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No.31 フォース襲来

「陛下、お話の続きをしてもよろしいでしょうか?」

「そうしてくれ、セブン」

 親子の会話が一段落ついたところでセブンが切り出した。こうなるとアークの緊張も大分解けて、メイジと目配せをしたりしている。

「ドラスリアムへ行くのは、おれとアーク、クロエ。それにシュザリア。そこで向こうの国のトップに無理やりにでも会って戦争回避の道を探る」

「危険ではありませんか?」

 メイジが問うが、セブンは首を左右に振った。

「いえ。これでもわたしは魔導騎士の一員。そして、アークもクロエもフォースであるダウンを何日も追跡したこともあります。それに、ドラスリアムの戦力はフォース。そのフォースの中でも最高傑作であるわたしがどうして向こうに劣らなければならないのです?」

「しかし、敵国へ乗り込むなど危険な行為ではないでしょうか? それと、そのフォースというものは何なのでしょう?」

 質問をぶつけられ、セブンはアークにも説明をしていないのを思い出した。限られた一部の人間しか知らないことだ。周囲を見渡し、フォースという存在を知らぬ者が多いことを確認する。

「では、説明を。フォースとは魔導対戦用人型兵器――要するに、人工的に作られた戦争の為だけの存在です。全員が何かしらの特別な能力を持ち、それを差し引いたとしても圧倒的な力を有しています。全部で8人のフォースが作られていて、それぞれに製造された順番に番号がふられています。1から7まで。それぞれがフォース・ナンバー・ワンからセブンまで。そして、おれはその七番目を、さらに改良したフォースの中の最高傑作。故に『 7’ (セブン・ダッシュ)』。ドラスリアムが軍事利用の為にフォースを製造していました」

「だが、そいつ(セブン)以降、フォースは作られていない」ダウンが途中で口を挟んだ。「まして、ドラスリアムは内紛によってこれまでの制度が崩壊した。向こうに行くのは勝手だが、甘く見ていればお前だろうが死ぬぞ。いや、死ね」

「お前じゃあ無理だろうが、おれなら可能だ。そっちこそ、おれを甘く見るな」

「やるのか?」

「上等――」

「セブン、ダウン。ぼくはそういうのが大嫌いです」

 喧嘩腰になっていた2人を止めたのはメイジだった。舌打ちをして鼻を鳴らすダウンと、バツが悪そうに小さく頷くセブン。

「とにかく、フォースというのはバケモノみたいな強さを誇る魔術師のことです。今は、簡潔にこの程度でご容赦下さい」

 言い、セブンがウインザードを向いた。

「ご苦労。――そういう訳だ、ディファルトくん、それにリュグルスハルト嬢。他に何か質問があればセブンが受け付ける」

「一つ、いいでしょうか?」

 クロエがいつものまったりした様子で言う。

「どうして、わたし達なのか……まだ、聞いていないと思ったのだけれど。ここには大勢の優秀な魔術師がいるはず。なのに、どうして学生の身であるわたし達を?」

「人手不足なんだ。確かに多くの魔術師がいる。だけど、そのほとんどの魔術師は軍に属している上、戦争になった時は大切な戦力になる。そこで手が空いていて、少なからずドラスリアムの地理を知っていて、実力も兼ね備えた人材が必要になった。おれが選ばれて、そうなると今度は誰を連れていくのか。おれに一任されたから、連携も出来るお前らを選んだ。これでいいか?」

 クロエの問いに答え、セブンが悪いな、と付け足した。

「他には?」

「いいえ、大丈夫よ」

 アークも質問はなく、セブンがまとめに入る。

「出立は明朝。今日はゆっくりくつろいで、英気を養ってくれ。何か必要な装備等があれば、おれに言ってくれ。用意させる。では、陛下」

「うむ。2人とも、期待をしている。頑張ってくれ」

 ウインザードが告げ、恭しく頭を下げた。不意に、周囲が暗闇に飲まれる。突然の出来事。

「――おひさー、七番と根暗っち!」

 明るい声が響き、直後に硝子が破られる派手な音がした。すぐに暗闇が消え去ると、セブンとダウンがいつの間にかそこにいた2人と組み合っていた。サードとスピードだ。セブンが剣を振り下ろしていて、サードはそれを二本の指で受け止めて押さえ込んでいる。ダウンは手の平に展開している魔法陣をスピードの眼前に突きつけているが、スピードもまた同じようにダウンの腹部に展開した魔法陣を定着させた手の平を向けていた。

「捕らえろ!」

 それが誰の声か。ウインザードの近衛兵がやってきたが、床を何かが激しく蠢いた。絨毯の下で何かが動き出し、それが近衛兵たちを足下から吹き飛ばしたのだ。

「止めといた方がいーよ」

 スピードが言い、ダウンを不敵な笑顔で見やったまま口を開いた。

「我々はフォースだ。力なき者が歯向かうのならば殺す」

 セブンの剣を受け止めたままサードも言う。構えを解くとセブンも剣を下ろして互いに後退して間をとった。

「今日はただのご挨拶だよ。ほら、根暗くんも止めようよ? こんなとこでやりあったら、そこら中、ぶっ飛ばしちゃうよ?」

「おれは構わない」

「ダウン、止めてください」

 メイジに言われてダウンが舌打ちをした。しかし、次の瞬間にスピードを蹴り飛ばして魔法陣を発動する。雷の蛇がスピードを拘束しようとしたが、蛇が追いつく前にスピードの姿が消えてメイジの背後に回っていた。

「ほらほら、根暗っち。ご主人様に逆らっちゃダメじゃないの。それとも、――殺しちゃおうか?」

 見た目はさほど年の差がないのにスピードが据わった目をしながらメイジの首筋を細い指でなぞった。

「なんてねっ、冗談だってば。ぼくがそんなことをする人間に見えるのー? 心外だなー」

「何をしに来たのかね?」

 落ち着き払った様子でウインザードが言った。玉座に腰掛けたまま、動じているような素振りは見せない。

「ちぇ、面白くないなあ。もっと取り乱してくれれば良かったのに。ま、いっか。まずは自己紹介でもするよ。ぼくはフォース・ナンバー・フォー。性質と、呼称は速度スピード。そっちがフォース・ナンバー・スリーのサード。契血印、届いたと思うんだ。あれ、本気だよ。ドラスリアムは革命が起こったんだ。ぼくらフォースが全てを支配する。それでね、手始めにまずはグヴォルト帝国を貰おうと思うんだ。どうする? 今の内に無条件降伏でもしておく? それなら、戦争で死ぬのはお偉方だけで済むよ」

「断る」

「あれ、即答? じゃあ、あれだね。無闇に戦死者を出すってことなんだ。ぼくらは構わないんだけど、戦争で民は苦しむと思うよ? 本当にいいの?」

「無論だ。スピード、と言ったね。きみ達をまとめる者がいるのだろう?」

「いるよ。ボスがね」

「では、そのボスに伝えてくれないか? 我々は勝利だけを信じて徹底的に交戦する」

 ひゅっとスピードが短く口笛を鳴らした。感心したように目を丸くしてから、にこりと笑顔を作る。

「何だ、あっさりしてるんだね。兵士がどれだけ死んだって構わないんだ?」

「死なせやしないさ。我々が傷つくよりも早く、そちらにいるフォースを全員再起不能にする。――小僧、おれの国を舐めるんじゃねえぞ」

 ウインザードが凄んで見せるとぴりっと肌に何かが走った。好奇の眼差しをしながらスピードが満面の笑みを浮かべる。

「あははっ、いいね。思わず好きになっちゃうそうだよ、おじさんのこと。じゃあ、ぼくらは退散するよ。あ、お土産用意しておいたから、後で見てね。サード、行こっ」

 スピードがぽんとメイジの肩を叩き、それから膝を曲げた。そして、跳び上がると破られていたステンドグラスから外へ出て行く。サードはセブンを見やり、それからスピードと同じようにして去っていった。

「メイジ、怪我はないか?」

「はい、父上……。しかし、本当に戦争を?」

「当然だ。これは守るための戦いだ。我が民を守れずに、玉座にいることなどは出来まい。大臣、すぐに最高会議を開く。手配しろ」

 ウインザードが立ち上がって玉座の間を出て行った。あれがこの国の帝王。大きい存在だ。小さな拳を握りしめてから、険しい表情をいているセブンに目をやった。これから、どうなってしまうのだろう――。

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