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 impossible is made possible VII

 それはT-REXを消し飛ばしたときとは比べ物にならないほどのもの。


 そしてリケットの左手に実刀(ブレード)が現れる。


 抜群の切れ味を誇るそのブレードの材質は、炭化タングステンすら切り裂く変幻自在の疑似金属〝サイコ・マター〟。


 ブレードを持つ手を降ろしたまま自分を見上げるリケットをスキャンし、マーヴェリーは混乱した。


 彼の中に埋め込まれている〝タイム・チャージ〟が、高速稼働し膨大なエネルギーを発している。


 幾ら高性能なそれであっても、そこまで高速稼動することはない。


 それにあのサイズのものは、短期間では子供の玩具を動かす程度のエネルギーしか発しない筈。


 それを高速稼動出来るもの――可能性は、ひとつしかない。


「……『脳が疲れる』と言いましたね? そして〝タイム・チャージ〟の高速稼働……まさか、貴方は……」


 その瞬間。


 ()()()()()()()()


 それを見るのが可能なのは〝PSI(サイ)〟の一部の能力者でしかない。


 その能力とは――


 全ての動きが止まっていた。


 人々も、風も、大気の流れも。


 そして――時間すらも。


 止まっていた時間はほんの僅か、数瞬でしかない。


 だがリケットにとって、それだけで充分。


 両足のモーターが膨大な力を発して地面を蹴った。


 そして白色に輝く全身が、その光の軌跡を残しつつマーヴェリーへと迫る。


 リケットの身体から離れた光粒子の残滓もその場に凍りつき、動かない。


 ――そして時は動き出す。


 その場に凍りついていた光の粒子が霧散する。


 風が再び渦を巻いて動き出す。


 そして、マーヴェリーも。


「Good die」


 リケットのその言葉を聞いたとき、彼は自分の死が最も身近に迫っていることを知った。


 そしてそれを変えることは、もはや不可能であるということも。


 マーヴェリーの身体を、鋭いなにかが滑るように通り抜けた。


 それが冷たい金属であると認識出来るほど、彼の頭は清明だった。


 彼はそのまま地面に降り立ち、立ち尽くす。


 風は、止んでいた。


 もはやそれを続ける必要がなくなったから。


 そして既に降り立ち、自分に背を向けてしゃがみ込んでいるリケットを見た。


 その全身を包んでいた光は、もう消えている。


「反則ですね……貴方は狡い。我々の知識を超える〝能力〟を持ち、そして常識すら覆している。何処の世界に、脳と神経系を全く弄っていない〝サイバー〟がいるのです? 貴方は〝サイバー〟などではない……そして〝ハイパー〟でもない……只のヒト――いえ、あの〝能力〟を持っている時点で、既に貴方はただのヒトではない……。一つ、訊きます。貴方は、何処から来たのですか? そして……何処へ行こうというのです? その〝能力〟は、この『世界』に在ってはならないものです……」


 その質問に、やはりリケットは答えない。そしてそれは予想出来ていた、解っていた。


 それに……もしかしたらリケット自身、自分が何者かも解っていないのかも知れない。


 答えないリケットを見下ろし、マーヴェリーは笑った。


 所詮、自分は此処までの生き物でしかない。


 いや、生き物ですらないのかも知れない。


 何故なら、自分はコピーだから。


 強力な〝能力〟を行使するオリジナルには、到底敵わない不良品。


 だがそれでも、その優秀な頭脳と解析能力は貴重だった。


 だから自分は……いや、自分達は其処に存在していたのだ。


 そして其処にしか、存在出来ない。


 マーヴェリーの身体が脈打ち始めた。リケットによって斬り裂かれた箇所を〝能力〟で接合していても、限界がある。完全に断ち切られたものは、自身ではもう二度と戻らない。


〝結界〟に展開してある風景が消え去り、其処にはリケットとマーヴェリーの二人しか存在しない。


 そして周囲も、耳が痛くなるほど静まり返っている。


 司会も観衆も、なにが起きたのかを全く理解出来ずに、ただその成り行きを見守るしか出来ない。


 そのとき、この後どのような展開になるのかを固唾を飲んで見守っている全ての人々の目の前で、突如耳を覆いたくなる様な轟音と共に漆黒の物体が現れ、〝結界〟に侵入した。


 そして滑らかな断面を見せて崩れていくマーヴェリーの身体を喰い尽くすように吸い込み、やがて宙に静止する。


 その漆黒の物体から、一人の男が姿を現した。


 逆立った灰色の髪、鋭い深紅の瞳、体幹を包んでいる戦闘服。


 そして……その両四肢は機械が剥き出しで、所々に何故か包帯が無造作に巻かれている。


「よぉ、待たせたな。ケリぃ付けに来てやったぜ」


 男は静かにそう言った。


 だがその静かな口調とは裏腹に、それに込められているのは、殺気と殺意。


 機械仕掛けになった手の具合を確かめるかのように離握手を繰り返し、しゃがみ込んでいるリケットを見下ろしている。


 其方に一瞥すら与えず、ゆっくりと立ち上がった。


 その左手にはまだブレードが握られている。


 一度眼を閉じ、そして開く。


 その藍色の双眸は、冷たい青に変貌している。


 首にぶら下げているネックレスが、自ら意志があるかのように蠢き、その三日月のペンダントヘッドが顔を出す。


 そして……リケットは男――バグナスを見上げた。

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