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No.19 魔業都市ガウセンフェルツ②

「凄い、セブン。ほら、お金入れてボタンを押すだけで飲み物出てくるよっ」

 シュザリアが楽しそうに言いながら魔業自動販売機でジュースを買った。それを自分の分と、セブンの分。2回使い、片方をセブンへ押し付ける。フレルダの説明が終わり、2人は第4研究所の休憩室なる場所で休んでいた。まだ見せたいものがあるらしいのだが、その準備があるということで待たされている。

「……」

 シュザリアから受け取ったアイスコーヒーを一口飲み、セブンはぼんやりとテレビを見やる。休憩室からは研究所内を見渡せた。魔術至上主義派と自称したセブンだったが、フレルダに連れられて説明を受けている内に魔業を認めようと考えてしまう自分に気づいたのだ。それは疲れたせいだと自分に言いながらも、やはり、魔業は便利なものかも知れないと思ってしまう。

「セブンー?」

「……」

「セブンってばっ!」

「……」

「ちょっとー、聞いてる?」

「……」

「ねーえー、セーブーンー」

 シュザリアがじっと考え込んでいるセブンの顔の前で手を振ったり、大きめの声で呼びかけたりする。しかし、反応がない。セブンはこうして、一度深く考え込んでしまうとなかなか周囲のことに気づかなく――というより、周囲のことが分からなくなってしまう。

「シュザリア、魔業をお前はどう思った?」

「ほえ? 何、いきなり?」

「いいから」

 急に口を開いたかと思えば、感想を求められ。シュザリアは首を傾げながら、アップルジュースを一口飲んだ。よく冷えていて美味しい。

「いいものなんじゃない? セブンのはさ、やっぱり偏見だよ」

「そうか……。魔業は、人の生活を便利に、豊かにする。人はそうする為に文明を生み出し、進化させている。魔術で築いた一大文明も、魔業による文明に趨向されていくのかも知れないな……」

「何て言ったの?」

「分からないなら、それでいいさ」

 何となく、寂しさがある。アイスコーヒーを飲み干し、空になった紙コップをゴミ箱へ投げ入れた。それからまた、しばらく考えていると休憩室にフレルダが入ってくる。

「お待たせしました。準備が出来ましたので、こちらへ」

「ああ。……シュザリア、行くぞ」

「うん」

 フレルダに先導されてセブンは細い通路を行く。そして、向かったのは突き当たりの部屋だった。そこへ入ると、だだっ広い空間に一つだけ魔業が置いてあった。卵の殻のようなものだ。ただし、それは骨組みだけで、パイプやら何やらが楕円形になっている。中に入れるようになっていて、高さは2メートルほど。直径は1メートル強くらいだろうか。

「中へどうぞ」

「これは何をするものなの?」

「入ってみれば、分かりますよ」

 フレルダに促され、セブンとシュザリアがその魔業の中に入った。ちゃんと入口のところだけ開閉するようになっていて、そこを通る。そして、フレルダによって扉が閉められた。

「変だな。魔業なら、核があるはずだ。こんな薄っぺらの魔業に核が入っているのか?」

 内側から魔業を観察し、セブンが言う。するとフレルダはそれに繋がっている魔業電子計算機パーソナルコンピューターを操作した。

「入ってはおりませんが、今は入っている状態です」

「どういうこと?」シュザリアが尋ねた直後、異変に気づいて胸元を押さえた。「何か……あれ? 力が抜けていくような……」

 セブンがシュザリアの体を支え、眉を顰めた。頭に浮かんできたのは、これまでに感心していたことを全て水泡へ帰すような考え。幸い、まだまだセブンは耐えられる。

「今なら、まだ手違いで許してやることも出来る。言え、フレルダ・ヴァリフルール。――おれ達から魔力を搾り取るつもりだろう?」

「おや、流石は魔導騎士ですね。数秒もしない内に気づいてしまわれるなんて。これは次世代型魔業兵器のプロトタイプなのです。核を必要とせず、数人の魔術師から搾取した魔力によって起動する魔業兵器。含有魔力が1000カセル以上の大台はなかなか見つかりませんので、それを人体から補えばよいと考え付いたのです」

 フレルダが言いながら装置をさらに弄ると、シュザリアの意識が朦朧としてきた。自分で立っていられなくなり、セブンに寄りかかったまま弱々しくうなだれる。このまま続けられると、――危ない。

「早く装置を止めて、おれ達を出せ! おれだけならともかく、シュザリアは王族だ! 国家反逆罪だぞ!」

「それが何か?」

「な――ふざけていやがるのか? そうなれば、お前は禁固なんかじゃあ済まないぞ。死刑確定だ」

「だから、それが何だと言うのです? ここにいるのは、わたくしと、あなた達だけ。もう、とっくにあなた達はこの研究所を後にしていて、ホテルへでも戻っているのでしょう。そして、その途中で行方を眩ませた」

 穏やかでないものがセブンの中で溢れてくる。卵の殻のような装置に向け、魔法陣を展開した。そして、発動しようと魔力を込める。――と、同時に魔法陣が少量の煙となって消え去ってしまった。

「その中にいる限り、魔術は使えません。……それにしても、素晴らしい。すでに620カセルも搾取したというのに、あなたは平然としているのですね。流石は魔導騎士、ですね」

「てめえ……! 早くシュザリアを解放しろ!」

「では、このような交換条件をしてみませんか?」

「交換条件なんかを持ちかける立場じゃねえだろうが!」

「それなら、仲良く、姫君と共に魔力を失ってください」

 少しも表情を崩さず、フレルダが言い放つ。奥歯を噛み締め、セブンは魔業に体当たりを始めた。だが、魔業はビクともしない。魔力が搾取されていくという環境では魔闘術も使えず、一切の抵抗が封じられている。

「クソ、クソ……! シュザリア、しっかりしろ」

「う、ん……セブン……。何か、体……ふわふわ……しない……?」

「そんな場合じゃねえだろうが……。クソ……クソ……!」

 シュザリアを腕に抱き上げ、どうにか出来ないかとセブンは思考を巡らせた。魔力を全て搾取されれば、死に瀕する。シュザリアのキャパシティはおよそ900カセル。王族特有の莫大なキャパシティだ。これでもまだ、成長途上なのだからシュザリアは頭さえ良ければ、セブンに匹敵する魔術師になれる。しかし、それでも呼吸が激しくなっていて、もう、彼女の中にはあまり魔力が残されていないのが明白になっている。ふと、ローブの中へ手を突っ込んだ。取り出したのは銀のリング。魔力を制御する為の魔封具。見つめ、それをシュザリアの右手の人差し指へ嵌めた。

「さっきの交換条件……言いやがれ」

「彼女を出しましょう。しかし、その代わり、あなたから大量の魔力を搾取いたします。勿論、死なない程度には。ただし、その後、何度でも、あなたが魔力を自然回復する度に搾取させていただきます」

「……いいだろう。おれだけが犠牲になればいいんだな?」

「ええ。では、交渉成立ですね。彼女を出しましょう」

 フレルダが何やら操作すると、卵の殻に幾つものアームが伸びてきた。それがセブンの手足を押さえつけ、その間に扉を開けてシュザリアを引きずり出す。そして、扉が閉められてからアームが戻っていった。少しも抵抗することなくセブンは一部始終を見つめ、やがて、外に出たシュザリアに目をやる。意識はないようだが、呼吸が戻っていた。

「それでは、スピードアップしましょう。あなたはどれくらい、魔力を持っているのでしょうね」

「……ああ、好きなだけ持っていきやがれ。たかが魔業如きの制御が、効くんならな」

 皮肉に言い返してから、セブンが自ら魔力を解放していく。するとフレルダがコンピューターを見ながら目を見張った。想定した以上に魔力が集まっていくのだ。

「凄い……1400……1600……1800……2000カセル……! まだ、まだまだ搾取出来る!」

「ああ、そりゃあ、まだまだだろうよ。おれのキャパシティは、2万カセルだ」

 言い切った瞬間、フレルダの顔が驚愕に染められた。常人のキャパシティは120程度。実に、その166倍近くのキャパシティがあるとセブンが言い切ったのだ。

「まだまだ、持ってけ。こんなもんで、驚いてんじゃねえぞ……!」

 さらにセブンが魔力を解放すると、コンピューターの周囲に取り付けられている機器の針が大幅に動き出した。

「あなたはきっと、2万カセル全てを出し切って、こちらのキャパシティを超えさせることが目的なのでしょう? でも、それは叶いませんよ。計算上、この魔業は5万カセルまで蓄えることが出来るのです」

「……」

 黙ったまま、セブンはずっと魔力を自ら魔業へと注いでいく。自暴自棄にでもなったのだろうかとフレルダは考え、しかし、このまま搾取することを決めた。思っていた以上に魔力が集まっている。嬉しい誤算だ。

「もう、1万3000カセルを超えましたよ。気分はいかがです?」

「ああ……最高だ。こんなに魔力を消費するなんて、ここ数年なかったからな」うっすらと額に汗をかきながら、セブンが言い返す。少しずつではあるが、息も上がっていた。「けど、もう、終わりにしてやるよ」

「終わりに? どうすると言うのです? この魔業は5万カセルまで――」

 言葉の途中で、フレルダが手を置いていたコンピューターのキーボードが爆発した。続いて、コンピューターに繋がっている、色々な機器が爆発していく。後退しながら、フレルダはどうなっているのかとこの状況を疑う。

「1万5000カセル以上の魔力を、大量に集める。そうすると、魔力にもともとあった属性は消え去り、純粋な、つまりは無属性の魔力となる。大量の、無属性の、魔力。これが何を表すのか、教えてやる。――劣化版の深魔の穴だ。そして、おれは超一流の魔導騎士。深魔の穴さえあれば、環境だって変えてやる」セブンが言い、目を瞑り、自分を閉じ込めている魔業に手を触れた。「――汝の力、我に貸し与えたまへ。我、いにしえの力を受け継ぎし、真名なき者」

 それは詠唱。高位の魔術を使用する際に一種の契約をすることで、強力な力をより扱いやすくするのだ。詠唱し終えると、セブンが目を見開いた。

創造主の御魂(ゴッド・ウィル)――」

 直後、部屋全体がぐにゃりと歪んだ。壁も床も、天井も、魔業でさえ。全てが一つになり、混ざり、溶け合い、何かの形を成していく。フレルダは目を見張ったまま尻餅をつき、収まるのを待っていた。そして、セブンが自分を閉じ込めていた魔業を床の中へ消し去り、床から巨大な握り拳を創りあげる。

「フレルダ・ヴァリフルール。お前の行為は、重罪だ。魔導騎士セブン・ダッシュの名の下に、裁きを下す」巨大な握り拳がフレルダへ向かって、振り上げられる。「あの世で永劫、懺悔しろ――」

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