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No.59 揺るぎ出す世界⑧

 地上へ出ると、そこに大きな翼のモンスターがいた。胴は細く、首が長い。翼のついたトカゲを思わせるシルエット。全身にびっしりと深い青色の鱗。背中には鞍が着けられ、甲冑に身を包んだ人間がそこに乗っていた。――竜騎兵(ドラゴン・ライダー)と呼ばれるグヴォルト帝国最高位の兵だ。

「セブンの言ってた応援って、あれ……?」

 竜騎兵は飛竜と呼ばれるモンスターに乗る騎士だ。そして、竜は現代では非常に数が少ないモンスターであり、さらにそれを臣下とするのはグヴォルト帝国にはたった1人しかいない。

「お待ちしておりました。お怪我はありませんか、殿下」

 甲冑の騎士が問い、飛竜から降りた。その声は凛とした女性のもの。甲冑を鳴らしながらシュザリアと、疲弊しているクロエの方へ歩み寄る。甲冑の騎士は2人の前へ来ると兜を外した。若くはないが、ピンと張りつめた空気を纏わせる女騎士。顔立ちは整っているのだが、表情は厳しく目は油断なく周囲を警戒している。

「やっぱり、エグレット!? どうして?」

 エグレット・ティープソン。グヴォルト帝国最高戦力・魔導騎士団長。グヴォルト帝国における現役軍人最強と謳われる人物だった。

「無論、ご助力をと思いまして。陛下に進言し、ここへ参りました。先ほど、セブン・ダッシュと会いました。ディファルトは別行動でしょうか?」

「あ、うん。アークはシャオっていう人と一緒にフォースと戦ってると思う……」

「そうですか……。こちらへ着いてからの状況はダッシュから伺っています。決戦用波動消滅魔法陣(ビックバン)をそのシャオという人間が使うと聞きました。あれを使えばこの辺りにどのような被害が出るか計り知れません。このフレイドへお乗り下さい。リュグルスハルトはわたしが」

 飛竜・フレイドを見てエグレットが言う。そうしてからシュザリアが肩を貸しているクロエを抱きかかえてフレイドの鞍へ乗せた。

「さあ、シュザリア様」

「でも……セブンと、アークは?」

「いつ、決戦用波動消滅魔法陣が発動されるか分かりません。ここは退避を」

「そんな……! 駄目だよ、もしも助けられなかったら大変だし、それにシャオも、デュランさんも、クウちゃんも見殺しに出来ない!」

「しかし、フレイドへ乗れるのは多くても4人です。いつ来るとも知れぬのに待ち、もしも発動されては危険が及びます」

「じゃあ、その子で上まで飛んでアークだけでも助けようよ。すぐでしょ?」

 食い下がるシュザリア。エグレットはバベルを見上げた。先ほどから激しく金属のぶつかり合う音が響いている。

「危険です。ダッシュが何とかするはずですのでシュザリア様はご避難を」

「やだ。エグレットはクロエのことお願いね。あたし、ちょっと行ってくるから」

 踵を返してシュザリアがバベルへ走っていく。その背中を見送ってからエグレットは厳しい顔をしながらフレイドを見た。フレイドもまたエグレットを見る。

「仕方ない。行くぞ、フレイド」

 翼の付け根に手をかけて大きな鞍へ飛び乗ると、フレイドが飛ぶ。低空飛行をしてシュザリアを追いかけ、追い越す時にエグレットがシュザリアの手首を掴んだ。そのまま持ち上げて鞍へ下ろすと、フレイドは直角にバベルの外壁を飛んでいく。

「え!? エグレット、ちょっと!?」

「ディファルトを救出次第離脱します。わたしが協力するのはそこまでです。――フレイド、分かるな?」

「クォオォォォ」

 フレイドが鳴いて旋回する。もう随分と高いところまで来ているはずなのに、バベルの頂上はまだ見えない。旋回したフレイドが勢いよく壁へ向かっていき、エグレットが何もない空間から突撃槍を出した。

「スナイプ・スラスト」

 ゴッと壁があっさりと崩れてするりとフレイドはその穴から中へ入った。長い螺旋階段を上昇していくと光が見える。そこは広間になっていた。一気にフレイドが飛び出す。

「何だ!?」

 サードと交戦していたシャオが突如として現れた甲冑の騎士と飛竜に目を見張る。しかし、フレイドの背にいたシュザリアとクロエを見てすぐに合点する。

「助太刀ならもっと上へ行ってくれ!」

「アークはどこ!?」

 シュザリアがフレイドに乗ったまま声を尋ねる。サードの攻撃を焔鬼で受け、押し返しながらシャオは顔だけフレイドの方を見て答える。

「上だ! デュランが行った! 残ってるのはセカンドかナンバー・ワンだ!」

「分かった! エグレット、お願い」

 シュザリアが言うとまたエグレットが壁を破り、そこからフレイドが飛び出た。ただでさえ氷点下の土地。その上空を高速で飛んでいると体感気温は想像を絶する寒さだ。しかし、シュザリアは必死に鞍へしがみついて、クロエの体を支える。

「シュザリア様、逞しくなられましたね」

「え?」

 シュザリアを観察していたエグレットが言う。しかし、シュザリアには届かなかった。いえ、と短く返してからまた狙いをつけて壁を破るとボスがいた。デュランの攻撃を悪魔の懐刀(デモンズ・ナイフ)で受け止め、一瞬で切り伏せてしまう。飛び散った血はそのフロアにこびりついており、デュランの身につける鎧は打ち砕かれ、頑強なはずの肉体は一部が欠損して血に覆われている。

「これは珍しい……竜騎兵に会えるとはな」

 デュランが倒れて動かなくなる。ボスが乱入してきた3人を眺めて静かに言う。シュザリアはフロアを見渡し、隅の方で倒れているアークを見つけた。

「シュザリア様、この男は危険です。わたしが食い止めますので、その間にディファルトを」

 フレイドが滑空してボスへ向かう。エグレットが飛び降り、突撃槍を突き出した。悪魔の懐刀で側面を押しのけるようにして受け流されるが、すれ違うとボスの足下と頭上に魔法陣が展開されていた。

雷景(サイト)

 発動されると、激しい雷が上下の魔法陣の間を暴れ狂う。さらに魔法陣は少しずつ近づいていき、距離が狭まるほどに轟音と雷光が強く激しくなっていく。

「ストライク・スラスト」

 魔法陣が重なり合って一際強く光を発すると消滅する。それと同時にエグレットは突撃槍を繰り出す。ボスが顔を上げる。その服に焦げ目がついていた。逆手に持っていた悪魔の懐刀を振り上げて突撃槍と切り結ぶ。

「なかなか見事な腕ではないか。名は何と言う?」

「グヴォルト帝国魔導騎士団長エグレット・ティープソン」

「そうか。戦場が楽しみだ――」

 シュザリアがアークをフレイドへ乗せている。エグレットが鼻を鳴らしながら後ろへ跳ぶ。

「フレイド!」

 エグレットが呼ぶとフレイドが飛んでくる。シュザリア、アーク、クロエを乗せ、爪でデュランの体を掴んでいる。

「戦争になれば、その時にまた相手をしてやる。この場は見逃せ」

「出来るならばそうするがいい」

「そうさせてもらおう」

 フレイドの翼に手をかけてそのままエグレットが飛び立つ。悪魔の懐刀を動き回るフレイドへ向けた。核が光る。

悪魔の閃光(デモンズ・レイ)

 刀身からどす黒い光線が放たれた。フレイドが錐揉み回転をしながら急降下し、エグレットが床をぶち抜く。さらに一際大きな衝撃がバベルを揺らした。猛烈な勢いでバベルが崩壊していく。

「エグレット、何か、色々壊れてるよ!」

「分かっています。フレイド!」

 まっすぐ真下へ降下していくフレイド。エグレットに呼びかけられると大きく翼をはためかせてホバリングした。強い重力がかかってシュザリアが顔を歪ませるが、エグレットがまた壁を破りそこをフレイドが通過する。ほんの一瞬だ。外へ出るとバベルの周囲を旋回する。

「セブン……シャオも……大丈夫かな?」

「じきに決戦用波動消滅魔法陣(ビックバン)が発動されるでしょう。シュザリア様、当初の約束通りに離脱いたします」

 崩れ落ちていくバベルをシュザリアは眺めた。と、バベルの内部から何かが光るのを見る。瓦礫の隙間から漏れ出る強い光。それをエグレットに尋ねようとした時、急にフレイドが加速した。直後に大気が揺れる。強い衝撃がフレイドを襲った。瓦礫の中から眩い光の柱が立ち上った。肌に感じる、強烈な振動。魔力を持つ全てが共鳴し合っているようだった。

「あれが決戦用波動消滅魔法陣です」

 フレイドが強い衝撃に体勢を崩して飛行が安定しなくなる。それでも持ち直すが、第二波、第三波と立て続けに衝撃は押し寄せてとうとうフレイドが大地へと落ちていく。エグレットが立て直そうとするが、どうにもならない。アークとクロエを落ちないように引っ張りながらシュザリアはバベルの方を見る。

 そこには瓦礫さえもない、真っ黒な穴が地面に穿たれていた。

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