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No.64 新しい旅路を②

 シュザリアとクロエは旅支度をすると2人きりで学院を出て行った。寒い朝で、吐息は白くなってしまう。まだ人は起きていない。空から細かな雪が降ってくる。ストリュース祭に向けてた準備で道ばたには飾り物が作られている。

「深魔の穴、行くの?」

 街門、普段ならば多くの人が出入りするそこにアークがぽつんと立っていた。厚着をしているが荷物らしい荷物はない。シュザリアとクロエが立ち止まる。

「行くよ。アークはどうするの?」

「……ぼくは行かない」

 俯いてアークが答える。後ろめたさを感じているような、少し弱い声だった。

「行く方がどうかしてるのよ。気にすることなんかないわ」

「え、クロエ、どういうこと?」

「そのままよ」

 いつもの会話にアークは小さく笑った。

「僕はまだ魔界に行かないけど、後から行くことにする」

「一緒に行こうよ、どうせなら」

「ううん。……今のぼくが行っても、役立たずの足手まといだから。もうちょっと大人になってから、2人のこと追いかける。追い越すくらいの勢いで」

 吹っ切れたものをアークから感じ取って、クロエは目を細めた。シュザリアは少し寂しそうにしながらも、頷いて肯定を見せる。

「頑張ってね」

「それ、ぼくの台詞だから。深魔の穴、通れるの?」

「うん。一雫の涙(ティア・ドロップ)使えば大丈夫なんだって」

「魔界の歩き方は?」

「よく分からないけど、とにかく、虱潰しに歩いてセブン探そうかなって」

「不安ばっかりなんですけど……」

 戦闘で足を引っ張ることになろうと、それ以外を考慮してついて行った方がいいのかも知れないとアークの決意が揺らぐ。

「見送りにきてくれたんでしょ?」

「うん、まあ……」

「わざわざ、こんな朝早くに悪いわね」

「別にいいよ。これくらい。……セブン、ちゃんと見つけてきてね」

 寒そうにしながらアークはポケットへ手を入れて、簡素な指輪を2つ取り出した。それを差し出す。

「何それ?」

「……お守り。魔術具だけど、持っとくといいことあるかも」

 シュザリアとクロエがアークから指輪を受け取る。核は赤色をした石だ。リングは銀色。核に魔法陣の紋様が刻み込まれていた。

「これ、アークが作ったの?」

「うん……。師匠に手伝ってもらったけど」

「あら、すごいわね。魔術具って、作るの時間かかるんじゃなかったかしら?」

「師匠がすごいからね。……でも、ちゃんとぼくが色々考えて、お守りになるようにって作ったから。魔界で何かあっても死なないでよ」

「大丈夫だって」

 笑いながらシュザリアが言う。アークは不安を拭えないが、心配しても仕方なく黙る。

「そろそろ行くね、アーク」

「うん……。気をつけて」

「あなたも頑張ってね」

「……うん」

 シュザリアとクロエが街門を出て行った。手を振ってくれるシュザリアに微笑みながらアークも大きく腕を振った。2人の姿が見えなくなってから、アークは踵を返す。――と、そこにマクスウェルがいて腕を組んでいた。

「いやはや、行ってしまいましたね」

「学長……いつから?」

「今ですよ。……アーク、君はこれからどうするのです?」

「グランギューロ・グランエイドに弟子入りしたから……鍛えてもらって、ちゃんと強くなってから魔界に行きます」

 ぽん、とアークの頭にマクスウェルが手を置いた。

「良い顔をしています。厳しい道が待ち受けているかも知れませんが、若さがあればどうにもなるでしょう。……若いというのは、本当に良いものです」

「でも学長って若く見えますよ」

「わたしは年齢詐称ですから」

「ストリュースの定理とか解いちゃえば出来るんですか?」

「あれは解いてはいけないものですよ。……あんなものより、ずっと複雑で、ずっと大変なものです。とにかく、今日は冷えます。さあ、寮に戻りなさい」

 はい、と返事してアークが学院へ戻っていく。途中で振り返るとマクスウェルはじっとシュザリア達の消えていった街道の先を見据えていた。


 人間の住む世界より、遠く次元の隔絶された世界の一つ・魔界。

 そこは力だけが全て。力によって他を屈服させ、力によって全てを勝ち取る。

「人間の身で、この魔界の王へ戦いを挑むか」

 30メートルを超えた身の丈、巨大な剣を持った甲冑の王が眼前の少年に尋ねた。薄緑色の髪。乱雑に伸ばしているように見える髪型だ。黒い刀身の剣を持っている。刀身には金色のスリットのような模様が入っている。

「魔界の王ってのは、どいつもこいつも同じようなこと言うんだな」

 胸元には「7」の文字が見え隠れする。

「貴様、なめているのか?」

「いいや……。魔界の王ってのを名乗る連中は総じて、強いからな。楽しみだ。――が、きっとあんたもおれには勝てねえよ」

 少年は不敵な態度で言う。剣を魔界の王へ向け、口角を持ち上げた。

「名乗れ、人間」

「フォース・ナンバー・セブン。――弟に正式な名前は譲ったんでね。セッテと名乗ってる」

 オリジナル・セブン――セッテが名乗ると、魔界の王は鼻を鳴らした。

「貴様が人間の欲望……フォースか。と、なると、今、魔界中を荒し回っている輩というのも貴様だな?」

「そうだな。なかなか、充実した毎日を送ってる。お前さんの名前は何て言うんだ?」

「ライドルア」

「意外とシンプルな名前だこと……。じゃあ、一戦交えてくれるな? うずうずしてるんだ。ライドルア、お前、強いんだろ?」

 セッテが試すような物言いをすると地面を蹴った。真っ黒で光沢のある地面だ。ライドルアが片手で剣を振り下ろすと、セッテはその巨大さと質量に負けて地面へ叩き付けられる。

「パワーは申し分ない……。次は、こいつでどうだ?」

 ぶんぶんと頭を振ってセッテが起き上がると、ライドルアの頭上に大きな上方配置魔法陣。そこから赤黒い炎の球体がいくつも降り注ぐ。一つ一つの大きさは直径10メートルを超えている。それが猛スピードで降り注いでいくのだ。しかし、ライドルアが両手で剣を振るうと魔法陣がびりびりと震えてそのままかき消された。撃ち出された火球を受けてもライドルアは悠々としたままセッテを見下ろす。

「お前、いいな……」

「貴様こそ、少しは骨があるようだな」

「前に戦った魔界の王さまは2週間程度で決着ついちゃったんだけど、あんたはどれくらいいけそうだ? おれの見立てだと、3ヶ月」

「貴様が負けを認めるまで、百年だろうと相手をしてやる」

 ライドルアの台詞にセッテは目を大きくした。

 それは歪な、戦闘快楽者の笑顔。口の端が持ち上げられ、目は狂気の色に染まる。


 魔界最強の王たるライドルアと、最強のフォース・セッテの死闘は長かった。

 死闘を制する者はなく、セッテとライドルアは戦いを通じて、互いに初めての盟友を得たという――。

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