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  the last battle III

「気が付かないワケないでしょう、折角冷ましていたのにぃ」

「『飯は熱いうちに喰え』って言っていたから、冷ますのもナンだなぁって思ったのよ」


 頬張っているお好み焼きを飲み込み、そして続けて鯖の味噌煮を口に運ぶ。


「信じられない。それでも貴女、副社長なの?」

「その言葉、そっくりそのままアンタに返すわ。そもそも社長の自覚がないのよねぇ。すぐに逃げ出すし」


 言い返せずに言葉に詰まっているリエを尻目に、ミリアムはいつの間にか鯖の味噌煮を綺麗にたいらげていた。そしてリエは、まだ熱いお好み焼きに悪戦苦闘していたりする。


「マスター、ご飯とヤキソバ頂戴。あ、みそ汁もね。味噌は白味噌、具はナメコが良いな。あるでしょ?」


 冷ましながら、そんな無茶なことを言うリエだった。そしてそれを聞いていたミリアムはというと、


「炭水化物ばかり摂ってどうするのよ。ご飯をおかずにご飯を食べる様なものでしょ? そもそも、此処にそんなモノ……」


 無いでしょ。と言いたかったが、鯖の味噌煮があっただけに断言出来ないミリアムだった。


 そして横目でフィンヴァラを見る。彼はグラスを並べる手を止め、


「アリマスヨ」

「……やっぱり……」


 脱力感に襲われるミリアムだった。


 だがそんなことをしていても腹は膨らまないと判断したのか、すぐに立ち直るとメニューを睨み始めた。

 そして奧に引っ込んでいたフィンヴァラが戻ったのを確認してからメニューを閉じ、一呼吸置いて言った。


「ベーコンとほうれん草のペペロンチーノって、ある? 唐辛子とニンニク抜きで」


 それもメニューにないものだった。だがやはりフィンヴァラは、


「アリマスヨ」


 そう言って奧に引っ込む。


「侮り難し、セフィロート」

「……いやペペロンチーノで唐辛子とニンニク抜きって、それ既に別物なんじゃ……」


 わけの解らないことを言いつつ、拳を握り締めるミリアムだった。


 そしてリエのツッコミ呟きは完全スルーである。


 その後二人は暫く其処で食事を堪能し、そして空腹が満たされ食後の緑茶を飲み干してから席を立つ。


「マスター、会計お願い」


 ミリアムがそう言い、カードを出す。リエはと言うと、さっさとコートを着てエントランスに向かっていた。


 支払いをする気は、一切ない。そしてそれが当初の約束でもある。


 あの薄情者。そう思いつつ金額を言うフィンヴァラにカードを渡す。彼はそれを指先で撫でただけで返し、領収書を渡した。


「イッテラッシャイマセ」


 そう言うフィンヴァラに手を振り、リエとミリアムはセフィロートを後にした。


 そしてタクシーを掴まえようとするが、この日に限って一台も走っていない。


「こういう日は、なにをしたって掴まらないんだよね」


 溜息混じりでミリアムが言う。それにリエも頷いた。


「それもこれも、全部あの中央公園でやっているイベントが悪いんだ。問い合わせの電話しても全然繋がらないし。そもそもスポンサー様になんの連絡もなしで番組変更するんじゃないわよ。おかげでファルが頼んでくれた出前、食べ損ねたじゃない」


 まだ言っているよ。そんなことを考えるミリアムだが、こればかりは文句の付けようがない。一方的に自分が悪いし。


「こうなったら中央公園突っ切って、歩いて帰ってやる」


 それは意味が解らない。


 そう思ったが口に出さず、ただ「はいはい」と言っただけでその肩を軽く二回叩いた。

 そして次々と文句を言うリエを半ば無視して、そしてその背を押しながら歩き始める。


 だがその二人を、何処からともなく現れた三人の女が取り囲んだ。皆戦闘服に身を包み、そしてその手には重火器が握られている。


「あれ、どちら様?」


 頭を掻きつつ、リエが訊く。するとその一人が口の端を吊り上げて嗤い、その足下に高圧レーザーを打ち出した。


「……ねぇ、ミィ……これってピンチってヤツ?」

「……そうみたい。でもどうしてあたし達なんかを……」


 其処まで言うと、一人が突然銃のグリップでミリアムの側頭を殴りつけた。それだけで皮膚が破れ、彼女の顔が鮮血で染まった。


「ミィ! ちょっとアンタ、なんてことをするの……よ……」


 そしてその額に、銃口が突き付けられる。リエは、倒れたミリアムを抱きかかえたままその動きを止めた。


「ね、ねぇ、話し合おうよ。私なんかを狙ったって、一銭にもならないよ」


 自分が〝結界都市〟随一の収益を上げている会社の社長だということを、すっかり忘れているらしい。


 銃口を向けているその女性は無表情で近付き、その引き金を引いた。


 銃口が眩い光を放ち、そして打ち出された高圧レーザーは狙い違わずリエの頭を撃ち抜く――筈だった。


 その女がリエに突き付けている銃口は、横から飛び出したオレンジ色の物体の亜音速体当たりを綺麗に頭に喰らい、その身体が美事(みごと)に半回転して狙いを外し、有らぬ方へとそれは消えて行く。


 それと同時にアスファルトを陥没させるほど激しく強かに頭を打ちつけ、その女の視界は一瞬ブラックアウトした。


 そして横から飛び出したオレンジ色の物体は、リエの正面に正義の味方よろしく立ちはだかって一言――


「ぷきゅう」


 ――と言った。


 いや、鳴いた。


「へ? これって『まぁぶる』?」


 突然の出来事に面食らったのか、目の前にある物体を凝視してそんなことを言う。


 そしてその物体――『まぁぶる』はそれに答えるかのように、更に続けて「きゅう」と鳴いた。

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