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 impossible is made possible V

 リケットはそれを静かに一瞥し、捨てた。使えなくなったものをいつまでも持っていても、邪魔になるだけだから。


 だがその一瞬の間に、リケットに隙が生じた。


 再び移動を開始しようとしていたリケットを、カーリーが羽交い締めにする。

 そして正面にいるシバの額に眼が現れ、強力なエネルギーが集中した。


 それは、全てを破壊する光学兵器。


 雪を蒸発させて膨らむそれを見詰めるリケットの全身が白色に輝き、そしてカーリーの腕を振り解いて体勢を入れ替える。


 シバの額の眼――第三眼からエネルギーの塊が打ち出された。


 その先にあるもの――カーリーは避けようとしたが、間に合わない。


 その膨大なエネルギーがカーリーの左半身を文字通り消し去り、被っている宝冠が転げ落ち、雪に埋まった。


 その出来事を理解出来なかったのか、シバはその場に崩れ落ちるカーリーを呆然と眺め、そして視線を再びリケットに戻したそのとき、


「〝Equipment of Molecule Collapse by a High-pressure Electric Current〟」


 打ち出された鋼の鞭が、シバの右半身を消し去った。


 そして〈EM(エム)C(シー)HEC(ヘック)Breaker(ブレイカー)!=〉を使ったリケットも、その場に膝をついて動かなくなった。


 さきほど摂取したカロリーを殆ど消費してしまったようだ。


 一度だけ眼を閉じ、ゆっくりと開いて立ち上がる。エネルギー残量は少なく、全力では長く戦うことは出来ないだろう。


 リケットは懐にある煙草を取り出し、火を点けた。実はこれはフィンヴァラが作ったもので、僅かだがカロリーを摂取することが出来る。だがそれも一時的なもの。すぐに消費されてしまうだろう。


 煙を吐きながら、ゆっくりと周囲を見回す。吹雪は止んでいない。そして景色も変わっていない。


 怪訝に思ったのか、倒れているシバを見下ろすが――いなかった。


 そしてカーリーは――立ち上がっていた。


 消え失せた半身は、シバと同化しいる。既にその接合部はなく、完全に一体化していた。


 シバとカーリーが同化した『それ』は、左腕を振り上げてリケットに殴りかかる。


 それを後退して避け、『それ』から離れた。そして煙草を吐き捨て、自分の残ったエネルギーを計算する。


 残量は……既にない。電撃一回が限界だろう。


 空気を切り裂くほど鋭く斬りつける曲刀を避け、衝撃波を生む拳から離れる。だがそれにも限界があり、遂にその衝撃波をまともに受けてしまった。


 鮮血が飛び散り、純白の雪を濡らす。そしてリケットの白い顔も、鮮血で深紅に染まった。


 血に染まるリケットに、『それ』の曲刀が迫る。


 その切っ先を右腕で受けた。金属同士が激しくぶつかり、火花を散らす。


 だがその衝撃すら受けきれず、()()めくリケットの身体に衝撃波が叩き付けられた。


 その衝撃で、その身を守る戦闘服が弾け飛ぶ。


 だがそれで終わりではない。


『それ』は続けざまに衝撃波を叩き付ける。


 降り続く雪が、赤く染まった。


 両腕を下げ、そのまま為す術もなく立ち尽くすリケットに止めを刺すべく、『それ』は曲刀を振り上げる。


 それは勝利を確信した必殺の一撃。


 だが曲刀を振り上げる『それ』の眼とリケットの眼が一瞬だけ合い、それだけで『それ』の動きが僅かだが止まった。


 リケットは後方へ跳び、そして鞭を打ち出しその首に絡み付ける。そして電流を放った。


 だがそれは雪を溶かすだけの出力しかなく、『それ』は溶けた雪に包まれただけだ。


 しかし、それで充分。


 降り続く雪が、極低温の大気が、水に濡れた『それ』を瞬時に凍結させる。


 如何に強力な力と電撃をも無効にする機能があろうと、その自然現象に勝てる筈がない。


 生体や機械などの区別など一切関係なく、動かなくなるから。


「Good die」


 動きが止まった『それ』の頭に手を掛け、そのまま砕いた。


 それは、リケットの勝利を意味している。


 だがその代償はあまりに大きく、立っていること自体が信じられないほど消耗していた。


 懐を探り、そして煙草の箱を取り出す。


 残り一本。


 それを咥えて火を点け、深く吸い込んだ。そこからエネルギーが急速に吸収され、僅かだがその身体を満たしていく。


『凄い! 凄い! 凄い!! またまた勝利を掴んだねぇ! 一体君は何者だい? 大抵の〝サイバー・ドール〟は一度全力で戦うと続けての戦闘は困難なんだけどねぇ。おやおや、そろそろ限界かな? だがこれも仕事だから、恨まないでくれたまえ! さて、実は此処からがメインイベントだぁ!!』


 絶叫する司会に答えるかのように花火が上がり、観衆が熱狂の声を上げた。


 観衆は、既に当初の目的を忘れてしまっているようだ。そして更に、これ自体が殺人ゲームだということに、一体何人が気付いているのだろう。


 きっと殆どの者がそれに気付かず、ただ熱狂しているのだろう。


『さあ、次に登場するのは「ウルドヴェルタンディ・スクルド」最強の〝PSI(サイ)〟の一人、大気と気温を操る男、〝風使い〟マーヴェリーだぁ!!』

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