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No.30 帝都フォングレイド

「グヴォルト帝国帝都フォングレイド。別名、――魔術師の聖地」

 帝都フォングレイドの巨大な門をくぐり、一人の青年が周囲を見ながら呟いた。旅人風の格好をした青年だ。頭からすっぽりとフードを被っていて、目から下を隠しているようにも見える。腰には片刃の剣を佩き、纏っているマントの下は要所を鉄で覆うだけの軽装だ。

「魔術師の聖地、ねえ……?」

 青年と共に来たのは声変わりも終えていないような少年だ。美少年、という形容が相応しいほどの顔立ち。しかし、その瞳は細められていて、周囲を行き交う活気のある人々を疑わしそうに追っている。フードをしておらず、ステッキを突いている姿は堂々としている。

「何がそんなに引っ掛かる」

「だってさ、サード。グヴォルト帝国だよ? フォースもいないし、魔術だって時代遅れじゃないの?」

 サードと呼ばれた青年が少年の傍らにしゃがみ、小さな声で耳打ちをする。

「何を言ってる。ここには最高傑作セブン・ダッシュがいる。そして、この国を築いた三雄の力は侮れない。ああ、それと――役立たずの六番ダウンもこっちに来たきり。フォース相当の戦力を、この国だって持っている」

「でも、魔術師の聖地だなんてちょっと傲慢過ぎない?」

「何故だ、スピード」

「魔術を極めたのは、フォース(ぼくら)だ。だから、その聖地はドラスリアム。まあ、魔術師としての最高位を言うなら……きっとボスなんだろうけどね。行こうよ、サード。のんびりしてるのは性に合わないしさ。さっさと、済ませよう」

 スピードと呼ばれた少年が言い、ステッキを突きながら大通りを歩き出した。その後をサードがついていく。共に魔導対戦用人型兵器フォース。開戦の宣言に揺れ動くグヴォルト帝国の王城へ向かって、その歩みは着々と近づき始めていた。


「来ちゃった……。お城」

「あら、アークは初めて?」

「当たり前じゃん。ぼく、田舎者だもん。あ、クロエって貴族なんだっけ?」

 やたらと広い王城の一室。そこにアークとクロエが案内されていた。荷物をキングサイズのベッドへ降ろして、アークはいまいち価値の分からない、飾り物の芸術品の数々をぼんやりと眺める。特例でセブンが敷いた空間移動魔法陣によって帝都フォングレイドに到着したのが五分前。シュザリアがやって来た、ということで城内が急に慌しくなり、それが落ち着くまでは、ということで客室に通されたのだ。セブンはいつの間にやら消えていたし、シュザリアは侍女たちに連れて行かれてしまった。

「一応はそういう立場だけど……そんなに大層なものじゃないわよ」

「でもさ。そうやって考えると、うちの班って凄い人ばっかりだね……。シュザリアはお姫様だし、セブンは魔導騎士だし、クロエは貴族だし……。ぼくは何もないけど……」

 ふかふかのベッドに転がりながらアークが呟く。

「魔術師に立場は関係ないのよ」

「でもさあ……何か、ほら……」

「気にするだけ損するわよ。生まれや、富貴は誰かが決める訳でもないんだから」

 そうクロエが諭すと、部屋の立派な扉が開いてセブンが入ってきた。

「待たせたな。今、陛下に報告を終えてきた。今後のことについて、協力をして欲しい。玉座の間へ来てくれ」

 入ってきたセブンに言われてアークとクロエが目を合わせた。まさかの「協力」を要請されるだなんて。セブンに呼ばれた時点で不思議な感じはしていたが、一体、何が起ころうとしているのだろうか。セブンが歩き出し、アークとクロエがその後ろに続いて部屋を出て行った。

 赤絨毯の敷かれた長い廊下を歩き、吹き抜けの広い玄関ホールの三階に相当する場所にある巨大な扉。セブンがその扉の両脇に控えている兵士に何か囁くと、兵士が重そうな扉を押し開き始めた。そして、その向こうの光景にアークが目を大きくする。

「凄い……」

 巨大な玉座の間。学院の大広間に相当しそうな広さだ。その一番奥には玉座があり、そこに座っている人物こそがグヴォルト帝国の帝王ウインザード・S・グヴォルト。セブンが堂々と歩き出し、アークは玉座の間の端に控えている大勢の魔術師と思しき人たちを意識しないようにして続いた。

「陛下、姫の学友である二名をお連れいたしました。こちらがアーク・ディファルト。1年生ですがトップの成績で主席です。そして4年生のクロエ・リュグルスハルト。リュグルスハルト子爵のご令嬢です」

 恭しく頭を下げ、セブンが丁寧な言葉遣いで言う。アークとクロエも頭を下げていた。

「うむ。顔を上げてくれ」

 気さくな口調。3人が顔を上げ、ウインザード帝王を見やる。シュザリア、そしてメイジにはあまり似ていない、というのが印象だった。紫紺のかかった黒髪に凛々しい目鼻立ち。しかし、そこから漂うのは圧倒的な、絶対的な存在感。――帝王の風格。

「さて。……セブン、それで、あれだ」

「はい、何でしょう」

「あれ、あの……そう、説明。小難しくて忘れた。改めて、お前からしてやってくれ」

 何だかアバウトだ。アークが苦笑すると、背後から足音がした。そちらに首をやるとメイジが歩いてきていた。傍らには周囲の人が眉を顰めている人物――ダウン。どうしてこのような者が次期帝王であるメイジの従者なのか。――そんなところだ。

「皆さん、お久しぶりです。先日はどうも、お世話になりました。こちらへ来ていると聞き、挨拶をと思ったのですが込み入ったお話でも?」

「メイジ、お前も話くらいは聞いておくといい。セブン、始めてくれ」

 ウインザードが言い、セブンが小さく頭を下げてアークとクロエを向いた。

「先日、開戦宣言の契血印が届けられた。これにより、ドラスリアムが攻めてくるのだということはほぼ間違いない。突然の開戦宣言で、こちらとしては何も状況確認が取れない。そこでドラスリアムへ直接向かい、何が起きているのかを極秘に調査することになった。その人員として、お前たちに着いてきて欲しい」

「敵国に行くってこと!?」

 アークが思わず大きな声を出し、近くの大臣やら何やらが咳払いをした。

「あ、すみません……」

「気になさらないで下さい、アーク。こんな些細なこと、何ていうこともないのですから」

 メイジが静かに言う。そこには咳払いをして咎めようとした大臣への皮肉も込められている。

「どうして、わたし達なのかしら? それより、わたし達の他には誰が行くの? まさか、わたしとアークだけじゃないんでしょう?」

「勿論だ。おれ、アーク、クロエ。それに――」

 後ろの扉が開き、またアークとクロエが振り返る。そして、息を呑んだ。美しいクリーム色のドレスに身を包んだシュザリアだったのだ。普段はラフな格好をしているだけに、その姿は二人の度肝を抜く。馬子にも衣装――というのは失礼だが、あまりにも美しすぎた。そうやって呆けていたのだが、シュザリアが発した言葉によって全てが現実へ引き戻される。

「もー、こんなドレス着たくない! お父さん、また勝手にドレス買いこんだんでしょ!?」

「ははは、たくさんあるんだ。どんどん着てくれ」

「税金の無駄遣いっ! こんな服よりも、美味しいもの食べたいよ!」

「何を言う。権威とは衣の上より纏うもの。お前に着こなせないものはないのだから、存分に美しい姿を父に見せてくれ」

「ぶー、この親バカ」

「ははは」

 何だかアットホームである。いつものシュザリアと何も変わらない。黙ってさえいれば、絶世の美女だというのに。何だかアークは和んでしまうのだった。

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