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No.16 お使いの始まり

「ねー、セブン。何か最近、ずっとつまらなそうにしてない?」

「おれが教えたことを、お前がちっとも覚えてくれないからな。そりゃあ、つまらなくもなるさ」

 言いながら、セブンは黒板に次々と文字を書き連ねていく。魔術史の特別復讐講座が開講されてしまっている。無論、講師はセブン。受講者はシュザリア。いつもの光景である。

「だって覚えられないんだもん」

「だって、で済ませるな。その前に努力をしろ」

 ばっさり言い捨てて、セブンがチョークを置いた。今日は魔術史の復讐なので、図式などは描かれていない。代わりにびっしりと年号やら、出来事やらが並んでいる。

「常識問題だ。今から、およそ500年前に起きた過去最大の戦争を何と言う?」

「古代大戦」

「よし、ここを間違えないでとりあえず、胸を撫で下ろしてやる」

「……ちょっと酷くない?」

「お前はそれくらい、バカなんだよ。自覚しろ」

 言ってから、シュザリアにデコピン。なんせ、シュザリアは学院始まって以来の劣等生。進級したこと自体が奇跡なのだ。もっとも、それだってセブンの助け舟なしでは決して出来なかったのだろうが。

「じゃあ、次に古代大戦で活躍した人物、3人のことを何と言う?」

「……えっと、三雄?」

「ここら辺は常識だから、考えるなよ……」

 頭を抱えたくなるセブン。まだ答えてくれているからいいが、まだまだ常識中の常識だ。10歳の子供だって、きっと知っているような常識事項なのだ。

「その三雄はどんな活躍をした?」

「大戦を終結させて、現代の魔術の基礎を作った……だっけ?」

「当たりだ。自信を持って、ぱっと言ってくれ。次の問題、三雄の内、判明している2人の名を挙げろ」

「マクスウェル・ホワイト。……。あと、えっと……あのー……何だっけ、喉まで来てるんだけど……」

 えへ、とシュザリアが可愛らしくポーズを取ってみたが、セブンのデコピンが見舞われた。小さな音がしてシュザリアの首が後ろへガクンと落とされる。痛いよー、と呻きながらも前を見やるとセブンが大仰な仕草で肩を竦めていた。いっそ、ウザいくらいに。

「ストリュース・レヴァノスだ。10回、紙に書け」

「うー……」

「耳障りだ、唸るな」

 言いつけながらセブンは紙と羽根ペンを与える。不貞腐れたようにシュザリアが10回、紙に「ストリュース・レヴァノス」と書き綴り始める。

「でもさー、セブン。学長が三雄って、本当なの? すっごい、若いのに」

「本当かどうかは知らないけど、あの見た目にはタネがある。御伽噺にあるように、神様に仕える為に永遠の命を与えられた、なんていう理由じゃないとだけ言っておく。さて、次の問題だが――」

 セブンは手にしている「特製 これさえあれば試験なんて余裕でパスする問題集(非売品)」というものに目を落とし、問題を読み上げようとしたが途中で止めた。シュザリアが、いつになく真剣な顔をして首を傾げている。こんな顔をするのは珍しい。試験でさえ見せない顔だろう。

「どうした?」

「三雄のもう一人って、誰なのかなーって。学長と、ストリュース・レヴァノスって人と、もう一人。もう、ずっと昔の人だけど……だからこそ、何で謎のままなのかなーって。ほら、どんどん新しいことって解明されたりしてるのにさ」

「そうだな……。最後の1人に関しての情報が、多くあり過ぎるのが一因になっている。男だったのか、女だったのか。大戦当時、どこに属していたのか。また、三雄の2人との関係性。マクスウェル・ホワイトとは兄弟だとか、恋人だとか。ストリュース・レヴァノスとは険悪な仲だったとか、逆に同性愛者で濃密な関係を持っていたとか。線の細い、痩せっぽっちって説もあれば、逆に筋骨隆々で、三雄の中で一番体格が良くて、前線へ自ら切り込んでいく勇猛な性格だったとか。他には一切、魔術を使えなかったとか。無限の魔力を持っていた、とか。とにかく、最後の一人に関しては情報が多すぎて、絞り込めないっていうのが大きな理由だ。多くの名前を持っていた、って説もある」

 問題集を閉じ、セブンは未だ難しい顔をするシュザリアを見つめる。納得していないのがよく分かる。うーん、と唸りながらしきりに首を傾げている。きっと、この状態の彼女に何を説明しようと、明確な答えを与えない限りは何も頭の中に残りはしない。長い付き合いからそのことをセブンはよく分かっていた。

「そんなに気になるなら、学長に聞きに行くか?」

「学長に?」

「本当に三雄のマクスウェル・ホワイトが学長なら、知ってると思うだろ?」

 にやりとした笑みをセブンが見せる。シュザリアはぱっと顔を明るくして、立ち上がった。だが、セブンの目は動かない。

「……あれ? 学長のとこに行くんじゃないの?」

「とりあえず、お前の復讐が終わってからな。その上で、お前がまだ知りたいなら、いや、お前の知的好奇心が残っていた体力に勝っていたなら、な。座れ」

「セブンの意地悪……」

「何とでも言え。おれの知ったことじゃない」

 にべもなく言い放ってから、セブンは再び講義を始めてしまう。シュザリアは頬杖を突きながら、適当に聞き流すことを決めるのだった。


 翌朝。学院の門の前でセブンは守衛と世間話をしながら、時間を潰していた。出発の時間になったのにシュザリアがやって来なかったのだ。しかも、アークは昨日、部屋へ戻ってきてから開口一番に「グランギューロ・グランエイドの弟子になるから、悪いけどお使い一緒に行けない」と言い出し、来ていない。結果、一人で待ちぼうけを食らったままセブンは門のところにぼーっと突っ立っているのを不審がった守衛に事情を説明し、その流れで世間話をしていたのだ。

「しかし、その若さで王室付魔導騎士だなんて信じられんね」

「よく言われます」

「わたしなんか、頑張って試験を受けて、やっと魔導守衛だ」

「魔導守衛でも立派なものですよ。魔術学院を卒業したからといって、その全員が魔術師や、それに関わる職につけるという訳でもないのですから。魔導守衛と言えば、魔術の扱いに長けた、管理者ですから。やっと、なんて言葉で片付けるには惜しいものです」

 セブンと話している守衛の男性は今年で47歳になるらしい。少し疲れた顔をしている。

「夢を見て、魔導守護者になると息巻いていた頃が懐かしい。若さとは、いいものだ……」

 遠い目をする守衛男性。セブンが何か励まそうかと口を開きかけ、そこでやっとシュザリアがやって来るのを見た。

「では、連れが来たのでこれにて」

「ああ、行ってらっしゃい。道中、気をつけて。――魔導騎士に言うのも、なんだがね」

 苦笑で守衛男性に返してから、セブンはシュザリアの方へ歩み寄る。

「遅い」

「ごめん。寝坊しちゃって」

「野宿になっても知らないぞ。キャンプセットを今回は持ってきていないからな。順当に歩ければきちんとした宿で泊まれるが、この分だとどうなるか……」

 歩き出し、セブンが軽く脅してやる。すると、その効果が現れてシュザリアは苦虫を噛み潰したような顔になった。

「そんなあ……。ちゃんと歩くから、野宿はやめよ。ね、ね、セブン。お願い」

「ちゃんと歩くとは言っても、すでに出発が1時間ほど遅れてるしな。さて、どうなるか」

 はぐらかしながら、学院を出て街中を歩き出す。がっくりとうなだれるシュザリアを連れながら、セブンは久しぶりの二人旅だと気づいた。

「ね、セブン」

 不意にシュザリアがセブンの腕にしがみついた。満面の笑みが、何かをねだろうとしているのだとセブンに教えている。

「何だ?」

「転移魔法陣は?」

「そんなものを、たかがお使いで使うとでも? それに、あれは許可制だ。どこに敷いて、どことどこを繋ぐのか。それをきちんと報告しないと使ってはいけないことになっている。……お前の祖父らへんが決めたことだからな?」

「ぶー。面倒臭い……。あっ、じゃあさ、馬車は?」

「ない。全部、徒歩だ。健康的でいいだろう?」

 完全にシュザリアはうちのめされ、とぼとぼと歩く。ちゃんと歩く、と宣言したことなどすっかり頭の中から追いやられてしまったらしい。そんな彼女を見つめながら、セブンは小さく苦笑した。

魔業都市むこうに着いたら、とりあえず、美味いもんでも食わしてやるから元気出せ」

「本当っ?」

 ぱっとシュザリアの顔に満面の笑みが浮かんだ。ああ、と頷いて見せるとシュザリアがやる気を取り戻す。世話の焼ける姫君だが、こういう素直なところには救われる。従者として、セブンは本当にそう思った。

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