No.52 揺るぎ出す世界②
火の固有属性を持つ人間は多い。火、水、風、雷、土の五属性が基本だが、固有属性を割合で見ると偏りがあり、全体の42パーセントが火属性となっている。次いで多いのが僅差で風と水。雷、土の順に割合は減っていく。この五属性以外の者もいるが希有な例でしかない。
ドラスリアムにおいて、火は始まりと終わりを象徴する。火を起こし活用する人間。また、それに燃やされ滅びる人間。生まれついての戦士、と呼ばれるのもこれに起因し、資源こそ豊富だが過酷な環境にあるドラスリアムは長い歴史で戦争を何度も繰り返してきた。火は寒い国を救うための大切な光であり、戦争に勝利するための灯火とも考えられてきた。
決して、他属性の者を蔑むということではなく、火の固有属性を持つ者はたたえられてきた。
「あれがドラスリアムの首都アウルスイーン。そして、バベル。ドラスリアムの軍事基地だ。フォースの居城でもある」
雪の降りしきる街アウルスイーン。そのどこからも、バベルの姿は見られる。とにかく高いのだ。天にまで届いているのではないかとさえ思える。
「バベル……」
アークが小さく呟く。革命軍の拠点でもらった分厚いコートに身を包んでいても骨まで凍りつくような猛烈な寒さが襲っている。とにかく寒い場所だった。
「バベルの地下に牢がある。もし、セブンが囚われの身ならばそこにいるはずだ」
「じゃあ、まず最初にそこ行こうよ」
「いや、二手に別れよう」シャオが言うとシュザリア、アーク、クロエの3人を順に見た。「まず一方はフォースと戦う。狙うのはスピード。他のフォースが駆けつけたところでビッグバンを発動。一網打尽にする。重要なのはフォースを誘き出さないとならないってことだ。ビッグバンの発動範囲はおよそ15メートル。一部屋に集められればいい。攻撃力よりもサバイバル能力が重要だ。そして、もう一方がセブンの救出。ビッグバンで消滅させられるのは15メートル以内だろうが、余波がどこまで影響を与えるか分からない。セブンを捜索、救出後にとにかく遠くまで逃げろ」
バベルを取り囲む外壁には雪が積もっている。入り口は一箇所だけ。鉄門扉があり、その横には兵士が立って見張りをしている。
「それなら、わたしとシュザリアでセブンを捜すわ」
「え? ぼくは?」
「あなたは捜索に向かないもの。六ツ目単眼は探索用よ。それに加えてシュザリアの一雫の涙があればフォースの攻撃でも多少は防げるはず。機動力を考えても、2人の方がやりやすいわ」
そう言ってクロエがアークの頭を軽く撫でた。
「それとも、わたし達を守ってくれるナイトになれる?」
「それは……出来ないけど……」
「それなら魔導守護者と、戦闘のプロ。この2人に守ってもらった方が安全よ」
黙っていたシャオが頷いてから、懐から顔だけを出していたクウを出してアークの頭に乗せた。
「これで決まったな。スピード討伐、フォース撃破はおれとデュラン、アーク。セブン捜索はシュザリア、クロエ。バベル内部への突入後、それぞれの目的を果たせ」
「ぼくが……フォースと戦うなんて……」
不安そうに呟くアーク。クウがアークのコートの中へ入り込む。
「アーク、気をつけてね。みんなでホワイトウイングに帰ろう」
「うん」
シュザリアに声をかけられてアークは頷く。右手の中指に嵌めた剣のリングを見て拳を握る。シャオがブラックシューターを取り出し、堂々とバベルの鉄門扉へと向かっていく。その後ろに3人が続いてしんがりをデュランがつとめた。
「エネルギー充填率マックス・フルスロットル。——スーパー・ノヴァ!」
ブラックシューターが最大出力で火を吹く。シャオの足が地面へめり込み、バベルへ向かって巨大な魔力の塊が吐き出される。降り注ぐ雪を吹き飛ばし、静かな街に爆音が轟いて振動がありとあらゆるものを揺らした。
「大盗賊シャオ様のお通りだぜ」
「—―陽動してくれたお陰で追っ手がないわね」
シュザリアとクロエはバベルの地下へ続く階段を駆け下りていた。六ツ目単眼をかけて先行するクロエの後ろをシュザリアがついていく。
「うん。でも、アーク大丈夫かな……」
「大丈夫よ。彼、主席だもの」
「でも……」
「キャパシティがないだけで、アークは強い子よ。あの年で基本的な魔法陣の構成方法は知ってるし、相関関係もよく理解してる。1年生なんて、1つか2つも魔術を発動させられれば優秀なのに、アークはキャパシティがないだけでいくらでも発動させられるだけの知識を持ってる」
「そうなの?」
「ええ。早く、地下牢に行きましょ」
しばらく階段を駆け下りていくと、最下層に辿り着いた。廊下は暗く、等間隔に置かれた蝋燭が僅かに闇を照らしている。
「莫大な魔力の持ち主がここを通っていった痕跡があるわ……」
「セブンかな?」
「いえ……。これは風の固有属性。セブンとは違うわ」
「じゃあ、フォース……?」
「そうかも知れないわね。けれど会えればセブンの居場所も教えてもらえると思わない?」
「あっさり教えてくれる?」
「教えてもらえばいいのよ」
強気に言い切ってクロエが歩き出す。2人の足音が石畳の廊下に響き渡る。行き止まりには扉が一枚だけあった。目配せをしてからクロエがドアノブに手をかける。音を立てぬようにゆっくりと扉を開けると、そこが牢屋になっていた。左手側が鉄格子の牢になっている。2人の位置から見える牢には人の姿がなかった。長方形の部屋の一番奥に背を向ける人の姿があった。黒髪が蝋燭で橙色に照らされている。
「誰だ?」
鋭い声。黒髪の男が振り返る。セカンドだった。シュザリアが前へ出て一雫の涙を発動させた。これでセカンドが何かすれば自動的に防壁が張られる。
「セブンを返して」
「返してくれないなら、力ずくも考えるわよ」
シュザリア、クロエが順に言う。セカンドは鼻から息を出し、歩き始める。一番奥の牢。仕切りが邪魔で彼女達には誰がいるのか分からなかったが、セカンドは牢に向かい立つ。先ほどまでセカンドのいた場所には|魔業遠隔用無線電話装置。
「お前達はこの国に何を目的にやって来た?」
「……戦争をやめてもらうため」
セカンドの問いにシュザリアが答える。
「何故、我々がグヴォルト帝国へ戦争を仕掛けようとしているのか、分かるか?」
「知らないわ。意味なんかあるのかしら?」
「フォースが運用され始めたのは古代大戦当時だ。当時のグヴォルトには全盛期の三雄や、グヴォルト国内を荒し回りながらも侵略に対して徹底交戦をした紅牙幽玄、それに若くして一代で一つの武術を作り上げて極めた天才武術家など、個でありながら群を寄せ付けぬ強大な猛者達がいた。そこでドラスリアムも同じように一騎当千、最強の魔術師を造ろうとして生み出されたのがフォースだ」
黙って話を聞きながら、クロエはすぐにガゼルを召喚出来るように構えていた。
「強大な力に対抗するために生み出された、さらに強い力。――それこそがフォースを造り出した人間の業。グヴォルトさえなければ我々が造り出されることはなかった」
「そんなの、おかしいよ!」
シュザリアが叫んだ。
「分からぬだろうな。戦争のために造り出された存在が、平和な世にのうのうと生きることの苦悩など。想像がつくまい?」
「苦しいのは仕方ないけど、だからって大勢の人を巻き込んで不幸にするなんておかしいよ」
「相容れぬのだ、フォースと人間は。……セブン・ダッシュは現在、このバベルにはいない。奴の居場所を知りたいなら、この私を屈服させてみろ。フォース・ナンバー・ツー。名はセカンド。無限の魔術こそ、私の能力だ」




