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No.15 お使い

 王立魔術学院ホワイトウイング。単位制。1コマ90分の講義が日に7時限まで開講されている。生徒はそれぞれ、必修科目さえ履修していれば問題はなく、それは週に10時限程度しかない。故に平気で休みの日ばかり多くなる生徒もいるのだが、成績を良くしようと思えば多くの講義を履修した方が良い。必修講義を全て受け、問題なく単位として認められ、それで初めて最低限の成績となるのだ。故に成績優良者というのは休みなく、毎日、毎時限、何らかの講義を履修している。――セブンの場合も同様で、彼は朝から晩まで、今さら習わずとも知っているようなことを学んでいた。

「ねえ、セブン。後でノート見せてっ」

 3限の講義「現代魔術論 Ⅲ-C」が行われる大講堂へ向かっている途中で、シュザリアがセブンに飛びついた。飛びつかれたまま、セブンはちらと目で見やってから歩き続ける。

「勉強が苦手なのは分かる。けど、講義の全てを寝て過ごして、挙句に悪あがきを企むのは往生際が悪いぞ」

「分かってる、分かってる。分かってるから、ノート丸写しさせて」

「絶対に分かっちゃない……。ったく、仕方ないな……」

 脇に抱えた教科書やらノートやらの束から、前の時間の講義である「古代魔術史 A」のノートを出し、それをシュザリアへ渡す。何だかんだ、説教じみたことを言いながらもセブンはシュザリアに甘いのだ。

「ついでに宿題、後で教えて」

「……夕食の後、331教室。借りとく」

「ありがと、セブン。じゃ、またねー」

 ぱたぱたとシュザリアが駆けていき、セブンはため息。履修の登録をする際、シュザリアに頼み込まれて学年に関係のない講義を取ったのが事の発端だった。セブンがいるという安心感からシュザリアは講義を睡眠時間に充てることが常になり、何かとその講義はセブンに頼りすぎている。

「おお、いいところにいたっ」

 不意に声をかけられてセブンは足を止めた。学院の事務員をしている青年が、後ろから走りよってくる。どうやら目当てが自分らしいことを察知し、セブンは振り向いて彼を待つ。

「何か?」

「セブン・ダッシュ君。きみ、公欠にしてあげるからぼくのお使いに行ってもらえないかな?」

 事務員のこの青年は、名をキールと言う。金色の髪は決して短くもないが、そう長くもない。年齢は22歳ではあるが、気さくで優しいところが一部の女生徒に人気もある。また教官や教授らからは誠実な人柄を評価されている。キールと大した話をしたこともないセブンだったが、何となく悪い人間ではないということは分かっていた。

「お使い……? 公欠にしてまで、何を?」

「きみ、魔業都市には行ったことあるかい? 魔業都市ガウセンフェルツ。そこの第4研究所に手紙を届けて欲しいんだ。道中、クラウンクラブが大量発生しているらしくて、民間人の通行が封鎖されているんだ。ぼくじゃあ、そこを通れない。かと言って、遠回りは出来ないんだ。急ぎの手紙なんでね。そこで、きみの出番だ。きみは王室付魔導騎士なんだろう? その肩書きがあれば、国内で立ち入れない場所はない。だから、頼まれてくれないかな? 少ないけど、手間賃も出させてもらうよ。いいかな?」

 キールが喋っている間に講義開始の鐘が鳴っていた。「現代魔術論 3-C」の教授は遅刻にうるさい。そして、論文を次々と発表しては高評価をされているセブンに嫉妬していて、嫌っている。今さら行ったところでねちねちと嫌味を言われたりするだけ。

「分かりました。じゃあ、頼まれます。今すぐですか?」

「いや、悪いけど……肝心の手紙をまだ書き終えてないんだ。明日の朝から、そうだな。2週間もあれば行って、帰って来られるね。その間、公欠扱いにするから、よろしく頼むよ。明日の朝までに、届けてもらう手紙を持っていくから。――あ、班で一緒の方がいいかな? きみは第七班だったね。そういうことで、明日から皆で行ってきてくれる? じゃあ、また」

 喋り尽くしてから、キールが鼻歌を歌いながらセブンの横をすれ違って行った。これから90分間、することのなくなったセブン。小さくため息をついてから、寮の自分の部屋へ行って荷物をまとめることに決めた。


「あれ、セブン。どしたの?」

 寮の部屋へ戻ってくると、アークがベッドの上でパンを齧りながら何やら広げた紙に向かっていた。セブンが入ってきたのを見て、その紙を丸めてベッドの下へ転がしてしまう。一応、隠したつもりらしいがセブンはしっかり見えていた。

「事務員にお使いを頼まれた」

「事務員……。キール?」

「ああ。魔業都市ガウセンフェルツまでな。明日から2週間、公欠にするから行ってきてくれって。しかも、班全員で。だから、お前も荷物まとめろ。シュザリアには後でおれから言っておく」

 粗方の事情を説明してからセブンは机の引出しを開けた。そこから、剣と龍をモチーフにしたデザインの指輪を出す。アークがそこを覗き込む。

「何、その指輪?」

「王室付魔導騎士であることを証明する指輪。コイツで封鎖されてる道に無理やり踏み入れってこと。あの事務員、あれでなかなかあくどいとこがありそうだな」

「えー? ないって。キールはいい人だよ」

「その根拠は?」

 大した興味も示さずに、セブンが言う。鞄の中に着替えの服を突っ込み、夜営用の折りたたみキャンプセットが壊れていないかを確認する。しかし、テントを広げようとしたところで骨組みが折れてしまい、舌打ち。

「この間、高いとこにあった本取ってくれた」

「お前、そこは男として絶対にコイツとは仲良くしねーって決めるところだぞ?」

「いいじゃん、別に。落し物を一緒になって捜してくれたよ」

「それ、確か学長の落し物騒動じゃなかったか? あれは職員として当たり前だし、生徒まで駆りだされたのに事務員が動かないのはあり得ないだろ。落し物をして、捜させる学長が一番腹黒いけどな」

 他愛のない会話をしていると、アークがつまらなそうに頬を膨らませた。いいもん、と勝手に拗ねてから悪魔の懐刀(デモンズ・ナイフ)を片手に出て行こうとする。

「どこか行くのか? ……そんなの持って」

「うん。ちょっと、グランギューロ・グランエイドのとこに行ってくる」

「そうか。向こうがああ言ってるのもあるけど、あれでも一応は国の要人なんだから無礼なことはしてくるなよ」

「分かってるよ。じゃ、行ってきまーす」

 アークが出て行くと、セブンは壊してしまったテントをどうしようかと腕を組んで考え込む。いっそ、新しいものでも買おうか。でも、そうそう頻繁に使うものでもない。腐るほど金はあるが、浪費するのは好きでない。

「よし、処分」

 そう決めてから、魔法陣を手の平に発動する。それは全てを消し去る業火を呼び出すもの。魔術を発動したまま壊れたテントに触れると、触れた傍からテントは消えていく。そうして簡単に文字通り消して処分してしまうと、一息ついてからベッドに仰向けに倒れこんでみた。

「ガウセンフェルツ、か……。あまり好きな場所でもないんだけどな……」

 小さな呟きはセブンの本音。

 魔業都市は、文字通りに魔業の発達した一大都市だ。時代の最先端を行く多くの魔業が日々、開発され、実用化されている。しかし、魔業はそのエネルギーを魔力によって補っているだけの機械。魔術具とは違って、魔法陣が必要なければ、誰だって指一本で使える。今の時代では古い考えではあるが、セブンは魔業というもの自体が好きになれなかった。

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