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No.75 英雄達の罪科①

 古代大戦と呼ばれた、かつて地上の全てが戦場となった戦争がある。

 無数の勢力は日々生まれ、同じように消えていった。力で全てを手に入れることが出来ると誰もが信じて、それを希望とし、時には絶望とされた。現在のグヴォルト帝国帝都フォングレイドも、その土地を治める一介の領主でしかなかったが、その地には歴史を変える才能が産まれた。

 最初はどこにでもいるような、仲良し3人組であった。

 誰よりも慈しみの心を持つ少年と、いつも他人のために怒る少年と、いつかの希望に生きる少年と。

 彼らは当時、大人がこぞって研究をしていた魔術に魅せられた。彼らは新たなことを知る度に喜び、こぞって知識をつけようと競争した。3人だけの閉じた輪で魔術は進化をしていった。発見は新たな謎を呼び起こし、その謎を解いた時にまた好奇心は燃え上がる。

 彼らは成人する少し前に領主から呼ばれた。魔術の研究をして欲しいと頼まれ、その真意には気付かぬままに意気揚々と快諾し、大きな時代のうねりに飲み込まれることとなった。

 見渡す限りの丘で家畜が草を食む。暖かな太陽光と、吹き抜ける風が美しい土地であった。夜になると星が空の闇を消そうと輝いた。――その空を、突如として炎が紅蓮に染め上げた。

「騎兵隊のようだ」

「とうとう攻めてきたか。さて、どうする、マクス」

「どうするもこうするも、戦うしかないよ」

 3人の若い魔術師がその土地に産まれなければ、歴史は大きく違っていただろう。

 故郷を守る戦いから、領主の理想を叶える戦いへと、3人は身を投じていった。1国の領主でしかなかった主君を世界一の国の主へとするために、彼らは戦い抜いた。留守中に故郷と家族を焼かれようとも、恋人が拷問の末に惨殺されようとも、何があろうと歩みを止めることはなかった。

 いつしか彼らは三雄と呼ばれ、グヴォルト帝国に住む全ての人間が知る伝説の英雄となった。


「――そういえばダウンはここへ以前も来たのでしたね?」

 水面が美しく輝いていた。湖畔の木陰に腰を落ち着けてメイジは古い本を読んでいる。

「思い出したくない。喋るな」

「分かりました」

 アークに勧められるまま、彼の故郷である湖畔の村までやって来た。しかし、ここでもフリードという偽名を名乗り、アークの友達として、その養父母の好意から家に置いてもらっている。ダウンが以前、湖畔の村を襲撃したことについては知られてはいなかった。

「これからはどうするんだ?」

「アークが僕を迎えに来たということは、何かの動きがあったということでしょう。今はそれが何なのか分かるまで待ちます」

「悠長に構えていていいのか?」

「……何か、知っているんですか?」

「心当たり、という程度だ」

 本を閉じて脇に置き、メイジは従者を見据えた。

「教えて下さい」

「ドラスリアムのバベルが消え去ったと言われているが、フォースが果たして、その程度で消失するかと言われればはなはだ疑問だ。誰一人として、フォースが確実に倒れたということを確かめてはいない。フォースは古代大戦のために造り出された。その当時から、決戦用波動消滅魔法陣(ビックバン)は存在し、どう対処するかは研究されていた。フォースそれぞれに、何らかの形で免れるような機能が存在していても不思議ではない」

 顎に手を添え、メイジは考え込んだ。それからしばらくし、本を抱えて立ち上がる。

「その話を聞いてしまうと、何だか悠長に構えていられません。次の行き先を決めました」

「……どこだ?」

「ドラスリアム、バベル跡地。フォースが生存しているのか、調査をしましょう。もしもまだ生存して、何か良からぬことを企てているのならば……僕らで止めましょう」

「お前の実力だと厳しいものがある」

「それでもやらないとなりません。いざとなったら、竜の力も使います。まだ足りないなら、ダウンに預けた剣を返していただきます」

 その数時間後にメイジとダウンは湖畔の村を囲っている森を抜け、ドラスリアムへと向かって行った。


「セブンっ!」

 ようやくノアに追いついたアークはやっと会えたセブンに飛びついた。それからシャオに気付いて、彼の方にもぱっと明るい顔を向ける。

「シャオも! 久しぶり!」

「ああ。雰囲気変わったな、アーク」

「随分と探したのよ。2年くらい。何してたのかしら?」

「咎を受けていたからな。この程度で済んで良かった。とにかく、魔界を出よう。危険だ」

「危険とかさ、今さら言っちゃう?」

 少しだけ不満そうにアークが言い、シュザリアとクロエが頷いた。この2年間でそれぞれに成長し、魔界を普通に歩けるようになっているのだ。

「何言ってる、お前ら。こんな魔界の浅い階層をうろついてるところで天狗になるな」

「む、誰のせいでうろついてると思ってるの? ねえ、セブンっ」

 頬を膨らませてシュザリアが迫り、セブンは肩を落として気苦労のため息をつく。

「いいから行くぞ」

「いいからって何なの? ねえ、セブンったら……!」

 さっさと歩き出すセブンにシュザリアが文句を垂れながらついて行く。

「見せつけてくれるな、随分と……」

「そうね。でも、2年も会えなかったんだから当然じゃないかしら」

「え? 見せつけるって、何が?」

「アークもあまり変わらないわね」

 クロエに微笑まれ、アークはしきりに首を傾げるのだった。


「待ちわびたよ、待って、待って、待って、待ち焦がれた……」

 はあ、と彼は大袈裟に嘆息して見せた。くしゃくしゃの金髪をかき、眼下に広がる光景を愛おしそうに眺める。グヴォルト帝国王立魔術学院ホワイトウイングは今、混乱の最中にあった。どこからともなく現れた、大量のモンスター。小形のものから、大形のものまで、多種多様のモンスターが学院中のあちこちで猛威を振るっている。

「ここから僕は、僕の未来を切り拓くんだ……!」

「私にもお聞かせ願えますか、キールくん。あなたの思い描く未来とやらを」

 時計塔の屋上にどこからともなく現れたのは、マクスウェルだった。いつものように穏やかな笑みを顔に浮かべたまま、彼はそこに立っていた。

「学長先生、お早い到着ですね」

「これはあなたがやったことなのですね、キールくん」

「それを確認してどうなさるおつもりですか? 僕に勝てるとでも?」

 突如として、キール背後に無数の魔法陣が展開された。そこから連続で光弾が放たれ、時計塔が崩れさっていく。だが、キールの足下に展開されている魔法陣が彼を中空に浮かせた。

「マクスウェル・ホワイト! 僕の憎悪を、憤怒を、忘れたとは言わせないぞ! 古代大戦の陰でお前がやったことを、僕は永劫許さないと誓ったはずだ……!」


 その日、王立魔術学院ホワイトウイングは崩壊した。

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