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No.74 集うチカラ④

 5メートルはあろう身長で、全身の皮膚が濃緑色をしていた。姿形は人間とそう変わらないが、その身体のサイズはあまりにも大きい。何故か腕が2対4本もあるが、どうやらこの辺りではデフォルトらしく、セブンもシャオも見飽きてしまっていた。軽装の鎧を身につけ、胸当て、篭手、脛当て程度のもので身体を覆っている。だが、そのサイズだけで威圧感はたっぷりあった。

「我が名はヴェルスローアイト。魔界の王である」

「だろうなあ……」

 サーベルスパイダーから奪ったサーベルを両手に構えてシャオが言い返す。彼の目はヴェルスローアイトがそれぞれの腕に持っている、長短の剣をじっくりと見定めている。背から生えている腕で持っている、長い方の剣は刀身が3メートルを悠に超えているようなので眼中にないが、前腕で持っている剣は人間が持つには大きいものの、今持っているサーベルより、質が良さそうだった。目測で刀身は1.4メートルほど。幅が広く、40センチはありそうだ。刀身中央にスリットが入り、そこで鼓動のように赤い光が強くなったり、弱くなったりして発光している。

「地上に行く道を教えろ」

「このヴェルスローアイトに対して、生意気な口を……」

「それなら、道は自分らで探すからお前の剣、短い方を俺にくれ」

「貴様らは、魔界の王を何だと思っているのだ? たかだか人間の分際で、この我と対等な口を利くなど笑止千万! 今、ここで葬ってくれる!」

 何を口にしたところでこうなるのだろうと分かっていたセブンとシャオの動きは速かった。まずシャオが、4本の剣を振り上げたヴェルスローアイトの両肩へサーベルを2本とも突き刺す。深く、護拳のところまで思い切り、ヴェルスローアイトの肩を串刺した。振り下ろすことが出来ずに関節を固められ、シャオが離脱するとセブンが展開した上方配置魔法陣に気付く。

火蜥蜴の爪(サラマンダーファング)

 魔法陣から巨大な炎の爪が現れてヴェルスローアイトを引き裂く。しかし、焼かれて、爪に引き裂かれつつもやはりヴェルスローアイトは一撃で倒れはしない。シャオが肩に刺していたサーベルを片方だけ引き抜いた。

「ぬぅん!」

 すかさずヴェルスローアイトが自由になった左前腕でシャオを捕まえようとしたが、サーベルに切り払われる。

「ちょこまかとぉおおおっ!」

 2本の左腕でシャオの剣戟を受け、いなし、攻撃をしかける。だが、激しく刃を腕に受けても傷などつきそうになかった。徐々に後退していくシャオが身を翻した。ヴェルスローアイトの側面へ回ると、突き出されていた大きな手を切り落とした。前左腕から短い方の大剣が落とされる。それを片手で拾い上げてシャオが後ろへ跳ぶと、ヴェルスローアイトの足下と頭上に魔法陣が展開された。

雷景(サイト)

 上下の魔法陣の間で激しく雷光が迸る。シャオが奪ったばかりの大剣を両手で振りかぶると、そのままヴェルスローアイトへ向かって行った。高く跳び、背中まで振りかぶった剣を振り落とす。

「ぐ、があっ、あああああああああああっ!」

 魔術に焦がされ、大剣に頭をかち割られ、ヴェルスローアイトが悲鳴を上げる。シャオとしては頭から両断するつもりだったのに、鉄か何かのように硬い頭骨に刃を滑らせてしまった。魔界の王と名乗るだけはあるのだろう。

「おい、セブン! こいつは、少しタフ過ぎやしないか!?」

「だが、そう強い方でもないはずだ。とことん相手にするだけだ。体力は温存しておけ。純粋な体力勝負となれば軍配は奴に上がる」

 言いながらセブンがヴェルスローアイトを立体魔法陣で取り囲んだ。激しく炎がその中で盛り、もうもうと黒い煙を立ち上らせる。まともに受ければ骨さえも残さない威力なのだが、特に魔力を使ったり、別の魔術で打ち破った訳でもないはずなのにヴェルスローアイトはダメージを負っただけで済んでしまう。

「とんでもねえな……」

「魔界の王という称号の重さ、貴様らに骨の随まで分からせてやろう……!」

 ヴェルスローアイトが響く声で宣言すると、大きな下方配置魔法陣が展開される。

爆撃大鋼波(グラビティ・フロウ)!」

 多大なプレッシャーを感じたセブンとシャオはそれぞれに身構えた。しかし、一瞬で魔術は発動される。魔法陣上にある全てが超衝撃の嵐に揉まれる。地面はその衝撃で隆起し、セブンとシャオもまた、骨や肉が全身の皮膚の内側から突き破ろうとする壮絶な激痛を味わう。

「止めてぇえええええええええええ――――――――っ!」

 何かが、そこを通過した。

 美しい金色の何かを、セブンは無意識に目で追った。

泥の妄執(クレイ・バインド)

 セブンが発動した魔法陣から泥の手が伸びて、捕まえた。引きずるような形でそれは止まり、鈍色をしたプレートが宙を舞う。だが、そこから放り出された彼女は地面に投げ出すことなく両腕に受け止めた。

「シュザリア……」

「え、セ、ブン……?」

 腕に主君を抱き締めたまま、セブンは安堵の息をついた。

 会うことが出来た。それだけではない。魔界にまで、迎えに来てくれた。

 どれだけの時を魔界で過ごしたのか、セブンは定かではなかったが彼女の纏う雰囲気が変わっていることにも気付いた。それは素質だけで魔術を行使してきた姫君ではなく、ひたすら実戦の中に身を置いてきた者が纏える空気だった。

「セブン、やっと会えた……!」

 ぎゅっとシュザリアがセブンに強く抱きつく。

「探したんだよ……。ずっと、あれから、セブンのこと……」

「ああ、済まない」

「感動の再会をしてるところに悪いが、あいつをどうにかするのが先だと思うぜ」

 シャオが呆れ半分、白け半分に言う。

「あっ、シャオもいる!」

「久しぶりだな、シュザリア。ちょっと手伝ってくれ。魔界の王はなかなかだ」

「……そうだな。お前の力を貸せ」

 シュザリアを地面に立たせ、セブンが一歩だけ彼女の前に出る。

「人間如きが1人増えようとも、何の脅威でもない!」

「おいおい、人間舐めるなよ」

 言いながらヴェルスローアイトにシャオが切りかかっていく。

「シュザリア、光の魔術を思い切りぶちかませ。俺とシャオがその隙を作る」

 複数の魔法陣がヴェルスローアイトを取り囲むように展開されていく。シャオの攻撃に合わせてヴェルスローアイトの体勢を崩したり、足下を掬うなどをしていく。それでもヴェルスローアイトはなかなか倒れない。

「灼砲蓮華!」

 無数の突きをひとまとめにしてぶつけると、ヴェルスローアイトの胸当てを砕き散らした。

火蜥蜴の憤激(サラマンダー・レイジ)

 直径3メートル程度の魔法陣をすかさずセブンが展開した。鮮やかな朱色の炎が連続でヴェルスローアイトに攻撃を加えていく。火蜥蜴の爪という魔術の発展型だった。発動回数と持続時間を長期化させることで1つの魔法陣において連続で攻撃をしかけていく。

「シュザリア!」

「うん! ――聖なる祈り(ホーリー・グレイス)

 同時に2つの魔法陣が展開された。ヴェルスローアイトの足下と、その胴体を中心にしている。変形させた重複魔法陣だった。魔法陣は美しい白色に輝きを強めて発動される。ふわりと広がるような、それでいて強烈な光。触れたものを、触れた傍から滅する裁きの光だった。ヴェルスローアイトは光に焼かれていき、魔法陣が消え去るとその場へ横たわった。

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