか?」
「見捨てるわけじゃないよ。彼らもきっと、いつかはここへやって来る」
輝く者たちの住まう地。すべての苦しみから解放された、約束の場所。誰もがここを目指し、生き、学び、そして成長している。
「だがそれまでに、どれほどの年月がかかる。千年か? 数千年年か? それとも万年か? それまであれらは、とてつもない地獄を見るだろう」
「それが試練だ。誰もが通る道さ」
「すべての者が、同じ道を辿るわけではない」
「彼ら自身が選んだ道だ。そうと自覚はしていなくとも」
友の言うことは正しい。だがすべてを内包した先にある輝きをもってすれば、正しさになど、さして意味を見出すことはできないのだ。
「神は言う。神の御前ではすべては肯定されると。善も、悪も、妬みも、苦しみも、悲しみも、怒りも、愛も、すべてが正しいのだと。ならば、私のこれから取ろうとしているこの行動もまた、正しいはずだ」
「そうか……。君もまた、苦難の道を選ぶのだね」
友の瞳にわずかな落胆と大いなる悲しみが宿る様を見ても、私の心は揺るがなかった。
「私は私の心に従う。それが神のご意思でもある」
「後悔するかもしれないよ」
「しない。なぜなら私が抱くすべての感情、私を取り巻くすべての現象は、私が輝くための糧にしかならないからだ」
もしも後悔があるとすれば、迷い続けたこの長い年月こそが、私の最大の後悔、そして過ちだ。
「……ならば、もう止めはしない。だが、いつか君が彼の地から此の地を見上げる時があれば、私のことを思い出してくれ。私もまたその時には、きっと手を差し伸べよう」
「感謝する、わが友よ」
地上を見下ろした私が今まさに飛び立とうとした瞬間、友が私の名を呼んだ。
振り返った先には、慈愛の瞳で私を見つめる友の姿があった。
「私は君の勇気と慈悲を忘れない。どうか君に幸いあれ。光輝く者よ」
友のその言葉に深く頷き、私は幾筋もの血の流れる地上へと降り立つべく、身を投げ出した。




