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No.22 魔業都市ガウセンフェルツ④

「とんでもねえ強さだ……。あれが、生身の人間だってのか……?」

 守衛室に詰め掛けた、大勢の人間。そこに設置されている、外の映像を映すテレビを見て、人々は驚愕している。セブンのあまりの強さに、だ。敷かれた魔法陣はたったの1つ。線のように細く、それはガウセンフェルツをすっぽりと覆う、同心円になっている。魔物はそこを踏み越えてしまうと、突然、怒り狂ってセブンへ襲い掛かる。数多の魔物を、たった一本の剣でもってセブンは切り伏せていく。その身を爪牙で引き裂かれても、およそ抗えぬであろう巨躯の魔物の一撃を受けても、退こうとせずに剣を振るう。

「そんなことより、早く避難をしろ!」

 守衛だけが声を張り、集まった見物人をガウセンフェルツの緊急避難場所となっている施設へ行くように促すのだが、人々は固まったまま映像を見つめる。魔業都市ガウセンフェルツは半世紀前までは、時代遅れの城塞都市でしかなかった。しかし、他所から来た一人の技術者によって魔業で町興しをしようということになり、国にその名を轟かせる、一大都市へと発展を遂げた。信じてきたのは、魔業。街はどんどん大きく、便利に、進化した。だから、全員が使える訳でもない魔術より、魔業の方が何倍も良いものとしてきた。――しかし、この状況は何であろう。

「おれ達の魔業は、何で通用しないんだっ!?」

 誰かが怒鳴った。自分の無力さを呪うかのように荒げられた声。

「どうしてあんな少年一人が、おれ達を守る!? ここは魔業の街だぞ!」

「おれァ聞いた! あのガキ、堂々と魔業が嫌いだって言ってやがった!」

「じゃあ、見下してんのかよ!?」

 荒くれ者が多いのは、いつか、屈強な戦士の集った城砦都市の名残。

 その中で、腕を組んで見守っていた若い男が、小さな声で、しかし、はっきりと言った。

「魔術と、魔業。魔術は歴史が古い。魔業はまだ半世紀。産声を上げた、赤ん坊も同然。魔業の目標が魔術を追い抜かすことであるのと同時に、魔術もまた、日進月歩で進化している。この街に住まう者として出来るのは、彼を支援して、いつか、魔術師を魔業で救い出すこと。……そう思います」

「いつの間に、こんな場所へ……?」

 若者は、ちょっとした有名人だった。少しくすんだ赤い髪。年齢は20歳ほど。中世的な顔立ちの男性で、じっと映像を見つめている。――クロウ・ヴァリフルール。若年ながらも街で一番、大きくてレベルも高い第1研究所の所長を務めている。

「我々がするべきは、ここで彼の活躍を見守ることではないはずです」

「そうだ、早く避難してくれ!」

 守衛が叫ぶが、クロウはふふ、と小さく微笑みながら口を開く。

「今すぐに、彼を援護することです。第4研究所の魔業吸引装置に溜まっている魔力を、至急、回収して下さい。それをエネルギーにして、魔物に有効な実弾をぶつけましょう。――皆さん、ここは魔業都市である前に、戦士の街。城砦都市ガウセンフェルツだったのです。誇りを、見せ付けてやりましょう」

 その言葉で、集っていた多くの人々が怒号のような返事をした。それからクロウの指示に従うべく、それぞれに駆け足で作業へと入っていく。その光景に守衛があんぐりと口を開け、呆然としてしまう。クロウが彼の肩をそっと叩いて、苦笑しながら言った。

「すみません、守衛さん」クロウが白衣を脱ぎ捨て、彼に預ける。「せめて、ゆっくりしてて下さい」


「っ!?」

 真横から猪のような魔物の突進をまともに食らい、セブンが体勢を崩した。弧を描く鋭利な牙が腹部にめり込み、呼吸が詰まる。だが、片足で地面をしっかり支え、倒れない。ごわごわした毛皮に覆われた魔物へ、剣を振るう。返り血。拭う暇など許されず、次から次へと襲い掛かってくる魔物の相手をする。

 剣が魔物に引っ掛かるような手応えがした。しかし、力を込めて無理やりに引き裂く。疲労が溜まり、力も入れられなくなってしまう。向かってきた狼の魔物を視界に留め、思い切り、その横っ面を蹴り飛ばした。そのまま体を捻り、剣を閃かせる。赤色。自分の体で感じられるのは、ただ疲労だけ。体が重くなり、動くのも億劫だ。しかし、一度でも止まってしまえば、そのまま動けなくなってしまうような直感が働く。だから、無理をして動き続ける。魔術さえ使えれば少しは楽になれるのだが、残っている魔力が少ないのが自分でも分かる。そんな状況で魔力を使ってしまえば、深魔の穴を塞ぐことが出来なくなってしまう。あと100カセルでも魔力があれば、魔術でこの状況を打開出来るかも知れない――。

「ブモォオオオオオオオオオ!」

 正面から、一際大きな個体の猪の魔物が突っ込んできた。――ヤバい。

 そうセブンが思った時、体と思考が止まってしまった。それだけで膝が地につき、急に前進が鉛のように重く感じる。手にした剣も、重くて持ち上げられない。固く目を閉じ、直後に地響きがした。

「な……!?」

 目の前に、巨大な杭のようなものが刺さっていた。それで魔物が串刺しにされていて、絶命している。続いて、セブンの周囲にいる魔物へ次々と同じようなものが撃ち込まれていく。背にしていた魔業都市ガウセンフェルツを見れば、そこから次々と魔業兵器なのだろう。物理的な力を持った巨大な杭が撃ちだれていく。思いがけない援護に、セブンは少しだけ目を見張り、それから深く息を吐き出した。

「ありがとよ――」

 魔業都市の方へ口をそっと動かし、目配せしてから立ち上がる。

 満身創痍の体。全身に傷をつけていて、多くの魔物と、自分自身の血を浴びている。着用している薄手のローブはもう、ぼろ布を纏っている過ぎない。それでも、セブンは剣を握りしめた。

「深魔の穴も、明日でいいか……」

 小さく呟き、杭の間を縫って迫ってきた3メートルを超える、大きな熊の魔物を見据えた。剣を顔の前で縦に構える。刀身から覗いた目に、熊の魔物が怯んだ。魔物の大群の上に、上方配置魔法陣が展開された。その直径は、200メートルを超える、超巨大サイズ。それが赤色に輝き始めて、セブンの持つ剣が煙のように消え去る。

いにしえの炎エンシェント・フレイム――」

 巨大上方配置魔法陣から、オーロラのような赤いさざ波が舞い降りた。そして、それが急速に動き出して一つの巨大な柱を形作ったかと思うと、細部が徐々に変化する。燃え盛る、巨大な頭。大きな目に、大きな口。咥内は燃え盛る炎。その姿は、まるで、荒々しい龍――

「――昇華・炎龍乱舞」

 炎の龍が、セブンの声に応じるように一声、高く天へ向かって吼えた。

 それから高く天へ昇ったかと思うと、真っ逆さまに地面へと降りてくる。そのまま地面へ突っ込むと、大地が轟音を響かせて震えた。魔物が次々と焼き払われ、大地があまりの炎に焦土と化していく。そして、最後に龍が全て大地へ潜ってしまってから、また姿を現す。――猛き炎の龍は、数多の魔物の死体と、焼け焦げた焦土を残して、天へと昇っていった。

「……ったく、これだから……魔業都市なんて来たくなかったんだ……」

 忌々しそうに呟くセブンだが、口元を少しだけ綻ばせたまま、地面へ前のめりに倒れる。そのまま、セブンは深い眠りへと落ちていった。

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