表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

【2杯目】 伝説の防具


 エルシャール帝国の帝都ラシフェンは眠らない。


 ここは帝都ラシフェンの歓楽街の一画。路地を入り込んだ場所にある隠れ家的な酒場『ルンウッド』。一見客(いちげんきゃく)ではたどり着くことが難しいために、店内は常連客で賑やかだ。


 トリニティ、イングリッド、アプリコットの三人組も、いつも通りに『ルンウッド』での週末女子会の真っ最中。



 「そういえばにゃ。この前、見ちゃったのにゃ」


 「なにをです?」


 トリニティは串焼きの串から外した肉を、すでに酔いが回っているアプリコットの皿に取り分けながら訊く。苦手な脂身の肉は、さりげなくアプリコットの皿へと回している。


 「あれにゃ。伝説のアーマーにゃよ!」


 「え!? うそっ!? アプリコットさん見たんですか!? えっー。見たかったぁ」


 「トリニティは見たことないの?」


 「ないですよ~。だって『伝説』のアーマーですよ? そうそうお目にかかれませんって。っていうか、イングリッドさんも見たことあるんですか?」


 「あるある」


 「え~。二人ともずるいです~。羨ましい~」


 「そんなに見たいならユーリッヒに頼むといいにゃ」


 「なんでユーリッヒさん……え!? まさかユーリッヒさんが着てたんですか?」


 ユーリッヒは三人の勤めるギルドに登録している上級魔術師だ。すらりとした長身なのでかなり目立つが、シャイな性格の恥ずかしがり屋のために、魔術師が好む黒いローブのフードをいつも目深にかぶっている。

 たまにフードを外すと、さらさら艶々な紫色の髪がこぼれる。その髪をかきあげる仕草がセクシー……と評判の男性である。


 「そうにゃ! 真っ赤なビキニアーマーにゃ! ユーリッヒはシャイだからローブをちらっとはだけて見せてくれたにゃ。もちろんブラも付けてたにゃ」


 「……えぇぇぇ……」


 「そういえばこの前、ユーリッヒは助っ人でダンジョンに潜ったんだっけ?」


 「そうにゃ。そのときに見せてくれたにゃ」


 「あのアーマーは布地最低限の面積しかないからめっちゃ軽いし、そこらの防具と比較にならないくらい魔術防御と物理防御が強力なんだよね。大型魔獣や上級魔族が出るダンジョンを攻略するなら、装備しておいて損はないね」


 「あの、性能は……凄いのは解るんですが……。……でも、ユーリッヒさんが……着てるんですか?」


 「トリニティ。それは問題発言だにゃ。現代はジェンダーフリーの多様性社会にゃ。性別で語るのではなく、人間として語るのにゃ~!」


 「はっ! ……すいません。そうですよね。なんか先週も同じようなことを言われたように思いますが。え、でも、ごめんなさい。ちょっと衝撃が大きくて……ユーリッヒさん……ビキニなんだ……」

 

 「ビキニじゃないよ。ビキニアーマーだから」


 イングリッドが訂正するも、トリニティは何を考えているのだか、口の中でぶつぶつと呟いている。


 「それにしても、シャイが過ぎて挙動不審なユーリッヒがよく見せてくれたねー」


 「仲良しだからにゃ」


 「アプリコットとユーリッヒってそんなに仲良かった?」


 「実はにゃ、ユーリッヒのお友だちの魔術師を紹介してもらおうと思って仲良くなったのにゃ」


 「うわぁ……やっぱりあざといですね」


 「黙れにゃ! そんなこと言うと上級魔術師の合コンに呼んでやらないにゅ」


 「あー、ウソです、ウソです。呼んでください! それにまた『にゅ』になってます」


 「にゅにゅにゅ☆」


 「アプリコットさん。私たちの前ではいいですけど。合コンではそれ、絶対にやらないでくださいよ」


 「なんでにゃ。真のアプリコットを知ってほしいにゃ」


 「アラサーの不思議ちゃんは、知る前に引かれます」


 「にゃんと!?」


 トリニティとアプリコットの下手な漫才もどきを眺めつつ、イングリッドは注文した丸い氷の入った琥珀色のグラスを受け取った。


 「そうそうトリニティ。なんで『伝説のアーマー』って呼ばれてるのか知ってる?」


 「? それはアレですよね。性能が優れているし、数が希少だから……『伝説のアーマー』なんですよね?」


 「あー……そっちで考えてたか」


 「違うんですか?」


 「トリニティはまだまだ世間知らずだにゃ」

 

 「アプリコットさんにだけは言われたくないです~」


 「にゃにおう!?」とイキるアプリコットを無視して続けるトリニティ。


 「イングリッドさん、なんでですか?」


 イングリッドはニヤリと口角を上げた。


 「肌の露出が半端ないでしょ? 性能はめっちゃ素晴らしいんだけど、恥ずかしくて着る人がほとんどいない……だから『伝説』なのよ」


 


 こうして今夜も『ルンウッド』での夜は更けてゆくのであった。

 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 確かに伝説ですね(笑) 上からローブを羽織っている時点でちょっとした罰ゲーム感があります。 前話のお人好し勇者候補も気になりました。 女子会楽しそうです。
[良い点]  一見は「アレのどこに防御力が…」と思いますよね。  さすがは魔法の世界!! きっと目に見えるものがすべてではないのですよね。  だからきっと、他の人から見えてる姿も実際とは違って……な…
[良い点] すっごく面白いにゃ! 拉致にビキニ……ぜええんぶツボにゃ♡ ビキニは服の上から着ても効果あるのかにゃ? それはそれで変態っぽいけどにゃ(*`艸´) [気になる点] 上級魔術師の合コン…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ