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No.45 大盗賊と魔導守護者③

「契約ってのが、魔導守護者には一番大事なのか!?」

 弾き飛ばされた双刀に代わり、シャオは懐から魔業銃を引き抜いた。グリップも銃身も全てが漆黒に塗装されていて、通常の拳銃よりも二回り以上大きかった。後ろへ跳びながらトリガーを引くと魔力の弾丸が撃ち出される。大剣の幅広い刀身で弾丸を受け止めたデュランだったが、受けた瞬間に強い衝撃が発散されて体勢を大きく崩された。

「くっ……!」

「もう一丁!」

 体勢を立て直したデュランに二発目を撃ち込む。至近距離まで引きつけてから、デュランが大剣で弾丸を叩き斬る。しかし、今度は触れた瞬間に大爆発を起こした。

「ほらほら、こっちは死にかけの盗賊だぜ。魔導守護者様が、手こずっていいのか!?」

 巻き上がった土煙に向かってシャオが怒鳴りつけると、その中から三日月のような斬撃が繰り出される。

「それでいンだよ。——クウ、焔鬼(えんき)だ!」

 離れていたクウが大きく口を開けると、そこから何かが吐き出された。シャオが左手でそれを掴む。真っ赤なトンファーだった。黒い炎の模様があしらわれている。迫ってきた斬撃を左手に装備した焔鬼で受け止めると、そのまま押し切るようにして逸らした。

「それが盗賊の本領か?」

 デュランが大剣を肩に乗せ、シャオを見つめていた。まっすぐ相対しながらシャオがにやりと笑みを浮かべる。

「力の一端を担うのは武器だ。強い武器を力ずくで奪ってたら、いつの間にか盗賊になってただけのことだよ」

 焔鬼をくるくると回しながら背筋を伸ばし、シャオが喋る。そうか、と静かにデュランは返した。

「そして今度は力のために、わたしを奪おうと?」

「そう。契約が大事だなんて言われても、おれは諦められない。あんたは強い。正直、まだ勝てるかどうかは怪しいけど……それでも、欲しい。潔く、契約なんか破棄しちまえ!」

 飛び出しながらシャオが魔業銃を連射する。一発として当たらない。舌打ちしながらも懐へ潜り込んだ。するとデュランが足下に魔法陣を展開した。赤い輝きが強くなり、デュランが魔法陣から出るとすぐに発動される。

劫火の鎚(ヘル・スマッシュ)!」

「火は効かないんだな、これが!」

 黒い炎が足下からシャオを襲ったが、振り回した焔鬼に全て吸い寄せられた。黒い炎が纏われた焔鬼をシャオは思い切りデュランへぶつける。炎は鬼を形作り、デュランを飲み込んで火柱となる。その火柱へ銃身を向け、シャオが両足を開いて体勢を低くした。

「この魔業銃はここへ来る途中で奪ってきたんだけど、最大出力がなかなか凄いんだ。初めて撃つから、気をつけろよ」

 漆黒の魔業銃・ブラックシューター。魔弾の種類は実に数十種。核とは別に大気中の魔力を吸収することで従来の数十倍にもなる威力を引き出すことが出来る。

「エネルギー充填率マックス・フルスロットル。——食らえ、スーパーノヴァ!」

 反動でシャオの足が石畳にめり込んだ。狙いが逸れて地面へ射出される。だが、その威力と範囲は想像を絶していた。一面が全て眩い光によって遮られ、轟音が街中に響き渡ったのだ。

 気付くとシャオはその場に倒れ込んでいた。両腕が痺れ、軸足にしていた左足の膝関節が動かすと痛んだ。屋敷の屋根が一部分吹き飛んでいた。大きく抉れた地面には土煙が舞い上がっている。その向こうに人影が見えた。

「おいおい……あれを食らって、立っていられるもんか……?」

 土煙が晴れると、そこに居たのはセブンだった。その後ろには膝をついているデュラン。

「何をしているかと思えば、朝っぱらから迷惑だ」

 どこか呆れたような口調でセブンが言うと、拍子抜けた顔をしながらシャオは舌打ちをした。

「ちっ……済まないけど退いてくれないか? おれは魔導守護者のおっさんを倒さなきゃなんないんだ。それとも、何か? あんたもおれと敵対するか? フォース相手なら、丁度いい力試しになる」

「調子に乗るな」

 デュランがゆっくりと立ち上がった。セブンの前に出て来ると、少し崩れた屋敷を見てからシャオを見つめる。

「そう来なくっちゃ。もう少しだけ……おれの体も動ける」

 にやりと笑みをこぼしてシャオも立ち上がる。全身のあちこちが痛んだ。昨日の傷も開いたようで体に纏った布の下が血でぐしゃぐしゃになっているのを感じた。左足がぎこちない。右腕にも違和感があった。

「何を狙っているかは知らぬが、魔導守護者は護ることに本分がある。力などは副産物に過ぎない。主を護り、契約を護り、それが自己を護ることに繋がるのだ」

「だから……さっさと主を鞍替えしろっての……!」

 ブラックシューターを連射しながらシャオが走り出す。それを全て大剣で防ぎながらデュランが狙いを定めて魔術を放つ。大きな上方配置魔法陣から夥しい数の雷が閃いてシャオを狙い撃つ。大きく迂回するようにしてシャオはそこへ辿り着いた。激戦で歪んだ鉄門扉の近くに刺さっていたのは最初に弾き飛ばされた双刀だ。焔鬼を放り出してブラックシューターを懐へしまう。双刀を地面から抜くと、まっすぐデュランへ向かって走る。

「これが正真正銘、最後だ!」

「……お前の意思を砕く」

 両手で大剣を握り、大上段へデュランは振りかぶった。両者が激突する。

 風が生まれ、街を、空を、大地を駆け抜けた。その風を追って凄まじい衝撃が駆け巡る。窓硝子を割り、大気を強く震えさせ、土は表面をなぜられて土埃を伴った辻風を生む。

「な、ななな、何事だ!?」

 屋敷から数人の付き人を伴ってファルガが出てきた。しかし、巻き上がっている土埃に咳き込む。

「げほっ……くそ、くそ! ここは、わたしの屋敷だぞ!? おい、デュラン! 何をやっているんだ!? これを何とかしろ!」

 喚き散らすファルガの首を、土埃から飛び出した太い腕が掴んだ。砕けた青銅の鎧の残骸。額から垂れた血は顎まで伝っている。乱れた銀色の髪が目にかかる。

「デュラン……何をしている? わたしは、お前の、主だぞ!?」

 自らの首を掴んだデュランに向かってファルガが唾を吐きながら訴える。しかし、デュランは微動だにせず、ファルガを鋭い目線で見つめていた。

「貴様は確かにわたしの主だった。だが、契約が破棄された」

「破、棄……? どういうことだ、許可していないぞ」

 狼狽しながらファルガがデュランの手首を掴むが、どれだけ力を込めても全く動かなかった。恐怖が胃へ流れ込む。脂汗が浮かんでくる。

「契約を交わしたのは27年前のこと。契約に必要なものは主から受け取る装備品と、互いの血で署名をした書状。それを貴様はどこへ保管していた? 肌身離さず持っていろ、とわたしは最初にきちんと伝えたはずだ」

「だ、だから……誰にも取られぬように宝物庫へ——」

 ファルガの目の前に黒い炭となった紙片が空から降ってきた。

「偶然、その契約書とやらを宝と一緒に盗んじゃったんだよね。契約にうるさい魔導守護者の契約書を、ぽーんと置いておくから悪いんだよ」

 シャオが瓦礫に腰掛けていた。

「わたしへの恩義は感じないのか!? 誰よりも偉い、領主なんだぞ!」

 顔色を青くしながらファルガが言うとデュランは首を掴んだ右腕を上へと持ち上げた。ファルガの足が地を離れる。

「わたしがこの街へ来た頃、人々は皆が明るい顔をしていた。心身に傷を負い、弱っていたわたしを翳りのない笑顔で迎え入れてくれたのだ。そして、彼らの生活を護りたいと強く思った。貴様のことをよく知らなかったのが、唯一にして最大の失敗だった」

「かっ……あ、ゆ……許しっ……!」

「この街から領主は消えろ」

 高く空へファルガを投げ飛ばし、デュランが大剣を振りかぶった。白刃が地面を割った。無傷のままファルガが落ちる。泡を吹いて気を失っていた。

「さて、失業した魔導守護者さん」

 肩に乗せたクウを撫でながらシャオが口を開いた。大剣を消したデュランが少年を振り返る。

「おれと契約してくれない? 金もなければ、明日生きていられる保証もないんだけど。契約の品としてこれをあげるよ」

 言いながらシャオが投げて寄越したのはブレスレットだった。何の変哲もない。黙ってデュランはそれを左手首にはめた。

「言っておくが、対等な関係の契約とさせてもらう」

「いいね。……その方が気楽だよ。じゃあ、一段落ついたことで——」

 喋っている途中でシャオはふらりと倒れた。デュランが歩み寄ると、緩い表情をしたまま眠っていた。

「世話のかかりそうな主だ」

「おれの宿泊している宿へ来てくれ。朝から、そいつがいなくて騒いでるツレがいて困ってるんだ」

 シャオを肩に担いだデュランにセブンが声をかけた。日はすでに高く昇っていた。

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