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No.5 湖畔の村③

「祭りの為だけに転移魔法陣が敷かれるなんて凄いわね」

 まだ正式に祭りが始まっているわけでもないのに、村に続々と人がやって来ている。湖畔にテントを張ったり、宿に人がごった返したりと、観光にきた大勢の人間をクロエはシュザリア、アークと共に眺めている。村の入口付近にセブンが作り上げた魔法陣。直径20メートル程度のそこから、続々と人が出てくる。魔法陣から光が立ち上り、それが収まると人がいるのだ。一度に20人ほどの人がやって来る。転移魔法陣とされる高等難度魔法陣で、別の地点に敷かれた同じ魔法陣から物質を運ぶことが出来る。厳密にはこれもシュザリアがやらなければならない仕事の一つだったのだが、結局はセブン頼りだった。

「凄いでしょ?」

 にこにこと大勢の人で賑わう村を眺めながらアークが返す。手にはわた飴を持ち、口の周りには先ほど食べていた焼きそばの青のりがついている。すっかり祭りを満喫している様子だ。

「ねえ、アーク。何だかすっごくゴツい人たちが多いんだけど……」

 そう言ったのはシュザリアで、彼女が見ているのは祭りにそぐわない雰囲気をかもし出す、筋骨隆々で体中に古傷をたくさんつけている屈強な男たち。彼らも何やら楽しげな顔はしているが、それも怖い。小さい子など泣き出している始末だ。

「ああ、うん。メインイベントの一つでね、セブンが作ったメインステージあったでしょう? そこで武道大会やるんだよ。優勝賞金はなんと100万ルル! 準優勝は20万ルルだったかな。賞金目当ての人と、その観戦目当ての人も来るから、賑わうんだよ。そうそう、それに賭博も認められてて――」

「博打?」クロエが急にマジメな顔をしてアークに確認する。「それは誰が勝つか予想する方式?」

「え? うん……」

「ふーん、燃えるわね、それ。シュザリア、アーク、有り金全部出しなさい? 数十倍にしてあげるから」

 キランとクロエの目が光る。シュザリアはアークと不安そうに目を合わせ、それからおずおずとポケットマネーを全部出した。その総額は2万と、とんで40ルル。そこにクロエがポケットマネーを出して、5万40ルルにした。それからクロエがメインステージの方へ行ってしまう。

「そういえばクロエって賭け事好きだったね……」

「うん。でも、毎年、出場者の実力は均衡してるから、2倍くらいにしかならないんだけどなあ……」


「第一回戦は5人でのバトルロイヤルになります。相手を気絶させるか、場外に出させるか、降参させて、最後に残っていた1人だけが次へと進めます。それでは、第一回戦、第一試合、開始っ!」

 司会進行の男性が魔業拡声器を用いて言うと、メインステージの周囲に集まっていた観客や、選手たちから大歓声が上がった。ステージ上には頑強そうな逞しい体つきの男性が4人と、――面倒臭そうな顔をしているセブン。クロエに出るように言われ、暇だったからという理由でセブンは出場したのだ。ちなみにセブンに賭けているのはクロエだけで、優勝すればなんと76倍もの配当を貰える。

「まずはお前からだ、もやし小僧!」

 顎鬚にスキンヘッドをした、上半身半裸の男性がセブンへ向かってきた。欠伸をして、セブンはその男を見据える。それから、無造作に片手で男を薙ぎ払った。簡単に男がステージからはじき出されて、詰め掛けていた観客にぶつかる。

「金は腐るほどあるんだが、まあ、いいだろう。準備運動程度にはなってくれよ?」

 会場全体が静まり返ったところで、セブンが言った。残っていた3人の選手らは細いセブンを完全に侮っていたのもあって、ショックが大きい。そして観客も、完璧に見えてしまったセブンと「その他」の力量差に驚愕した。セブンがそんなことを気にせず、駆け出して服からタトゥーを覗かせている男を蹴り飛ばし、その近くにいたもう一人に掌底を叩き込む。残った一人に目をやると、彼は自らステージを飛び降りて逃げていった。

「し、試合終了――ッ! 強い、圧倒的に強い! えー、この少年はセブン・ダッシュ! なんと王立魔術学院ホワイトウイングの3年生主席にして、年間10もの魔術理論の論文を発表し、学会にもその名が精通しているというとんでも実力者だ――ッ!」

「何じゃそりゃあ!」「魔術師のくせに腕っ節も強いのかよ!?」「大損じゃねえか!」「賭けた奴いるのかよ!?」「いた、いたぞ!?」「マジでかっ!?」「準優勝だけでもいいから頼むぞーっ!」

 歓声や野次が飛び交う中をセブンは肩を竦めながら通り過ぎていった。色々な声をかけられながら一先ずメインステージを後にして、湖畔へと向かう。森の中の小道を歩きながら、これからメインステージへ向かう人とすれ違っていく。盛り上がっているところは盛り上がっているが、静かなところは静かだ。喧騒を離れ、静寂の中を行くと湖の近くに出た。

「お疲れさまっ! 楽勝だったね!」

 湖のほとりに3人がいた。アークが飛びついてきて、それに返してから引き剥がす。

「これで380万ルルはいただきね。ありがとう、セブン」

「どういたしまして。……そんなに金稼いでどうするんだよ?」

「さあ。お金を稼ぐのが好きなのよ、わたしは」

 そう言うクロエに苦笑し、セブンはシュザリアの隣に腰を下ろした。

「魔術なしでよく戦えるね」

「まあな。だけどルールなし、ともされているんだ。魔術を使ったって、武器を持ち出したっていいんだ。そうだろ? アーク」

「あ、うん。ルールは気絶させるか、場外にするか、降参させるかだから」

「所詮は祭りのイベント。レベルは低いし、出ているおれが気の毒に思っちまうよ」

 立ち上がって、セブンが近くに落ちていた石を拾った。それを湖へ投げると、3回ほど跳ねて沈んだ。それを見たアークが真似したが、1度として跳ねずに虚しく水面に落ちていった。

「ねえ、セブン」シュザリアが言い、傍らでアークに石選びを教授するセブンを見上げた。「優勝したら、その賞金はどうするの?」

「ん? 賞金の使い道か……。考えてないな。けど、金は腐るほどあるし、まあ経済の流れを止めることになるんじゃないか?」

「うわ、超金持ち宣言……。ダメだよ、ぱっと使わなきゃ! あたし、欲しいものあるんだけど」

「浪費癖もどうにかした方がいいぞ。少なくとも、今後の為に。で、何が欲しい?」

「ホウオウ石ってあるじゃない? あれのブローチがね、さっき売られてたの。90万ルル♪」

「それはあれか。優勝賞金の9割寄越せってか?」

 渋い顔をし、セブンが平たい石をアークに渡して、投げ方を教える。アークが横投げで石を湖へ放ると、2回跳ねてから沈んだ。それに目を輝かせて、アークは熱心に石探しを一人で始める。

「ダメ?」

 再び隣に腰を下ろしたセブンに頭を寄せ、シュザリアが尋ねる。それをじとりとした目で見つめてから、呆れ気味にため息をついてデコピンをして引き剥がす。

「使い道もないし、いいよ。買ってやる」

「本当っ!? 流石セブンー。ありがと、大好きっ」

「あら、セブン。もう第一回戦終わったみたいよ。早く行かないと失格になっちゃう」

 クロエがムードも何もかもを無視して口を挟んだ。

「失格になったら賞金ってないよね」

「そうだな」

「セブン、早く行ってっ! 走って、早く! 応援行くから! 100メートル3秒で走るくらいで!」

 急かされながらセブンが追い立てられる。苦笑いしながら、セブンはメインステージへと戻っていった。背中に聞こえるのは、アークが湖へ投げる石の音だけだった。

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