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No.49 七番目の力

 フォースは元々が人間である者と、完璧なゼロの状態から生命を生み出された者とに分かれる。前者はナンバー・ワンとツー、ファイブ、シックス。後者はスリー、フォー、オリジナル・セブン、セブン・ダッシュだ。人間であった身でフォースになるのは非常に危険で、100人以上がフォースにされかけ、成功したのは僅かに4人だけである。

 シロは成功した内の一人であるが、彼だけはフォースにされたのではなく自ら志願してフォースになった。フォースが必要とされていた古代大戦当時、最強クラスの武人だったのがシロだ。鍛え上げた肉体と、錬磨された強力な魔力で古代大戦の戦場を次々と荒し回った傭兵。フォースのナンバー・ワンからスリーと対峙して生き残り、グヴォルト帝国で後に三雄と謳われる英雄とも相見えた。至高を目指し、飽くなき修練を積み重ねていた時にフォースという存在と、それに成り損なった人間の話を聞いて志願した。全ては、至高の強さを手に入れるため。


「気を保て」

 一方的にセブンはなぶられ続けていた。セブンの右手の甲を貫いたナイフは床に深く突き刺さっている。僅かでも動けなくなればシロの体術に太刀打ち出来るはずがなかった。グヴォルト帝国を中心に世界中へ広がっている魔闘術。その開祖こそがシロだ。フォースとなり、魔力を失っても魔闘術に衰えはなかった。元々、魔力を用いた格闘術として編み出されたが、その強力な技の数々は魔力なしでも威力を発揮する。ましてシロは誰よりも卓越した使い手であり磨き抜かれた技は単純な力や魔力を凌駕する。

「勝機を窺え」

 容赦ない突きがセブンの腹部へ打ち込まれる。ぎらりとセブンの目が光ってシロを見据えたが、左手を動かすのと同時にシロの足が踏みつぶして指を砕き折ってそのまま顎を蹴り上げた。

「おれは少しも魔力なんか使っていないぞ」

 その場に倒れるセブンを見下ろしてシロが言い放つ。汗の一滴も流さず、呼吸一つ乱していない。冷淡な声はセブンを突き放し、寄せ付けぬ境地だと伝える。

「……ボス、おれは弱いもの虐めをするのは嫌いだ。そろそろ止めていいか?」

 踵を返してシロがボスを向いた。他のフォースはスピードを除いて、全員が壁際で待機していた。

「セブン、これ以上は何もすることがないのか?」

 静かにボスが言う。セブンは歯を食いしばり、荒い呼吸を口の中へ押し込めるようにしながら立ち上がる。

「……これ以上やっても、結果は変わらない」

「うるせえ……。黙れ、お喋りなんか性に合わねえよ」

 大きく深呼吸をしながらセブンはシロを見据える。

「お前じゃ俺に勝てないさ。フォースに対抗する力、って言えば単純に考えれば魔力に対する魔力で上回るってことだろう。だが、俺は一切の魔力を用いない。それどころか、どんな魔術であろうとも魔力が込められれば無効化する。お前の大聖光(ジャックポット)は俺の能力のマイナーチェンジだ」

「フォース全員を相手に出来るのが俺なんだ。当然、お前への対策も入ってる……」

 痛めつけられた全身の傷から血が流れる。痛みで意識が飛びそうだった。

「どうするんだよ?」

 ゆっくりとセブンが手を上げた。そこに剣が現れる。シロは呆れたように肩を落とした。

「魔術具なんか通用しない。まだ分かんないのか?」

「やってみてからのお楽しみだ――」

 言ってセブンが駆け出した。左手の指は踏み砕かれたため、右手だけで剣を握る。シロはナイフを構えた。

いにしえの炎エンシェント・フレイム――」

 セブンの剣に半透明の炎がまとわれる。ふわりとゆれる綿のような炎だが、これは超高温だ。

「魔力なんて効かねーんだよ」

 苛立ち気味にシロが言ってセブンの剣をナイフで受け流した。と、同時にセブンの握っていた剣が消え去る。半歩セブンがシロへ間合いを詰め、その腹部へ掌底を叩き込む。シロが後ろへ飛びながら威力を軽減させるが、セブンの掌底が触れた箇所に熱を感じた。スピードがやられた、特異な魔法陣を思い出すと同時にシロの全身へ魔法陣の紋様が浮かび上がる。

「カラクリは解けたが――!」

 舌打ちをしてシロがセブンへ体当たりをする。

「いや……解けてない。――衝撃の絶頂ショック・エクスタシー

 発生する業火で道連れにしようとしたシロだったが、炎は発生しなかった。代わりに魔法陣の紋様が緑色に輝いてシロの体から激しい衝撃が発せられた。ぐしゃりとシロの体が潰れてその場に倒れる。

「なるほど……。お前の能力を2つは理解した」

 満身創痍のセブンにボスが言う。

「1つは大聖光。もう1つはスピードとシロを下した、その特殊な魔術だ。魔法陣は通常、命令式である紋様を囲むことで自在に制御する。が、この方円がないということは制御を捨てていることだ。代わりに対象の体へ直接展開することで、威力に制限を持たせない強力な魔術として発動させる。これが2つ目だ」

「……違うな。俺の2つ目の能力は魔法陣の構成だ……。フォースの持つ、どんな能力だろうともそれは魔術による効力をもって発動されている。フォースの能力となる魔術そのものを上回る魔法陣を構成し、展開する能力。この構成能力がフォース・ナンバー・セブンの最大の能力だ」

 通常、魔法陣の構成は緻密な計算を積み重ねて作られる。魔法陣の展開はあらかじめ自らで考えるか、覚えたかしたものを展開するはずのものであり、即興で魔法陣を構成して展開、完璧にその効力を発揮することは一切の知的活動をしたことのない乳児があらゆる数式を解いてしまうのと同じようなものだ。

「構成能力……なるほどな。発想一つだけで容易く魔法陣を完成させるというのか」

「……で、次はどうするんだ?」

 大聖光を発動してセブンが傷を治していく。それとともに疲労を全身に感じて、体が重くなっていく。

「いいだろう。……私が相手をする」

 口角を持ち上げながらボスが言った。

「まだ何か隠し持っているかも知れないぞ」

 セカンドが言ってボスの前に立ったが、その横をボスは通り過ぎていく。

「全て暴く必要はない。むしろ、不公平ではないか。セブンは我々、アンダー・スリーの能力を知るまい」

「アンダー・スリー?」

「ナンバー・ワンからスリーまでの古代大戦で運用された我々のことだ。スピード以降のフォースとは出力が違う。飽くなき科学者どもの欲望が余すところなく詰め込まれている」

「ご丁寧にどうも……」

 大聖光をやめ、セブンは呼吸を整える。スピード、シロ、ダウンの能力はいずれも知っているが、確かにサードやセカンド、それにボスの能力を確認したことはなかった。しかし、先ほどの戦闘でセカンドとサードの戦闘に対する傾向は見えている。セカンドは魔術に特化し、サードは近接戦闘に特化している。そして、ボスの能力についても推測はあった。魔導対戦用人型兵器――つまり、最強の魔術師を目指して造られた存在。その最初期ならば、シンプルでありながら魔術師の強みを活かせる能力が選ばれているはずだ。――セブンの予想は、魔力。莫大な魔力というのは、ただそれだけで害をなす。フォースそれぞれのキャパシティがどの程度かは知らないが、もしも魔力だけに全てを注いだとすれば、他のフォースを寄せ付けないほどの魔力を持つはずだ。

「……さっさとやろうぜ。こんなところに長居したくない」

「いざ、尋常に――」

 ボスの姿が消え、セブンは激しい衝撃を頭に受けた。世界がぐらりと揺らいで床へ倒れ込む。脳の回転が状況に追いつかない。天井を向いて倒れていると、魔法陣がそこに展開されるのを見た。

(甘かった――。我の強いはずのフォースが従っているのなら、それだけの戦闘能力を有している。始まりのフォースこそ、最強のフォース――)

 雷がセブンに向かって落ちる。視界が激烈に発光する白色に飲み込まれた。

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