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悪食少女は今日も空腹  作者: 楪 逢月
1章「死の淵から蘇ったら先輩が闇堕ちしてた件」
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3話「えへ、秘密です」

まぁ私だから大丈夫だとは思ってたけど、まさかこんなに上手く行くとは。


「いやあお嬢さんは短剣の扱いに長けていらっしゃいますねぇ。余程いい師匠がいらっしゃったのでしょう」

「えへへ。そんな、褒めすぎですよぉ」


 立派な髭を蓄えたおじさん……お名前を、ジョーンズさん。なんでも彼はヤグルマ村出身の人で神竜都とこの村の間を行き交う、主に食品関連を扱う商人をしているらしい。

 しかし彼は大きな商会に仕えるでもない、ただの個人商。金銭的に大きな余裕があるわけでもなく、毎回神竜都に向かう時は安い護衛を雇ったり、なんなら護衛なしで1人旅なんて無謀なことをしているんだとか。私が知る5年前の状況なら、無謀どころではなく自殺行為なのだが。


(昔から運はいいんだよなぁ)


 まさかこんなに私が求める条件に合致している人間が、今日たまたま神竜都に向かおうとしているとは。先程倒したエネミーを駆動馬車の邪魔にならないように草原の方へ転がしつつ、私は再び馬車の荷台に乗った。


 エネミー。それはこの世界にある魔力、その残骸から生まれた特異生命体。魔力の集合体であり、知能はほぼない。黒い影のような人型で、魔力を持ってる人間やその他種族を狙って襲いかかってくる。それが彼らの生存本能ゆえ、同族争いだって彼らの間では珍しくない。

 で、もう一種類人類の敵な存在がモンスター。これは野生の獣とか植物が魔力に汚染され変質した生命体で、元の生き物の知能が残ってるためエネミーより厄介だ。……ちなみに、人間も時にはモンスターになり得る。件のウロボロスは、どっちかと言えばモンスターだ。


 ウロボロスを私が食べてエネミーもモンスターも全滅したものだと思っていたけど、どうやらそう上手くは行かないらしい。師匠が前、魔力の残滓というものはこの世界には無数に存在しているとか言ってたっけ。魔力の残骸を撒き散らしまくるウロボロスが消えても、魔法がある限り彼らは存在し続ける。全滅なんて夢のまた夢なのかも?


「お世辞なんかではありませんよ。もしかしてこれから神竜都に向かうのは、新しく師事を受けに行くためなのでしょうか?」

「えへ、秘密です」


 ジョーンズさんの世間話を軽く流しつつ、私はちょっと勿体なかったなぁと徐々に遠くなっていく黒い物体を見送った。あーあ、折角のご飯。なんて、口に出したらまず間違いなくドン引きされる言葉を飲み込みつつ。


 ここらで1つ、私ラペちゃんの特技をお教えしよう。以前にも私は化け物レベルの魔力領域を持ってるとは教えたとは思うが、具体的にそれがどうすごいのかをってことだ。


 まず魔力と、魔力領域について。まぁ簡単に例えるなら前者が水、後者がコップだと思えばいい。でも基本的にその水は蒸発しやすく、ただ生きてるだけでも少しずつ減っていく。私たちはその水が尽きないようにご飯を食べたり寝たりと、そう言ったエネルギー補給や休憩を取るのだ。

 私の場合、殆どの人がコップの領域が風呂桶……いいやいっそバスタブ並とでも言うべきか。故にウロボロスとかいう大量の水も上手いことたぷんたぷんになるくらいでどうにか出来た、のだと思う。正直魔力学について詳しくは無いからこの辺の説明で勘弁願いたい。


 で、そんな魔力領域といっぱいの魔力を抱えましたかわい子ちゃんなラペちゃん。そんな私が戦闘においてどんな技を1番得意とするかと言うと、それは食事である。

 ……それは特技じゃない、そもそも戦いと関係ないって? いやいや、立派な戦闘特技である。私はなんと魔力領域を胃袋に見立てて、モンスターを丸ごと捕食できる。世界規模で見ても使い手の少ない魔力吸収(マナイーター)魔力変換(マナコンバーション)の2つの使い手なのだ。つまるところ、魔力だけの生命体のエネミーは大好物。


「ペコさんと仰いましたね。先程の戦闘では使っていませんでしたが、魔法は不得意なのでしょうか?」

「えへ、実は……だから短剣術を叩き込まれたんです」

「それはそれは。苦労をなされたことでしょう」


 ……とはいえ、今回の旅ではこの2つを使うことは出来ない。偽名(いつか師匠に挙げられた名前候補の1つだ)にサラッとお返事をしつつ、私はこっそり溜息を吐いた。先程も述べた通り、私の最も得意な魔法はとにかく使い手が居ないことで有名なのだ。


 まぁ大前提として先の喩えで言う桶くらいの魔力領域が必要だから致し方なし。この世界において一般的なのは火、水、風、土の4属性魔法。それに加えられるのが、マイナー極まりし属性のない無属性魔法。私の使う魔法は無属性に該当する。そうしてその副作用というか……私は基本的には誰でも使える4属性魔法のどれもが使えない、まぁ一種の病気みたいなものを患っている。とても不便。

 しかし無属性魔法の使い手。その希少性と言ったら、何の庇護もないスラム街の子供ですら神竜様自ら引き取られるほど。かくいう私がその口だ。


 なのでジョーンズさんとの旅では、短剣使いラペちゃんということにしておく。一応短剣の扱いには自信があるのだ。その辺の新人魔法使いよりは護衛を真っ当に務められるだろう。なんせ師がいいもので。


「ジョーンズさんは得意な属性魔法とかあるんですか?」

「風ですな。強風は目眩しになりますし、逃げる時にも追い風や向かい風を作れます」

「いいですねぇ」


 ちなみに私とウロボロスの討伐に行った3人はどれも最低桶並の魔力領域持ちで、誰もが4属性でも無でもない特殊魔法を得手としていた。別名神術とも呼ぶ。っていうかそのレベルの力じゃないとウロボロスを倒せる見込みがなかったのだ。まぁ結局決定打になったのは私なんだけどね!

 時空魔術のラクヨウ、聖典を読める耳目を持つリリー、そして龍の身体能力と繧繝剣技を扱う先輩。これらは才能とかそういうんじゃない。まぁそういうのも多少あるけど、今述べた3大神術には血筋的なものが関わってくる。

 

 私と旅をしていた3人は、そもそも人間じゃないのだ。


「おっと、そろそろ野営の準備をしましょうか」

「……はい、そうですね」


 ……あれ? 今の私って人間なのか? 唯一人間代表として頑張っていたつもりだったけれど、ウロボロスを飲み込んだ今となっては何か別のものに変容しているような。

 そんなことを考えている間に、ジョーンズさんとの旅は順調に進んでいった。時折出てくるエネミーを千切っては惜しみながら投げ、野営の間にほのぼのと世間話をして。そうしてヤグルマ村を出発して5日後、私達はあっさりと神竜都ルキナへと到着するのだった。

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