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夏の終わり、猫とカレーと夏の寓話

作者: 無道 哲也

夏の終わりの午後、僕は台所でカレーを作っていた。いつものように、近所の八百屋で買った玉ねぎ、人参、ジャガイモを刻む。特にジャガイモは、顔なじみのおばあさんが「今日のジャガイモは特別美味しいよ」と勧めてくれたものだ。牛肉は、近所のスーパーで買ったオーストラリア産。窓の外では、蝉の声が夏の終わりを告げていた。


鍋に油をひき、玉ねぎを炒める。昔よく聴いたジャズをかける。レコード棚からビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビイ」を取り出し、ターンテーブルに乗せる。針を落とすと、ピアノの美しい旋律が部屋に広がった。


カレーの香りとジャズの音色が混ざり合い、静かな台所は心地よい空間へと変わる。僕は、目を閉じ、その心地よさに身を委ねた。ふと、廊下の方から小さな足音が聞こえた。次の瞬間、足元にミケがやってきた。


「ダメだよ、ミケ。これは人間用だからね」

僕は、そう言いながらミケを抱き上げ、いつもの猫用カリカリを皿に入れた。しかし、ミケはカリカリには目もくれず、僕の足元でニャーニャーと鳴き続ける。


「そんなに鳴いてもダメだよ。ほら、カリカリ食べるんだ」

僕は、ミケの皿を指差したが、ミケは首を横に振る。その代わりに、僕の足にスリスリと体を擦り付けてくる。まるで、カレーを分けてくれと言わんばかりだ。


「しょうがないなあ、ほんの少しだけだからね」

僕は、スプーンにほんの少しだけカレーを乗せ、ミケの口元に持っていった。ミケは、目を輝かせ、ペロリとカレーを舐めた。


「ニャー!」

ミケは、嬉しそうに鳴き、もっと欲しいとばかりに僕の足に擦り寄ってくる。


「はいはい、わかったよ」

僕は、ミケの皿に、ほんの少しだけカレーをよそってやった。ミケは、夢中でカレーを平らげ、満足そうに僕の足元で丸くなった。


食後、ミケはいつものように窓際で日向ぼっこを始めた。僕は、洗い物を済ませ、コーヒーを淹れて、ミケの隣に腰を下ろした。


「美味しかったか?」

僕は、ミケに話しかけた。

ミケは、目を細めて、気持ちよさそうに喉をゴロゴロと鳴らした。


夕方になり、日が傾き始めると、ミケは僕の膝の上に乗ってきて、そのまま眠ってしまった。僕は、ミケの柔らかな毛並みを撫でながら、静かに流れる時間を感じていた。


しかし、その夜、僕は何度もミケの鳴き声で目を覚ました。ミケは、腹痛と下痢で何度もトイレに駆け込み、その度に悲痛な鳴き声を上げる。僕は、ミケの背中をさすったり、水を飲ませたりしながら、なんとか朝まで付き添った。


翌朝、ミケはぐったりとしていたが、昼過ぎになると、いつものように元気をとり戻した。そして、夕方になると、そわそわと落ち着かない様子で、玄関の方を見つめていた。


「どうしたんだ、ミケ?」

僕は、ミケに話しかけた。

ミケは、返事をせずに、玄関の方を見つめたまま、ニャーと鳴いた。

僕は、ミケに促されるように、玄関のドアを開けた。すると、ミケは勢いよく外に飛び出し、近所の八百屋へと走り出した。


八百屋は、夕方の買い物客で賑わっていた。ミケは、店先に並んだジャガイモの前に立ち止まり、じっと見つめた。そして、何かを決意したように、おばあさんに向かって、ニャーと鳴いた。


「あらあら、ミケちゃん、どうしたの?」

おばあさんは、ミケに話しかけた。

ミケは、おばあさんの足元に擦り寄り、ジャガイモを指差した。そして、再び、ニャーと鳴いた。


「もしかして、このジャガイモが気に入らないのかしら?」

おばあさんは、ミケに尋ねた。

ミケは、頷いた。


「なるほどね。わかったわ。今度からは、ミケちゃんの好きなジャガイモを選ぶようにするわね」

おばあさんは、ミケに話しかけた。

ミケは、お礼を言うように、おばあさんの足にスリスリと体を擦り付け、僕と一緒に家に帰った。

それから、ミケがジャガイモを選ぶのが日課になった。


ある日、ミケが選んだジャガイモは、ゴツゴツとした握りこぶしのような形をしていた。

「これは…」僕は、ジャガイモを手に取り、まじまじと見つめた。ミケは、誇らしげに僕を見上げ、ニャーと鳴いた。


その夜、ミケ選定ジャガイモカレーを食べた。ホクホクとしたジャガイモは、いつもより甘みがあった。


「美味しいな」僕は、思わず呟いた。ミケは、満足そうに僕の足元で丸くなった。


次の日、八百屋のおばあさんに聞いた。あのジャガイモは、珍しい品種で、特別な畑でしか採れないという。


「ミケちゃんは、よく知ってるわね。昨日、ミケちゃんが選んだジャガイモは、本当に良いものだったのよ」おばあさんは、笑った。


ミケは、ただの猫じゃない。そう思った。

それから、ミケは時々、珍しい野菜を選んでくるようになった。僕たちは、ミケが選んだ野菜で、色々な料理を作った。ミケは、僕の料理のパートナーになった。


そして、ミケが珍しい野菜を選ぶたびに、僕の日常は少しだけ特別なものになっていった。

今回の小説では、あくまでフィクションとして、猫がカレーを食べる描写をしていますが、カレーは猫にとって有害になります。


実際に猫にカレーを与えることは避けるようにしてください。

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